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カラスをだます
 [自然科学]

カラスをだます (NHK出版新書 646)  
塚原直樹/著
出版社名:NHK出版(NHK出版新書 646)
出版年月:2021年2月
ISBNコード:978-4-14-088646-5
税込価格:935円
頁数・縦:254p・18cm
 
 カラス(料理)研究家にて、カラス駆除を専門とする(株)CrowLab代表を務める塚原氏によるカラス本。
 いかに「賢い」カラスを騙して、「いてほしくない場所」から「いてもいい場所」に誘導するかが本書の最大のテーマ。そのためにはカラスの習性を知り、カラスの「言葉」を理解しなければならない。さらに、捕獲したカラスの死を無駄にしないため、食料としてのカラスを追求する。
 
【目次】
第1章 カラスを動かす
 カラス誘導大作戦
 マヨラーぶりを利用する
  ほか
第2章 カラスになりきる
 カラスが見ている世界
 カラスが嗅いでいる匂い
  ほか
第3章 カラスとしゃべる
 鳴き声研究の苦労
 カラスの「声帯」解剖
  ほか
第4章 カラスを食べる
 カラス料理を趣味から仕事にする
 ヒトにとっての新規タンパク源として
  ほか
第5章 カラスを減らす
 対策を科学する
 これが有効な対策だ
  ほか
 
【著者】
 塚原 直樹 (ツカハラ ナオキ)
 (株)CrowLab代表、カラス料理研究家。1979年、群馬県桐生市生まれ。宇都宮大学農学部卒業、宇都宮大学大学院農学研究科修士課程・東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程修了。論文「ハシブトガラスの発声に関する研究」で博士(農学)。総合研究大学院大学助教を経て現職。宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター特任助教も務める。
 
【抜書】
●紫外線(p62)
 カラスが(一般的に鳥類も)紫外線に強い理由。
 普通、紫外線は目の組織を痛めやすい。
 カラスの角膜は脂っこい。さらに、脂質を運ぶタンパク質が大量に含まれている。
 紫外線によって脂質が先に酸化されることで角膜を守っている。酸化された脂質をタンパク質が運び、肝臓で代謝されて無毒化されるのではないかと考えられる。
 実際に、角膜とレンズ(水晶体)の間にある眼房水を分析すると、酸化された脂質が多く含まれていた。
 この研究の成果は、雪目などの目の日焼けを防ぐ目薬の開発に結びつくかもしれない。
 
●カプサイシン(p67)
 鳥類はカプサイシンの刺激を感じにくい。鳥と唐辛子の共進化。
 鳥類は、種を遠くまで運んでくれる。唐辛子は、哺乳類には食べられないようにカプサイシンを蓄えている。
 
●カラスの鳴き声(p116)
 ハシブトガラスの主な鳴き声。
 ① 「アー」という優しい鳴き声。コンタクトコール、「挨拶の鳴き声」。
 ② 「ア〜〜 ア〜ア〜ア」という長めの鳴き声。存在のアピール。自分の居場所を仲間に知らせる。「俺はここにいるぜ!」
 ③ 「アッ アッ アッ アッ」という、平板な短い鳴き声の繰り返し。餌を見つけたときの鳴き声。仲間が集ってくる。「食べ物見っけ!」
 ④ 「グワ〜〜ワワ」という震えた鳴き声。求愛。求愛給餌の際に発している。
 ⑤ 「アッ アッ アッ」という強く短い繰り返し。警戒の鳴き声。「怪しいやつが来た! 気をつけろ!」
 ⑥ 「ガーガーガー」という濁った声。威嚇。攻撃の臨戦態勢に入っている。「おどれぇやんのか!」
 「カー」という澄んだ声で鳴けるのがハシブトガラス。ハシボソガラスは「ガー」という濁った声でしか鳴けない。
 
●ソングバード(p122)
 カラスは、スズメ目のスズメ亜目に属する「ソングバード」に分類される。多様なフレーズを複雑に組み合わせ、歌のように構成して一定時間にわたってさえずる種。カナリアなど。左右の鳴管筋がそれぞれ独立した神経支配となっている。左の脳が左の鳴管筋を、右の脳が右の鳴管筋を動かしている。
 カラスはソングバードに属するが、鳴管筋を操る神経が交差しており、左右独立していない。複雑なさえずりを発する能力を捨て、多様な発声を行う能力の方を獲得した結果と考えられる。生態ピラミッドの頂点にいるカラスは、ハンディキャップ理論が示唆する「複雑なさえずり」が不要だった?
 
●カラス肉(p160)
 カラス肉は、高タンパク質、低脂肪、低コレステロールで、鉄分とタウリンが豊富。
 カラスの胸肉は、タンパク質20%、脂質3%、コレステロール16mg/100g、鉄分9.2mg/100g。
 牛の肩ロースは、タンパク質17%、脂質26%、コレステロール73mg/100g、4.3mg/100g(レバー)。
 鶏の胸肉は、タンパク質24%、脂質2%、コレステロール73mg/100g、鉄分0.3mg/100g。
 タウリンは、カラス270mg、牛48mg、鶏14mg(いずれも100g中)。タウリンは、肝機能を活発にし、血液中のコレステロールや中性脂肪を減らす効果があるアミノ酸。
 カラスの肉を味覚センサー「レオ」で分析。牛、豚、鶏と比べて酸味が強く、甘みが弱い。
 カラス料理は、100年以上前のフランスのレシピ本に登場する。Leon Pigot著La Chasse Gourmande ou "l'Art d'accommoder tous les Gibiers" Encyclopedie du Chasseur(「すべてのジビエ料理法」:狩人の百科全書)。
 韓国では、滋養強壮の漢方として人気があった。サムゲタンのようにして食べられていた。
 日本でも、かつて長野や秋田で「ろうそく焼き(カラス田楽)」として食べられていた。カラス肉をミンチにし、豚肉や味噌、ねぎ、生姜、ニンニクなどの薬味と一緒に叩き、つくねのように割り箸などに巻きつけて焼く。
 カラスの可食部はほぼ胸肉のみ。大きい個体でも1羽から100gくらいしかとれない。
 
●カカシ効果(p187)
 カラスが一時的に警戒して来なくなる効果。
 カラスは、カカシが人間だと思って警戒するのではない。
 カカシ効果とは、「なにこれ、なんかある」「近づかないでおこう」という反応を引き出す力のこと。カラスは、単に新しいものに用心する。
 
●モビング(p191)
 オオタカがカラスを襲った場合、多数の仲間が集ってきてオオタカを追い払う。モビング。
 
●無自覚な餌付けストップ! キャンペーン(p232)
 食料ゴミや農作物の投棄放置などが、カラスの餌となる。これらの餌資源を、冬の1週間に絞って徹底的に出さないようにする。
 代謝が高く、脂肪の蓄えのないカラスは、4日間食べないと餓死すると考えられる。環境収容力に見合った個体数のみしか生き残れず、カラスの数を減らせる。
 
●カラス版ボードゲーム(p236)
 イノシシ対策のボードゲームを開発した、東京大学元特任教授の今井修の協力のもと、「カラス版ボードゲーム」を開発した。
 ゲームの狙いは、環境収容力を理解してもらうこと。
 プレイヤーは住民役、行政役、カラス役に分かれる。
 住民役……カラスの餌を減らす。
 行政役……対策を実施することでカラスを増やさないようにする。
 カラス役……数を増やすことを目的とする。
 1ターンごとに季節が変わる。春・夏・秋まではものすごい勢いでカラスが増えるが、冬になると森の餌がなくなり、カラスは行き場を失って他のエリアに移動するか、餓死することになる。
 
(2021/4/29)NM
 
〈この本の詳細〉


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