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都市で進化する生物たち “ダーウィン”が街にやってくる
 [自然科学]

都市で進化する生物たち: ❝ダーウィン❞が街にやってくる
 
メノ・スヒルトハウゼン/著 岸由二/訳 小宮繁/訳
出版社名:草思社
出版年月:2020年8月
ISBNコード:978-4-7942-2459-0
税込価格:2,200円
頁数・縦:335, 14p・19cm
 
 地球を改変し続ける人類。そんな人間たちの多くが暮らす都市は、今後、全陸地の10%を占めるまでになるという。都市という環境は、人間以外の生物にとっても「自然」でありふれた環境となっていくのだ。しかも、うまく適応できれば、森や荒れ地よりも棲みやすいかもしれない。
 そんな視点から、都市で暮らす生物たちの進化の実態を論じる。人新生は、生物たちにも大いなる進化を促しているようだ。 
 
【目次】
はじめに 都市生物学への招待
1 都市の暮らし
2 都市という景域
3 都市は出会いだ
4 ダーウィン的都市
おわりに 都市で生物を進化させるために
 
【著者】
スヒルトハウゼン,メノ (Schilthuizen, Minno)
 1965年生まれ。オランダの進化生物学者、生態学者。ナチュラリス生物多様性センター(旧オランダ国立自然史博物館)のリサーチ・サイエンティスト、ライデン大学教授。
 
岸 由二 (キシ ユウジ)
 慶應義塾大学名誉教授。生態学専攻。NPO法人代表として、鶴見川流域や神奈川県三浦市小網代の谷で“流域思考”の都市再生・環境保全を推進。鶴見川流域水委員会委員。
 
小宮 繁 (コミヤ シゲル)
 翻訳家。慶應義塾大学文学研究科博士課程単位取得退学(英米文学専攻)。専門は20世紀イギリス文学。2012年3月より、慶應義塾大学日吉キャンパスにおいて、雑木林再生・水循環回復に取り組む非営利団体、日吉丸の会の代表をつとめている。
 
【抜書】
●都市化する生物(p15)
 地球上の生態系に対する人間の支配力が非常にゆるぎないものとなった結果、地球上の生命が、全面的に都市化していくこの惑星への適応手段を進化させる過程にある。
 2007年、都市に居住する人間の数が農村地帯の人口を上回った。21世紀の半ばまでに、推定93億の世界人口のおよそ三分の二が都市に暮らすことになる。
 2030年までに、地球の陸塊の10%近くが都市化され、残りの大部分も人間によって改変された農場、放牧地、プランテーションで覆われることになるだろう。
 
●生態系工学技術生物(p32)
 クライブ・ジョーンズ、ジョン・ロートン、モシェ・シャカクらによる造語。1994年『オイコス』誌に載った論文で使われた。
 「生態系工学技術生物とは、生物的あるいは非生物的素材の物理的状態に変化話生じさせることによって、他の生物にとっての資源の有用性を調整する……(中略)……生物のことをいう。こうした働きによって、生態系工学技術生物は生息地を改変し、維持し、また創造するのである」。
 アリ、シロアリ、ビーバー、サンゴ、など。そして人間。
 
●島嶼生物地理(p54)
 1960年代に、昆虫学者のエドワード・O・ウィルソンと理論生態学者のロバート・マッカーサーが作り上げた生態学理論。
 一群の島(断片化し孤立した生息地)を想定した場合、それぞれの島に棲息する種(例えばチョウ)の数を決める条件は二つ。島に到達できるチョウの種数、その島においてチョウの種が絶滅する速さ。
 島が小さければ小さいほど、そして本土から遠く離れていればいるほど、チョウは到達できず、したがって定着しない確率はそれだけ高くなる。
 一種類のチョウがそこに定着した場合、そのチョウの生存はやはり島の大きさにかかっている。
 およそ、島の規模が10倍になるごとに、見出される種の数は2倍になる。
 
●都市の多様性(p72)
 田園―都市縦断トランセクトを実行すると、都市部における生物多様性の下落幅は予想ほど大きくない。
 植物と、場合によっては昆虫についても、ときに都市部が多様性の頂点となることさえある。
 田園―都市縦断トランセクト……田園から都心への環境傾度に沿って方形の調査区を無作為に抽出して生物の多様性を調査する。
 
●外来種(p75)
 ヨーロッパおよび北アメリカの都市では、野生植物の35~40%が外来種。
 北京の都心部においては、外来種が53%。
 ある区画において植物の種類の多様性を決定するのは、その近所の住人たちの富裕度だという調査結果もある。「贅沢効果」。旅行と交易、手入れの行き届いた庭からの外来植物の絶え間ない逃避が要因。
 
●非合法(p78)
 都市周辺の田園においては植物の種数が減っているが、都市の内部においては増えている。
 〔田園では罪を問われ非合法とされる雑草が、都市の城壁の内側に避難場所を見出したといってよいのではないか。〕
 
●コヨーテ(p79)
 シカゴ市内には、現在、推定2,000匹を超えるコヨーテがいる。鉄路に沿ってうろつき回り、信号待ちをし、車庫の屋根の上で子育てをする。
 田園のコヨーテに比べ、都市では迫害されることがない。都会のコヨーテが暴力的な死に遭遇する可能性は田園の四分の一。
 
●シモフリガ(p124)
 1819年頃のイングランド北部(マンチェスター)で、DNAの跳躍により、シモフリガに「工業暗化」が起こり、翅が黒っぽくなった。大気の汚染によって黒いガが優勢となった。
 その後、大気の清浄化により、ふたたび白いガが増えていった。
 
●局所適応(p157)
 個体群の規模が小さいと、遺伝的浮動と近親交配によって好ましい遺伝子が急速に増える可能性がある。
 個体群が大きいと、非適応遺伝子が流れ込み、なかなか定着しない。
 サウザンドオークスの101号線以北に暮らすボブキャットは、殺鼠剤で死んだネズミを食べたせいで疥癬が一時的に広がったが、その後、免疫系が進化して死亡率が減った。
 セントラルパークのシロアシネズミが、他の公園と異なる進化を遂げた。
 
●マミチョグ(p161)
 マミチョグとは、汽水域に棲息する人差し指ほどの大きさの丈夫な魚。
 マサチューセッツ州のニューベッドフォードやコネチカット州のブリッジポートでは、海底に蓄積するPCBへの耐性を進化させた。
 
●黒い羽毛(p170)
 都会で暮らすハトは、体色が濃くなる。
 身体から亜鉛のような重金属汚染物質を除去し、羽毛に移転させる能力を身につけているため。
 メラニン色素が金属原子に結びつく。
 
●赤の女王(p205)
 第二種接近遭遇とは、二種の生物が出会い、進化の相互作用を引き起こすことをいう。このタイプの敵対的適応を、進化生物学者は「赤の女王」と呼ぶ。
 赤の女王……『鏡の国のアリス』の登場人物。女王はアリスに言う。「ここでは、同じところに留まりたいなら、全速力で走らなくてはなりません。」
 
●たばこの吸い殻(p212)
 メキシコ国立大学メキシコシティ―・キャンパスのイエスズメとメキシコマシコの巣には、タバコの吸い殻が散らばっている。巣の材料として鳥たちが選んだもの。
 タバコの葉に含まれるニコチンには、ダニなどを寄せ付けない効果がある。吸い殻の数と巣にいるダニの数は、負の相関関係にあった。
 
●隣人を利用(p227)
 〔都市の動物たちは人間という隣人をより上手に利用できるように進化する、とわたしたちは考えてよいのかもしれない。瓶の蓋を開けることを目的として作用する何らかの遺伝子が動物の個体群に広がるからではなく(明らかにそんな遺伝子は存在しない)、寛容的で、より好奇心旺盛な遺伝的傾向性(この種の遺伝子は実際に存在する)に助けられて、動物は人間を、そして人間の絶え間なく変化する慣習を、うまく利用する方法を瞬く間に学ぶ。より速やかな学習を可能にすることで、そうした遺伝子が広がるのだ――都市で進化すると、かつての田舎育ちの古臭い動物は、より都会通の動物へと変わっていく。〕
 
●強いオス(p258)
 シジュウカラとユキヒメドリの研究から、田舎に棲むオスの優劣とは異なる条件が都市には存在するらしい。森では高く評価される頑強で争いに強いオスが、都市ではあまり好まれない。
 
●ステファノ・ボエリ(p303)
 ミラノで、ボスコ・ヴェルティカーレ(垂直の森)という2棟の住居用高層タワーを建てた。
 730本の樹木と5,000本の灌木、11,000株の草本が植え付けられた建物。
 
●好人性生物(p321)
〔 本書の初めに登場したアリと好蟻性生物の記述から思い出してもらえるかもしれないが、強力な生態系エンジニアは他の生物種を引き付ける磁石のようなものである。かれらの元には食料と資源が集中しているから、他の種はかれらと共生するために進化を遂げるのだ――避難所と保護を求め、宿主から盗み、ちょろまかし、あるいはうまく騙して、残り物を恵んでもらうためだ。多くはその存在を気づかれることなく、あるものは黙認され、あるいは評価さえ受け、さらには訴追されるものもいるが、全ての好蟻性生物は進化する。自発的にであれ、不本意にであれ、自分たちを後援してくれるアリたちとの共同生活に適応するのだ。人間がこのアリと同様の地位についてからの期間はずっと短く、好人性生物(anthropophiles)たちはまだ進化を開始したばかりである。しかし確実にかれらは進化しているのであり、今後も適応し続けていくことだろう。〕
 
(2021/6/7)KG
 
〈この本の詳細〉


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