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怖くて眠れなくなる化学
 [自然科学]

怖くて眠れなくなる化学
 
左巻健男/著
出版社名:PHPエディターズ・グループ
出版年月:2020年10月
ISBNコード:978-4-569-84750-4
税込価格:1,430円
頁数・縦:201p・19cm
 
 好評だった『面白くて眠れなくなる化学』の第二弾。使い方を誤るととんでもないことになる人工化学物質の脅威を語る。
 
【目次】
1 身近な化学変化の恐ろしさ
 危険すぎる塩づくり
 「まぜるな危険」をやってみた
 天かす火災はなぜ起こる?
 石灰乾燥剤は危ない!
 洗剤とアルミ缶が化学反応し破裂
 廃油を使った手作り石鹸の怖さ
2 化学が巻き起こした事故の恐怖
 リチウムイオン電池の発火で飛行機が落ちた!
 二又トンネル爆発事故
 史上最悪の化学工場事故
 イタリア・セベソの化学工場での爆発事故
 ナトリウムを制御できなかった高速増殖炉
 地図からも消されていた毒ガス製造工場の島
 学校で扱う化学熱傷(化学やけど)を起こす薬
3 化学物質は人類の敵か味方か
 空間噴霧で、安全で効果がある消毒剤はあるか?
 DDTと人類の死因第一位のマラリアとの闘い
 笑気ガス(一酸化二窒素)の笑えない事態
 『サイレント・スプリング』の衝撃
 
【著者】
左巻 健男 (サマキ タケオ)
 東京大学講師(理科教育法)。「理科の探検(RikaTan)」誌編集長。1949年生まれ。埼玉県公立中学校教諭、東京大学教育学部附属中・高等学校教諭、京都工芸繊維大学教授、同志社女子大学教授、法政大学生命科学部環境応用化学科教授・法政大学教職課程センター教授を経て現職。理科教育(科学教育)、科学リテラシーの育成を専門とする。
 
【抜書】
●漂白剤(p21)
 漂白剤は、化学反応によって酸化型、還元型に分けることができる。酸化型は、さらに塩素系、酸素系に分けられる。
 酸化型(塩素系)……最も一般的な漂白剤。殺菌力が強いが、色物、柄物や毛・絹に使うことができない。次亜塩素酸ナトリウム、など。
 酸化型(酸素系)……色物、柄物に使うことができるが、毛・絹には使うことができない。過炭酸ナトリウム、過酸化水素水、など。
 還元型……色物、柄物に使うことができないが、鉄分による黄ばみやサビが付いたときに有効。亜硫酸塩、ハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素、など。
 
●不飽和脂肪酸(p26)
 オレイン酸(オリーブオイルに含まれる)、リノール酸(大豆やコーンに多い)、α-リノレン酸(菜種油に多い)、など。
 分子内の炭素の鎖の中に二重結合を持つ脂肪酸。
 炭素の鎖の中の二重結合に空気中の酸素が結びつく反応が起きやすい。その反応の際に発熱する。
 不飽和酸脂肪酸が天かすや紙に染み込んだ状態では、空気と接する面積が大きくなり、酸化が進む。熱が逃げにくい状態だと、内部の温度が発火点を超え、紙や油に火がついて燃え上がる。発火点は、新聞紙で290℃前後、油脂で300〜400℃程度。
 大量に天かすが出る飲食店などでは、十分に冷まして処理したつもりでも、数時間たって発火することがある。
 
●生石灰(p32)
 酸化カルシウム。水を加えると消石灰になる。
  酸化カルシウム(生石灰) + 水 → 水酸化カルシウム(消石灰) + 熱
 石灰乾燥剤の中身は、白い小石のような粒の生石灰。
 大量の水と出会うと沸騰して危険なので、水気のある生ゴミと一緒に捨ててはいけない。
 
●アルマイト加工(p41)
 アルミニウムの表面に付いている酸化皮膜を人工的に厚くすること。耐食性が高まる。
 鍋などの容器材料や、アルミサッシなどの建築材料に利用される。
 アルミニウムは、鉄についで日常生活でたくさん使われている金属。鉄が全金属の90%以上。
 両性元素で、酸にもアルカリにも反応して水素を発生する。亜鉛、錫、鉛なども両性元素。
 
●脂肪酸ナトリウム(p52)
 石鹸のこと。
 〈鹸化法での合成〉
  油脂 + 水酸化ナトリウム → 脂肪酸ナトリウム + グリセリン
 〈中和法での合成〉
  (油脂から取り出した)脂肪酸 + 水酸化ナトリウム → 脂肪酸ナトリウム + 水
 油脂……高級脂肪酸(炭素数が多い脂肪酸)のエステルのこと。石鹸の製造では、牛脂、ヤシ油、パーム油、などを使う。
 
●二又トンネル爆発事故(p78)
 日田彦山(ひたひこさん)線の彦山駅と筑前岩屋駅の間に、「爆発踏切」という名の第四種踏切がある。近くに、二又トンネル跡の切通がある。
 彦山駅から約500m南にあった二又トンネル(約100m)と吉木トンネルを、陸軍が火薬の保管場所として使用していた。1944年6月の空襲で、沿線の小倉兵器補給廠山田填薬所が空襲で焼失したため、新たな保管場所を探していた。二つのトンネルは、開通していたがまだ鉄道に使用されていなかった。
 1945年11月12日、占領軍は火薬約530トンと信管約180kgの焼却処分を開始した。点火してから1時間半後の16時半ごろ、火薬を燃やす炎がトンネルからまるで火炎放射器のように噴出し始め、17時15分頃、大爆発を起こして山全体が吹き飛んだ。
 消火活動をしていた近隣住民や吹き飛ばされた民家など、甚大な被害を受け、死者147名、負傷者149名に上った。山の麓でドングリ採集をしていた小学生29名も犠牲となった。
 占領軍が絡む事件事故は、判明しているだけでも全国で2,000件以上あるが、二又トンネル爆発事故の被害規模は全国一。
 
●ボーパール化学工場 MIC漏洩事故(p84)
 インドのマディヤ・プラデシュ州の州都ボーパールに、米国ユニオン・カーバイドの子会社の殺虫剤工場があった。
 1984年12月3日、この工場からイソシアン酸メチル(MIC)の混合物をはじめとする致死性ガスが漏れ出し、50万人を超える人々が健康被害を受けた。近隣に人口が密集したスラム街があり、事故発生が深夜だったため、夜明けまでに2,000人以上が即死した。最終的には死者14,410名。
 
●大久野島(p129)
 大久野島(おおくのしま、広島県竹原市)には、1929年、陸軍によって毒ガス製造工場が設置され、1945年の終戦まで、秘密の島として地図から抹消されていた。
 マスタードガス(イペリットガス)、ルイサイト、数種の催涙ガス、シアン化水素(青酸ガス)など、国際法上禁じられている毒ガスを極秘で生産していた。
 秘密を守るため、工員はほとんどが軍属。
 1943年頃から、発煙筒や普通爆弾の製造が主体になり、毒ガスの製造は行われなくなっていった。
 (1)米国ルーズベルト大統領が、1942年6月に、日本軍による中国での毒ガス使用を非難、同様の方法による報復を示唆。
 (2)資材不足。鉄は普通爆弾に。不足していた塩は食用に。
 
【ツッコミ処】
・失敗原因(p29)
 「自然発火による火災の失敗原因を特定するのは難しい。酸化による火災は、片付けが終わった後、数時間、あるいば数日間という長い時間がたってから発生する。そのため、油をぬぐった紙や布を移動させた後に火がでることがある。それなのに多くの事例で、火災原因は消費者側の不注意によるものだと結論付けている」。
 池田圭一『失敗の科学ーー世間を騒がせたあの事故の“失敗”に学ぶ』(技術評論社、2009年)からの引用。
 最初の文に「失敗原因」とあるが、「失火原因」の誤り? それとも、『失敗の科学』という本だから、あえて「失敗原因」という言い方をしているのか??
 
(2021/6/21)KG
 
〈この本の詳細〉


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