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完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録
 [社会・政治・時事]

完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録 (文春e-book)
 
赤石晋一郎/著
出版社名:文藝春秋
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-16-391358-2
税込価格:1,760円
頁数・縦:235p・20cm
 
 「伝説の刑事」と言われ、数々の注目事件を解決した大峯泰廣の事件簿。筋読みの鋭さ、取り調べの手練とともに、大峯のヒューマニズムが伝わってくる。刑事ドラマ以上の面白さである。著者は、「まさに刑事の体験談なのだから、刑事ドラマよりも面白いのは当然といえば当然である」(p.230)というが、いやぁ、事実をネタに、見る人に感動を与えるように脚色されたドラマのほうが面白くなきゃダメでしょう。でも、本書はホントに面白いのである。
 んで、一番心打たれたのは、地元の不良中学生6人を更生させた終章のお話。非番の日に息子の学校にまで出向いて行って、先生に話をつけて各生徒と面談したり、授業中に空き教室を解放してもらって将棋を指したり。これ、本職の事件解決とは関係ないんだけどね。大峯さんの人柄が表れていて、ほっこりした。
 大峯泰廣、1948年(昭和23年)生まれ。『7人の刑事』(TBSテレビ)にあこがれて刑事を目指した。父親も交番勤務を主とする警察官だった。
 なお、本書は、月刊「文藝春秋」2019年4~6月号と、文藝春秋デジタル2020年2~8月に連載された記事を大幅に加筆したものに書下ろしを加えて単行本化された。
 
【目次】
序章 「疑惑」―ロスアンゼルス市ホテル内女性殺人未遂事件 1985
第1章 「KO」―首都圏連続ノックアウト強盗致死事件 1981
第2章 「警官」―宝石商強盗殺人事件 1984
第3章 「猥褻」―宮﨑勤首都圏連続幼女誘拐殺人事件 1989
第4章 「強奪」―練馬社長宅三億円現金強奪事件 1990
第5章 「信仰」―オウム真理教地下鉄サリン事件 1995
第6章 「自演」―証券マン殺人・死体遺棄事件 1996
第7章 「遺体」―阿佐ヶ谷女性殺人死体遺棄事件・桧原村老女殺人事件 1997&1998
第8章 「迷宮」―世田谷一家四人殺人事件 2005
終章 「動機」―人はなぜ罪を犯すのか
 
【著者】
赤石 晋一郎 (アカイシ シンイチロウ)
 1970年生まれ。南アフリカ・ヨハネスブルグで育つ。「FRIDAY」、「週刊文春」記者を経て、2019年にジャーナリストとして独立。日韓関係、人物ルポ、政治・事件、スポーツなど幅広い分野で執筆を行う。
 
【抜書】
●残るは犯罪の話だけ(p47)
〔 谷本の身の上話を全て聞いていたことも功を奏したのだろう。刑事に親近感を持たせるというのもその効果の一つだが、それだけではない。相手の話をじっくり聞いていくことで、犯人は逆に追い詰められたような心理状態になるのだ。なぜかといえば、全てを話し終えると、後に残されたのは「犯罪」の話だけだと犯人は自覚し始める。その心理的プレッシャーを利用して諭しにかかるわけだ。〕
 
●トイレ(p85)
〔 調べの極意は、魚釣りと似ている。「間合い」、「タイミング」、「言葉の使い方」の三つが重要だ。相手との間合いを詰めながら、タイミングを見て、「お前は犯罪を犯した」等と核心を突く。口で言うのは簡単だが、繊細なバランス感覚を必要とし、長年の経験がものを言う。
 もう一つ、調べの鉄則がある。「水をください」、「一服させてください」、「便所に行かせてください」という要求は一切拒否することだ。ホシは調べの緊張感からなんとか逃げ出そうとする。宮﨑もそうだった。調べの途中でトイレに行かせたりすれば、気持ちが落ちつき、全てを飲み込んでしまう。〕
 
●未解決担当理事官(p202)
 大峯は、2005年2月、警視庁捜査一課の、初代未解決担当理事官に就任した。
 当時の奥村万寿雄警視総監によって新設された新しいポジション。
 理事官とは、本来は捜査一課長に次ぐナンバー2のポジションで、発生事件の捜査を指揮する立場にある。未解決担当理事官は、発生事件を担当せず、未解決事件だけを専門に指揮する「専門職」として設置された。
 当時、警視庁が重要視していた「スーパーナンペイ事件」「世田谷一家四人殺人事件」「東村山警察官殺害事件」「柴又女子大生放火殺人事件」などを担当した。
 しかし、「世田谷一家四人殺人事件」で納得のいく捜査をさせてもらえず、発生当時の杜撰で虚偽に満ちた捜査方法に嫌気がさし、2006年9月、警察を退職した。階級は警視だった。
 
(2021/6/14)KG
 
〈この本の詳細〉


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