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マスクをするサル
 [哲学・心理・宗教]

マスクをするサル (新潮新書)
 
正高信男/著
出版社名:新潮社(新潮新書 904)
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-10-610904-1
税込価格:792円
頁数・縦:188p・18cm
 
 マスクがパンツの代わりになる?
 
【目次】
1 マスクをするサル―ポスト・コロナの新しい感性
2 マスクと女らしさ―陰部を隠すという歴史的決断
3 マスクは異性を誘引するか?―口唇部とコミュニケーション
4 マスクと男らしさ―顔面装飾・形質置換、髭の進化史
5 乱婚から一夫一婦制への人類史―サルとヒトの性行動
6 性の解放と人類の動物化―社会的交換・抑圧・不倫
7 デファクト化するマスク―新たな共同体の感性
 
【著者】
正高 信男 (マサタカ ノブオ)
 1954(昭和29)年大阪府生まれ。霊長類学・発達心理学者。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。京都大学霊長類研究所教授を務めた。著書多数。
 
【抜書】
●子宮内膜(p32)
 月経現象がある動物は、ヒト近縁のサルと、数種のコウモリと齧歯類のみ。メスの子宮に子宮内膜という組織があり、それが定期的出血に関与している。
 受精しなかった卵子を体外に排出する際に、子宮の一番内側の膜組織が子宮壁から剝がれて、一緒にそっくり体外へ出てくる。
 剝げ落ちた子宮壁は、出血を止めるなかで新たな子宮内膜の形成を行う。
 これらの哺乳類は、体全体のうち脳の占める割合が異常なまでに肥大したから?
 胎児期に脳が最も成長する。子宮の中で脳が体の半分以上を占める。子宮壁に食い込んでいる。子宮内膜がないと、胎児とともに子宮壁が壊れてしまう。
 
●原猿(p73)
 真猿=monkey。
 原猿=prosimian。
 原猿類は、一種を除いて夜行性。しかし、食虫類や齧歯類と異なり、指が長く、手先が器用。親指が他の4本と対向しており、モノを持ったり摑んだりすることができる。
 原猿類が地球上に登場したのは、現在の北米に当たる地域であったろうと推測される。そのころアメリカ大陸とユーラシア大陸は地続きだった(=ローラシア大陸)。
 真猿類の誕生の地はアフリカ。進化して間もない時期に南アメリカに進出した。浮島が南アメリカに漂着し、そこにサルがいた?
 
●咀嚼筋(p82)
 ヒトの頭蓋で男女の差が大きいのは顎のサイズ。男性のほうが大きく、咀嚼筋(側頭筋)が発達している。
 顎は男らしさの象徴。そこに髭が生えるべく進化した?
 
●マスクの効用(p170)
 性の解放が唱えられだして以降、人類男女は身体を覆っていたものを捨て去る方向でやってきた。
〔 ところが今日に至って、それに逆行するトレンドが外圧の形で出現したのだ。それが、新型コロナウイルスの流行によるマスクの着用である。
 好むと好まざるとにかかわらず、世界中で人々が顔の下半分を覆って外出するようになったことは、人類が失いかけている生活の二面性を取り戻す、あるいは人類の動物化を食い止める稀有の機会だろういうのが私の意見である。
 覆うことは、当人にとって負担、すなわち抑圧であるに違いない。しかし覆うことによって初めて、覆いを取ることの喜びや覆いを取られることの羞恥という性的感情が喚起されることを失念してはならないだろう。〕
 
●マスクによる発信(p181)
〔 実のところ、マスクを着けていると相手が誰だかわからなくて苦労することがある。マスクが着け手のアイデンティティの認識に、何ら貢献していない証拠である。それどころか認識の足を引っ張ているのだ。
 そうではなく大坂なおみ選手のように、マスクを自分がメッセージを発する媒体として利用するような、そういう自分らしさの発信源として活用する、発想の転換が求められている。その上で、マスクに隠蔽された身体部位に、想像力を飛翔させる感性を持つことができたなら、そこから新たな人と人とのコミュニケーションが生まれるのではないか。今までになかった形式の共同体がそこから発達する基盤が、形成されるのではと想像する次第である。〕
 
(2021/11/11)NM
 
〈この本の詳細〉


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