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動物感覚 アニマル・マインドを読み解く
 [自然科学]

動物感覚 アニマル・マインドを読み解く
 
テンプル・グランディン/著 キャサリン・ジョンソン/著 中尾ゆかり/訳
出版社名:NHK出版
出版年月:2006年5月
ISBNコード :978-4-14-081115-3
税込価格:3,520円
頁数・縦:443, 17p・20cm
 
 自閉症の動物学者が、動物の知性と意識に関して考察し、動物との正しい関わり方を教示する。
 
【目次】
第1章 私の動物歴
第2章 動物はこんなふうに世界を知覚する
第3章 動物の気持ち
第4章 動物の攻撃性
第5章 痛みと苦しみ
第6章 動物はこんなふうに考える
第7章 動物の天才、驚異的な才能
動物の行動と訓練の仕方の問題点を解決する
 
【著者】
グランディン,テンプル (Grandin, Temple)
 コロラド州立大学准教授。イリノイ大学で動物科学博士号を取得。自ら経営する会社、グランディン・ライヴストック・システムズを通じて、アメリカ国内のファーストフードの指定業者と提携し、世界中の動物施設の状況を監査する。動物科学と自閉症について講演を行い、多くの自閉症の人々とその家族の模範となっている。
 
ジョンソン,キャサリン (Johnson, Catherine)
 脳と神経精神病学を専門とする著述家。全米自閉症研究連盟会理事を7年間務めた。夫と子どもたちとともにニューヨーク州アーヴィントン在住。
 
中尾 ゆかり (ナカオ ユカリ)
 1950年生まれ。西南学院大学文学部卒業、現在翻訳業。
 
【抜書】
●ふつうの人(p39)
〔 ふつうの人が自閉症の子どもを「自分の狭い世界に閉じこもっている」と判で押したようにいうのを聞いて、いつも何となくおかしくなる。動物を相手にしばらく仕事をしていると、ふつうの人にも同じことがいえるのが分かってくる。彼らがほとんど受け入れていない広大な世界があるのだ。たとえば、犬は私たちには聞こえない音域の音を聞いている。自閉症の人と動物は、ふつうの人には見えない、あるいは見ていない視覚の世界を見ている。〕
 
●抽象思考人間(p43)
〔 ふつうの人が大脳に頼りすぎるのは困ったことだ。私はこれを思考が抽象化されているという。〕
 〔この手の計画をまとめるには、優秀な専任の現地調査員が必要だ。ところが、当節は抽象思考人間が担当していて、現実にもとづかない抽象的な議論や論争にしばられる。これは、政府内に派閥抗争が多い理由にもなっているのだろう。私の経験では、人は抽象的に考えると、ますます過激になる。いつまでたっても終わらない論争の泥沼にはまり、現実の世界からかけはなれていく。唯一すべてに片がつくのは、緊急事態の場合のみだ。そうなると、たちまち、だれもが行動せざるをえない。〕
 
●犬の近視(p61)
 犬の視力は、犬種によっても違う。
 ジャーマンシェパードとロットワイラーは近視が多い。前者は53%、後者は64%が近視。
 近視の犬は、正常な犬に輪をかけて視力が悪い。
 
●意識(p71)
 定位反応……動物が生まれながらに持っている反応。初めて聞いたり見たりするものに、自動的に反応を示す。
 〔動物は、音にどう対処するか意識的に決断しなければならないのだから、定位反応は意識のはじまりだと私は考える。被食動物であれば、逃げなければならないのか。捕食動物なら、なにかを追う必要があるのか。捕食動物も逃げなければならない場合がもちろんあるだろうから、ふたとおりの決断に迫られることになる。〕
 
●TRP2(p87)
 ヒトを含めた旧世界霊長類は、フェロモン系が退化した。TRP2と呼ばれる遺伝子に、多数の突然変異を持っている。TRP2は、「フェロモンの情報を伝える経路」。
 旧世界霊長類のTRP2遺伝子が劣化しはじめた時期は、三色型色覚を発達させた2,300万年前ごろ。ミシガン大学の進化生物学者ジャンツィ・ジョージ・ツァンによる。
 三色で見えるようになると、嗅覚の代わりに視覚を使って連れ合いを見つけるようになった?
 
●探索システム(p130)
 ドーパミンは、脳内の快楽物質と考えられてきた。快楽中枢(報酬中枢)を刺激する。コカイン、ニコチンなどの刺激物は脳内のドーパミン値を上昇させる。
 探索回路にかかわる主要な神経伝達物質もドーパミンである。
 新しい説では、コカインのような薬物が快感を与えるのは快楽中枢ではなく、脳内の探索システムを激しく刺激するからだと考える。好奇心/関心/期待回路が刺激され、それが快く感じられる。
 (1)脳のこの部分を刺激されている動物が、強い好奇心があるように行動する。
 (2)脳のこの部分を刺激されている人間が、楽しくて興味津々だと述べる。
 (3)脳のこの部分は、動物が近くに食べ物がありそうな気配を感じると活発になり、実際に食べ物を見ると活動が止まる。
 
●痛みを隠す(p240)
 動物は、痛みを隠す。
 自然界では、傷ついた動物は捕食動物に殺される可能性が高いので、どこも悪くないようにふるまう習性を生まれつき持っている。
 ヒツジやヤギやレイヨウなど小型のか弱い被食動物はとりわけ我慢強い。捕食動物はそうでもない。猫は怪我をすると脳天を突き抜けるような声で鳴きわめき、犬は人に足を踏んづけただけでも殺されかけているような悲鳴を上げる。
 
●恐怖、不安(p254)
 恐怖……外からの脅威に対する反応。
 不安……心の中の脅威に対する反応。
 恐怖と不安の根底にある脳のシステムが同じものかどうかは、明らかになっていない。ウィスコンシン大学の精神科医ネッド・カリンの調査では、「恐怖の刺激に対する最初の反応」と「心配性」に違いがあることが分かった。恐怖の刺激を司るのは偏桃体。心配性にかかわるのは前頭前野。
 
●AOS、MOS(p268)
 どの動物にも、二通りの嗅覚系統がある。
 近距離のにおい感知システム(副嗅覚系AOS)と、遠距離のにおい感知システム(主嗅覚系MOS)。
 AOSは、脳内の恐怖中枢と結びついているが、MOSはそうではない。
 
●プレーリードッグの言語(p359)
 北アリゾナ大学のコン・スロバチコフの研究。
 米国およびメキシコに生息するガニソン・プレーリードッグの危険を知らせる鳴き声を分析して、名詞、動詞、形容詞を備えた意思伝達システムがあることを発見した。
 どんな種類の捕食者(人間、タカ、コヨーテ、犬:名詞)が接近しているのか、どんな速度で移動しているのか(動詞)を教えあう。また、身体の大きさや形ばかりではなく、服の色(形容詞)まで教えあっている。さらに、いきなり襲うコヨーテなのか、巣穴の前で辛抱強く待つコヨーテなのか、コヨーテを一匹ずつ識別している。
 これらの鳴き方を、学習によって身につけている。群れによってそれぞれの方言がある。
《言語の定義》
 ・意味。
 ・生産性……同じ言葉を使って無限の数の意思伝達が新たにできる。
 ・超越性……言葉を使って、目の前にないものについて話すことができる。
 プレーリードッグの『言語」の超越性に関しては、まだわかなっていない。
 
●シーザーアラート(p378)
 シーザー・レスポンス……発作反応。犬が、人間の発作に反応してサポートすること。ケガをしないように体の上に覆いかぶさる、薬や電話機を持ってくる、家族に知らせる、など。
 シーザー・アラート……発作感知。発作を予測して、本人に警告してくれる。
 ある調査では、シーザー・レスポンス犬からシーザー・アラート犬に進歩したのは10%。犬が自ら学習した。
 
●オオカミ(p398)
 人間はオオカミのおかげで進歩した。
〔 人間が動物を飼いならした話や、オオカミを犬に変えたという話はつねに耳にする。ところが新しい研究では、オオカミのほうが人間を飼いならしたかもしれないということもあきらかになっている。人間はオオカミとともに進化したのだ。〕
 最初に埋葬された犬は、1万4千年前。
 DNA調査では、犬がオオカミから分離したのは13万5千年前。10万年前より、人骨の付近にオオカミの骨がたくさん見つかる。
 オーストラリアの考古学者のチームは、原始人はオオカミと仲間だった時代に「オオカミのように行動して考えることを学んだ」と確信している。
 オオカミは集団で狩りをし、複雑な社会構造があり、同性の非血縁者との間で誠実な友情がある。さらに縄張り意識も強い。これらは、現生人類では認められるが、どの霊長類にもないことである。チンパンジーにも。
 
●脳の大きさ(p400)
 動物は、飼いならされると脳が小さくなる。
 馬の脳は16%、豚の脳は34%、犬の脳は10~30%、小さくなった。前頭葉がある前脳と、左右の脳を繋ぐ脳梁が小さくなった。
 人間の脳は、10%小さくなった。情動と知覚情報を司る中脳と、嗅覚を司る嗅球が小さくなり、脳梁と前脳の大きさは変わらない。
 犬と人間の脳は専門化された。人間は仕事の計画と組織化を引き受け、犬は知覚の仕事を引き受けた。犬と人間はともに進化して、よき伴侶、よき友達になった。
 
【ツッコミ処】
・チャット生成AI(p350)
 ディスプレイ画面の上半分に小さな点が現れたらレバーを押さなければならない実験。点が画面の上部に現れる時間の割合を70%に設定。
 罰がないので、ネズミは実験時間の100%、レバーを押した。ヒトは、出現パターンをあれこれ考え、ネズミほど頻繁にレバーを押さなかった。
〔 ネズミが人間よりも成績がよかったのは、前頭葉の能力が低いか、あるいは言語がないせいか、あるいはその両方だったのだろう。人間についてひとつわかっているのは、意識的な言語をつかさどる左脳が、状況を説明する話をつねにつくりあげていることだ。ふつうの人の左脳の中には「通訳」がいて、なにかをしているときや思い出しているときはいつも、それについてでたらめでこまかな情報をかたっぱしから取り入れて、すべてをすじの通るひとつの話にまとめあげる。つじつまの合わない情報があるときには、たいていの場合、削除するか書きかえる。左脳がつくる話の中には、いちじるしく現実離れしていて、創作と思えるものもある。〕
  ↓
 人間の頭のなかも、ChatGPTなどのチャット生成AIと同じことをやっている、ということか??
 
(2024/3/7)NM
 
〈この本の詳細〉


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