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気候崩壊後の人類大移動
 [社会・政治・時事]

気候崩壊後の人類大移動
 
ガイア・ヴィンス/著 小坂恵理/訳
出版社名:河出書房新社
出版年月:2023年8月
ISBNコード:978-4-309-25461-6
税込価格:2,970円
頁数・縦:298, 18p・19cm
 
 待ったなしの地球温暖化、気候崩壊。その対策として、高緯度地方への移住を提案する。また同時に、ジオエンジニアリングによる寒冷化対策についても言及。
 温暖化によって住みやすくなる寒冷地に新しい都市を建設し、そこに人類大移動を促す。しかし、食糧供給地となる農村はどのように維持されていくのだろうか。また、移住先や食糧生産地として想定される高緯度地方は、冬の日照時間が短い。人々の健康や食糧生産に関して、不都合な点もあるだろう。これに関してあまり触れていないが、いろいろと大丈夫なのだろうか。
 
【目次】
第1章 嵐
第2章 人新世の四騎士
第3章 故郷を離れる
第4章 移民を締め出す愚行
第5章 移民は富をもたらす
第6章 新しいコスモポリタン
第7章 安息の地、地球
第8章 移民の家
第9章 人新世の居住地
第10章 食料
第11章 エネルギー、水、材料
第12章 回復
 
【著者】
ヴィンス,ガイア (Vince, Gaia)
 サイエンス・ライター。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン人新世研究所名誉シニア・リサーチ・フェロー。『ネイチャー』誌や『ニュー・サイエンティスト』誌の元シニア・エディター。関心の対象は、人類と地球環境の相互作用。2015年、初の著書『人類が変えた地球―新時代アントロポセンに生きる』(化学同人)で、英国王立協会科学図書賞を女性ではじめて受賞。2020年、第二作『進化を超える進化―サピエンスに人類を超越させた4つの秘密』(文藝春秋)も、同賞の最終候補に選出。
 
小坂 恵理 (コサカ エリ)
 翻訳家。
 
【抜書】
●人類アイデンティティ(p18)
 限られた都市に人口を集中させて、人類運命共同体を構築するために、人口過密に伴うリスクの軽減に努めることが課題になる。停電、衛生問題、息苦しいほどの暑さ、汚染、伝染病の問題に取り組む必要がある。
〔 そしてもうひとつ、少なくともそれと同程度に難しい問題が残っている。それは地政学的なマインドセットの克服で、自分は特定の場所に帰属しており、そこが自分の居場所だという発想を手放さなければならない。要するに、住み慣れた国を追われた難民として、誰もが地球市民という自覚を持つのだ。種族としてのアイデンティティの代わりに、人類という生物種としてのアイデンティティを持つべきだ。これからは国境に制約されない多様な社会への同化が必要で、極地に新たに建設された都市に住む可能性もある。必要とあれば、いつまでも再び移動する準備を整えておかなければならない。〕
 
●世界を一変させる四つの問題(p35)
 火事……人々が立ち退きを迫れる。
 猛暑……熱波が人命を奪う。
 旱魃……農業が不可能になる。
 洪水……人類の大部分の生活が脅かされる。
 
●3200年前(p70)
 およそ3200年前、中東が異常気候に見舞われて旱魃が300年間続いた結果、文明のネットワーク全体が崩壊した。
 エジプト新王国時代の最後の偉大なファラオ、ラムセス3世の埋葬殿の壁には、陸からも海からも大移動の波が押し寄せ、遠方からの謎の侵略者と武力衝突があったことが記されている。
 シュメール人は、気候難民の侵入を防ぐために全長100kmに及ぶ壁を設けるが、効果はなかった。難民の一部はさらに北の地域に定住し、バビロンという都市を建設し、新しい文明を生み出した。
 数十年のうちに、青銅器文化を持つ世界全体が崩壊した。この崩壊の恩恵を受けたのが、平原を移動して暮らす遊牧民だった。
 
●パレオ・エスキモー(p76)
 パレオ・エスキモーは、6000年前に、厚い氷に覆われた荒海を越えてシベリアから北米まで航海し、カナダに定住した。
 カナダ南部で高度に発達した文化を持つアメリカ・インディアンの先住民と縄張りを共有したが、意識的に孤立状態を選んだ。やがて、時間の経過とともに困難に見舞われ、絶滅した。
 近親相姦のせいで健康が悪化した可能性があり、文化も退化した。よその集団とのコミュニケーションが不足したため、跡形もなく消えてしまった。
 
●15億人(p103)
 国際移住機関によると、気候変動などの影響で、2050年までに最大で15億人が住み慣れた家を離れなければならないと推計。
 別の科学者チームによる最近の分析では、2070年までに最大で30億人に達すると予想。
 
●格上げ(p117)
 移民の未熟練労働者が肉体労働に従事するようになると、現地の言葉を話して経験の豊かな現地の労働者は、優れたコミュニケーション能力が必要とされる職種に格上げされ、賃金も上昇する。
 こうした職業のグレードアップはデンマークの研究でも確認された。20世紀初めにヨーロッパから移民が米国に押し寄せたときにも見られた現象である。
 移民が加われば能力やスキルや知識の多様性が高まるので、労働力全般の生産性が向上し、すべての人が恩恵にあずかる。
 
●ナンセン・パスポート(p129)
 無国籍の難民に発行されたパスポート。実現に貢献したノルウェーの探検家フリチョフ・ナンセンにちなむ。
 第一次世界大戦後の1922年から38年にかけて50万通発行された。その大半はアルメニアとロシアの難民が対象だった。ハンガリー出身のロバート・キャパもその一人。
 ナンセン・パスポートの有効期限は最大で1年だが、更新も可能だった。所持していれば別の国に移住しても仕事を探すことができ、難民は狭い場所に押し込められる境遇から解放され、当時の国際連盟の加盟国の間で「公平に」割り当てられるようになった。
 受入国は、国境からの避難民の出入りの追跡が可能。
 難民は、保護を受ける亡命先の当局から新しい市民権を与えられるまでの間、新しい形で国際的に身分が保証された。
 
●6%(p131)
 EU域内の移動の自由が保障されたおかげで、ヨーロッパの平均失業率は6%低下した。
 
●ヌサンタラ(p202)
 1年に25cm、地面が沈み込んでいるジャカルタでは、集団での移動を目指している。何十億ドルものを資金を費やし、ジャカルタ市民(2050年までに1,600万人になると推定)を波の被害から守る。
 インドネシア政府は、熱帯雨林が生い茂るカリマンタン島の高台に新しい都市を建設し、そこを新たな首都に定めることにした。ヌサンタラと名付けた。
 しかし、今後数十年を費やす建設工事は、地球で最も重要な生態系の一つに深刻な被害をもたらす。しかも、完成しても市民は熱波や火災の影響を受けやすい。
 
●キリバス(p205)
 経済は漁業とココナツ生産に依存。海抜が低く、水没の危険がある。
 アノテ・トン大統領は、フィジーに土地を購入し、危機が訪れたときには国民を移住させる計画。10年前から、「尊厳ある移住」プログラムを始め、まずは就労目的で国民を徐々に海外へ送り出した。ニュージーランドには看護師を派遣。国民が大量の難民となって人道支援に頼る事態を避けるため。
 
●20%(p208)
 冷房は、現在、世界のエネルギー生成の20%を占める。
 2050年までには3倍に増えると予想される。
 
●海洋肥沃化(p269)
 海は砂漠の土壌から運ばれてきたミネラルによって、自然に肥沃化する。こうして獲得された栄養素のおかげで、植物プランクトンの生長が促される。光合成の過程で、二酸化炭素全体の40%を吸収すると推測される(アマゾン熱帯雨林の吸収量の4倍)。
 海洋肥沃化によって植物プランクトンが増えれば、クジラの生息数も回復する。クジラは、深海で餌を食べてから、呼吸するために海面に戻って排泄する。そこには鉄分が多く含まれているので、植物プランクトンが増える。植物プランクトンを餌にするオキアミが増え、オキアミを食べるクジラの生息数も回復する。
 
●太陽放射(p276)
 2021年の研究によれば、炭素排出量を減らすより、ジオエンジニアリングで太陽放射を管理するほうが、作物の収穫に良い効果がもたらされる。二酸化炭素は、光合成の過程で植物が利用しているため。
 たとえば、硫酸塩を成層圏に噴霧すれば、冷却効果はすぐに現れる。ただし、長続きしないので、継続的に行う。
 ただし、ジオエンジニアリングと二酸化炭素削減は同時に実施すべき。
 
【ツッコミ処】
・社会的包容力(p138)
〔 ヨーロッパのニ十カ国を対象にした調査によれば、移民を受け入れる規模と移民への好意的な態度のあいだには、相関関係が成り立つ。「移民の割合がごくわずかな国は最も敵対的で、移民の存在が社会で大きな国は最も寛容である」ことを研究者は明らかにした。
 一方、移民危機は、移民とは無関係な要因から生まれることが確認されている。制度への信頼が揺らいでいるとき、社会が閉鎖的なとき、政治への不満が募ったときなどに発生する。制度への信用や社会的包容力のレベルが低い国は、移民への不安が最も大きいことを研究者は明らかにした。極右のポピュリスト集団は、従来は左派が掲げてきた経済的・社会的政策――雇用維持や福祉国家への支持――を反移民のレトリックで脚色する。そこからは、労働者階級のコミュニティが直面する社会的問題の責任は移民にあるという認識が育まれる。「移民への敵対的な態度は、移民本人とはほとんど無関係だ」と研究は結論している。〕
  ↓
 移民・難民の受け入れに消極的な日本は、社会的包容力のレベルが低い??
 
(2023/11/10)NM
 
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資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか
 [社会・政治・時事]

資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか (ちくま新書)
 
ナンシー・フレイザー/著 江口泰子/訳
出版社名:筑摩書房(ちくま新書 1740)
出版年月:2023年8月
ISBNコード:978-4-480-07565-9
税込価格:1,210円
頁数・縦:313p・18cm
 
 16世紀以来の資本主義の歴史を振り返りつつ、搾取と収奪、人種・ジェンダー差別、社会的再生産、環境破壊、などについて、資本主義の宿命と矛盾について論じる。
 人種差別とジェンダー差別がクローズアップされているが、今、最もホットなのは宗教対立ではないだろうか? これについも「共食い資本主義」という観点から論じることはできないだろうか。
 
【著者】
フレイザー,ナンシー (Fraser, Nancy)
 1947年生まれ。アメリカの政治学者。ニューヨーク市立大学大学院で博士号取得。ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチの政治・社会科学教授。専門は、批判理論、ジェンダー論、現代フランス・ドイツ思想。
 
江口 泰子 (エグチ タイコ)
翻訳家。法政大学法学部卒業。
 
【抜書】
●共食い資本主義(p8)
 カニバル資本主義。
 (1)人間が人肉を食べる儀式。資本家階級は、自分たち以外のなにもかもを食い物にする。
 (2)動詞形「カニバライズ」には、装置や事業を作り出すか維持するために、別の装置や事業から重要な要素を抜き取るという意味がある。資本主義経済は、非経済分野の重要な要素をとことん食い尽くす。
 (3)「カニバライズ」は、天文分野で、天体が引力によって別の天体の質量を吞み込むときにも使う。世界システムの周辺に位置する自然と社会の富を、資本が自らの軌道に引きずり込む。
 (4)ウロボロス。己の尻尾を咥えて円環をなす蛇。己の存在を支える社会、政治、自然を貪り食う資本主義システム。
 〔資本主義社会とは、餌に喰いつき、喰い荒そうとする、制度化された狂乱状態だと捉えられる――そのメインディッシュは私たちだ。〕
 
●制度化された社会秩序(p43)
〔 もし資本主義が経済システムではなく、倫理的生活の物象化でもないとするならば、いったい何だろうか。たとえば封建制度と同じような「制度化された社会秩序」と捉えるのが適切だ、というのが私の答えである。資本主義をそのように理解すると、構造的な分離が、それも特に本書で突き止めてきた制度的な分離が浮かび上がる。〕
 
●資本主義の歴史、四つの体制(p80)
 (1)重商資本主義体制……16-18世紀。土地や財産の収奪。
 (2)リベラルな植民地資本主義体制。19世紀。中核で行われる「搾取」と、植民地での「収奪」。
 (3)国家管理型資本主義体制。両大戦間から20世紀中ごろ。
 (4)金融資本主義体制。現代。債務による蓄積。ブレトン・ウッズ体制の崩壊(1971年)(p217)。政府なき統治(p220)。
 
●インドセンダン(p178)
 常緑樹。南アジアで薬として使われてきた。
 最近、そのゲノムを解読したとして、ある大手製薬会社がインドセンダン由来の医薬品について特許を主張。
 
●生態学的社会主義(p195)
〔 どこかの目的地に本当にたどり着けるのか。それとも地球温暖化が進んで、もはや地球の気温は沸点に達してしまうのか。これについては、もちろん今後の課題だ。だが、その運命を回避するための最大の希望はやはり、反資本主義で環境という枠を超えた対抗ヘゲモニーのブロックを築くことにある。そのブロックが具体的に何を目指すべきかは、いまはまだわからない。だが、もしその目的地に名前をつけなければならないとすれば、私が選ぶのは「生態学的社会主義〈エコ・ソーシャリズム〉」である。〕
 
●政治的混乱(p200)
 資本主義のどの発展段階も、政治的混乱を引き起こし、政治的混乱によって変化してきた。
〔 重商資本主義を周期的に搔き乱し、最終的に破滅に導いたのは、周辺で多発した奴隷の反乱と本国で起きた民主化革命だった。次のレッセ・フェール(自由放任主義)のリベラルな植民地資本主義の時代には、丸一世紀のうちの半分の時期が、政治的な混乱続きだった。例えば社会主義者による革命の多発、ファシストのクーデター、二度にわたる世界大戦、植民地主義に抵抗する無数の蜂起。やがて二度の大戦と戦後を経て、国家管理型資本主義に道を譲った。この資本主義もまた政治的危機と無縁ではなかった。反植民地主義を掲げた大規模な反乱にさらされ、あちこちでニューレフトが台頭する。長引く冷戦を経験し、核兵器開発競争が勃発し、やがて新自由主義の攻撃に屈した。そして、グローバル化した現在の金融資本主義体制を迎えた。〕
 
(2023/10/19)NM
 
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リベラリズムへの不満
 [社会・政治・時事]

リベラリズムへの不満
 
フランシス・フクヤマ/著 会田弘継/訳
出版社名:新潮社
出版年月:2023年3月
ISBNコード:978-4-10-507321-3
税込価格:2,420円
頁数・縦:208, 13p・20cm
 
 ヨーロッパの宗教戦争が終結した17世紀半ばに生まれたリベラリズムの思想。グローバル化が進む現代でこそ重要性を増している古典的リベラリズムに関して多角的に論じる。
 
【目次】
第1章 古典的リベラリズムとは何か
第2章 リベラリズムからネオリベラリズムへ
第3章 利己的な個人
第4章 主権者としての自己
第5章 リベラリズムが自らに牙をむく
第6章 合理性批判
第7章 テクノロジー、プライバシー、言論の自由
第8章 代替案はあるのか?
第9章 国民意識
第10章 自由主義社会の原則
 
【著者】
フクヤマ,フランシス (Fukuyama, Fancis)
 1952年生まれ。アラン・ブルームやサミュエル・ハンティントンに師事。ランド研究所や米国務省などを経てスタンフォード大学シニア・フェロー兼特別招聘教授。ベルリンの壁崩壊直前に発表された論文「歴史の終わり?」で注目を浴びる。
会田 弘継 (アイダ ヒロツグ)
 1951年生まれ。東京外国語大学卒。共同通信社でジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任し、現在は関西大学客員教授。アメリカ保守思想を研究。
 
【抜書】
●古典的リベラリズム(p8)
 〔古典的リベラリズムは、多様な政治的見解を包含する大きな傘である。とはいえ、その政治的見解は、平等な個人の権利、法、自由が基本的に重要であると考えることでは一致していなければならない。〕
 
●リベラリズムの定義(p18)
 「さまざまな種類のリベラルな伝統すべてに共通しているのは、人間と社会についての明確な概念であることだ。その性格は明らかに近代的だ……それは個人主義的であり、いかなる社会集団からの要請に対しても個人の良心の優位性を主張する。また平等主義的であり、すべての人間の良心に同じ地位を与え、人の違いに基づく法的または政治的序列があっても、人の良心の価値とは一切結びつけない。普遍主義的であって、人類という「種」の良心はみな同じであると主張し、特定の歴史的組織や文化形式には二次的重要性しか認めない。すべての社会制度と政治的取り決めは修正可能で改善の余地があると認める点で改革主義的である。人間と社会に対するこのような考え方が、リベラリズムに明確な特徴を与え、その内部にある多様性と複雑性を乗り越えさせている。」
 英政治哲学者ジョン・グレイ『自由主義』(藤原保信ほか訳、昭和堂、1991年)による。
 
●寛容(p24)
〔 古典的リベラリズムとは、多様性を統治するという問題に対する制度的解決策と理解することができる。少し違う言い方をすれば、多元的な社会における多様性を平和的に管理するということだ。リベラリズムが掲げる最も基本的な原則は寛容である。最も重要な事柄について同胞と合意する必要はない。各個人が他者や国家に干渉されずに何が重要かを決めることができるという点で同意できればよい。リベラリズムは、最終目標の問題を議論しないことにより、政治が熱狂的にならないようにする。人は何を信じてもよいが、それは私的領域に留め、意見を同胞に押し付けてはならない。〕
 
(2023/9/22)NM
 
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第三の大国インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」
 [社会・政治・時事]

第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」 (文春新書 1401)
 
笠井亮平/著
出版社名:文藝春秋(文春新書 1401)
出版年月:2023年3月
ISBNコード:978-4-16-661401-1
税込価格:1,100円
頁数・縦:267p・18cm
 
 ついに中国を抜いて、人口世界一となった(と思われる)インドの、大国としての潜在力を探る。
 「一帯一路」の中国と、「自由で開かれたインド太平洋」を支持するインドを対比して叙述を進める。インドがテーマとはいえ、中国に割かれたページもけっこう多い。
 
【目次】
序章 ウクライナ侵攻でインドが与えた衝撃
第1章 複雑な隣人 インドと中国
第2章 増殖する「一帯一路」―中国のユーラシア戦略
第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡
第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国
第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体―日米豪印の対抗策
第6章 ロシアをめぐる駆け引き―接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国
 
【著者】
笠井 亮平 (カサイ リョウヘイ)
 1976年愛知県生まれ。岐阜女子大学南アジア研究センター特別客員准教授。中央大学総合政策学部卒業後、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科で修士号取得。専門は日印関係史、南アジアの国際関係、インド・パキスタンの政治。在インド、中国、パキスタンの日本大使館で外務省専門調査員として勤務後、横浜市立大学、駒澤大学などで非常勤講師を務める。
 
【抜書】
●カウティリヤ(p62)
 BC4-3世紀の人物。BC4世紀末、チャンドラグプタ王がナンダ朝を倒し、インド史上初の統一王朝となったマウリヤ王朝を興した際に、宰相として活躍した。チャーナキャ、ヴィシュヌグプタとも。
 『実利論(アルタシャーストラ)』を著した。「インドのマキャベリ」とも呼ばれている。
 マンダラ外交論……自国にとって直接境界を接する隣国は基本的に「敵対者」。その隣国の隣国は友邦になりえる国。その隣国は敵対者……という具合に同心円状に広がっていく。つまり、「敵の敵は味方」。また、「敵対者」以外に、「中間国」と「中立国」が存在する。「中間国」は、自国と敵対的な隣国の双方に接する国。「中立国」は、自国にも隣国にも接しない国。自国が隣国と敵対する状況下では、中間国と中立国との関係を効果的に活用することが重要であるとして、さまざまなケースに分けて対処策が示されている。
 
●グワーダル(p158)
 「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」の重要拠点として、「一帯一路」の中でも旗艦プロジェクトと位置付けられている。
 かつては小さな漁村だった。18世紀末から、オマーン(当時はマスカット・オマーン)が飛び地として領有していた。1958年に、パキスタンが買い戻した。
 
●コバクシン、コビシールド(p213)
 インドが開発・生産した新型コロナ・ワクチン。いずれもmRNAワクチンではない。超低温管理の必要がなく、冷蔵庫での保存が可能。
 コバクシン……不活性化ワクチン。バーラト・バイオテック社とインド医学研究評議会の国立ウイルス学研究所が共同開発した国産ワクチン。
 コビシールド……ウイルス・ベクター・ワクチン。イギリスのアストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発したものを、世界最大のワクチンメーカーであるインド血清研究所(セラム・インスティテュート・オブ・インディア)がライセンス生産。
 2021年1月初旬、インド保健当局は、どちらとも緊急使用を許可。1月中旬、まず医療従事者を対象として全国で接種が始まり、順次拡大。
 また、約2年間で100か国以上に提供された。
 さらに、第3のワクチン開発にも成功。鼻から投与できる「経鼻ワクチン」。冷蔵庫での保存が可能。新たな変異株が出現しても、スパイク・タンパク質を置き換えるだけでよく、比較的迅速に更新が可能。
 インドでは、ジェネリック医薬品をはじめ製薬業が盛んで、「世界の薬局」と呼ばれている。
 
(2023/8/31)NM
 
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戦後日本政治史 占領期から「ネオ55年体制」まで
 [社会・政治・時事]

戦後日本政治史-占領期から「ネオ55年体制」まで (中公新書 2752)
 
境家史郎/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2752)
出版年月:2023年5月
ISBNコード:978-4-12-102752-8
税込価格:1,056円
頁数・縦:304p・18cm
 
 戦後から現在(安倍元首相の暗殺にも言及)までの、日本の政治史・政党史をたどる。
 この時期の要諦は、なんといっても「55年体制」である。しかし、その体制は、平成以降に変革されたように見えたが、ここにきて再来しているという。「ネオ55年体制」である。
 生まれてからこれまで、政界でもいろいろな事件が起きたが、曖昧な記憶しかない事柄も多い。それらをある程度整理できた。
 
【目次】
第1章 戦後憲法体制の形成
第2章 55年体制1―高度成長期の政治
第3章 55年体制2―安定成長期の政治
第4章 改革の時代
第5章 「再イデオロギー化」する日本政治
終章 「ネオ55年体制」の完成
 
【著者】
境家 史郎 (サカイヤ シロウ)
 1978年、大阪府生まれ。2002年、東京大学法学部卒業。08年、東京大学博士(法学)取得。専攻は日本政治論、政治過程論。東京大学社会科学研究所准教授、首都大学東京法学部教授などを経て、20年11月より東京大学大学院法学政治学研究科教授。
 
【抜書】
●保守本流(p71)
 池田隼人、佐藤栄作は、意図的な政権運営によって国内の政治的安定を保ち、1950年代に形成された戦後憲法体制を固定させる役割を果たした。
 〔この二つの政権によって定着した、吉田あるいは旧自由党の流れを汲む自民党政権の路線を、しばしば「保守本流」と呼ぶ。保守本流の政治とは、政策的には、いわゆる「吉田ドクトリン」(永井陽之助)、すなわち経済中心主義、軽武装、日米安保機軸を旨とする。憲法問題を未決のままに置くことで、当面の政治的安定を優先する立場とも言えよう。〕
 〔自民党の派閥のうち、特に宏池会(池田派→前尾派→大平派→鈴木派→宮澤派)は保守本流を自認した。しかし、他の派閥の領袖たちも――しばしば「傍流」に位置付けられた三木や中曽根も――政権を担った際には、(レトリックはともかく)池田・佐藤路線を実質的に転換することはなかった。要するに、保守本流の政治は、55年体制を通して自民党政権の基本路線となったのである。〕
 
●自民党派閥の系譜(55年体制期)(p87)
 1955   60   65   70   75   80   85   90
 池田―――――――前尾―――大平―――――鈴木―――宮澤―――――― (宏池会)
 佐藤―――――――――――――田中――――――――――竹下――小渕― (経世会)
                           └二階堂└羽田
      ┌ …
 岸―――――福田――――――――――――――――――安倍――三塚―― (清和会)
   └藤山                        └  …
 河野――――――――中曽根――――――――――――――――渡辺―――
          └ …
 三木・松村―――三木――――――――――――河本―――――――――――
         └松村
 
●1989年―昭和の終わり(p151)
〔 1989年は、55年体制の「終わりの始まり」の年と見なせる。あるいは、本書の用語でいうところの、「実質的意味の55年体制」終焉の年にあたる。同年1月に昭和天皇が崩御したが、奇しくも、改元とともに日本政府は激動の時代に入るのである。7月の参院選における自民党の大敗は、その一つの表れにすぎない。〕
〔 他方で、革新政党の基盤も急速に弱体化しつつあった。1989年6月の天安門事件は社会主義国・中国への信頼感を国民から失わせ、11月にはベルリンの壁崩壊、12月には米ソ首脳の「冷戦終結」宣言(マルタ会談)があり、いよいよ東側陣営の解体が現実化していく。国内では11月に総評がついに解散し、民間労組主導の下、新たなナショナルセンター・日本労働組合総連合会(連合)が発足した。社会党=総評ブロックの、文字通りの終焉であった。社会党にとって、参院選の勝利がいっときの夢にすぎなかったことは、この後まもなく明らかとなる。〕
 
●小沢不出馬(p162)
 1991年10月初旬、海部首相が退陣を表明。自民党総裁選へ。
 竹下派では独自候補擁立の動きがあったが、有力候補の小沢一郎会長代行が健康問題などを理由に辞退したため、頓挫した。
 その結果、候補者は宮澤喜一、渡辺美智雄、三塚博の三者となり、久しぶりに派閥領袖が相争う総裁選となった。
 
●自民党派閥の系譜(ポスト55年体制期)(p220)
    1995   2000    05    10    15    20
           ┌ … ――谷垣┐  
 宮澤――――加藤――       ―古賀――岸田――――――――― (宏池会)
      │    └ … ――古賀┘
      └河野―――――――麻生――――――――――――――――
 河本―――――高村――――――――――――― … ――┘
 小渕――――綿貫―橋本―――津島―――額賀――――――竹下―茂木― (経世会)
 三塚――――森――――――――町村――――――細田―――――安倍― (清和会)
      └亀井┐
         │─   …  ――伊吹――――――二階―――――――――
 渡辺――――村上┘
      └山崎――――――――――――――石原――――――森山―
                            石破―――
 
●ネオ55年体制(p281)
〔 第二次安倍政権発足以降、とりわけ2017年に立憲民主党が結成されて以降の政治状況がいかに55年体制的であるかという点は、すでに前章で述べた。政党間競争の構図という面で新旧55年体制に共通するのは、(1)保守政党が優位政党である、(2)与野党第一党がイデオロギー的に分極的な立場を取っている、という2点であった。言い換えれば、戦後日本では今も昔も、圧倒的に強い右派政党の自民党が政権を取り続け、それと対峙する社会党/立憲民主党が(平均的な有権者から見て極端な)左派路線に傾斜している。
 もっとも、55年体制期と今日の政治のあり方が完全に同質であるわけではもちろんない。一つの明らかな違いは、二つの時代で政治制度が大きく異なっているという点である。新旧55年体制の間には、大規模な政治制度改革が行われた時代が挟まっている。〕
 
【ツッコミ処】
・転じるなるなど(p142)
〔 まず民社党は、春日一幸委員長の指導の下、1970年代後半に入り、反共姿勢を一層露わにし、日米安保条約を評価する方向に転じるなるなど、右傾化の度を強めた。防衛政策では80年に政府提出の防衛関係二法に賛成し、ついには防衛費GNP1%枠撤廃を要求するなど、「自民党より右」とさえ評されるようになる。〕
  ↓
 「転じるなるなど」! 新書としては(しかも老舗の中公新書!)珍しい誤植。
 
(2023/8/24)NM
 
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世界正義論
 [社会・政治・時事]

世界正義論 (筑摩選書)
 
井上達夫/著
出版社名:筑摩書房(筑摩選書 0054)
出版年月:2012年11月
ISBNコード:978-4-480-01558-7
税込価格:1,980円
頁数・縦:390, 8p・19cm
 
 難解な内容であった。やがて世界が一つになり、世界政府ができて人類の幸福が訪れるという理想郷は幻想であり、世界政府が民主的に機能しないという指摘は目から鱗。
 そもそも、世界正義論には五つの主要な問題系があり(第2章から第6章のテーマ)、本書は世界正義の概説書ではないものの、それらすべてを網羅している、とのことである(p.386、あとがき)。
 
【目次】
第1章 世界正義論の課題と方法
第2章 メタ世界正義論―世界正義理念の存立可能性
第3章 国家体制の国際的正統性条件―人権と主権の再統合
第4章 世界経済の正義―世界貧困問題への視角
第5章 戦争の正義―国際社会における武力行使の正当化可能性
第6章 世界統治構造―覇権なき世界秩序形成はいかにして可能か
 
【著者】
井上 達夫 (イノウエ タツオ)
 1954年、大阪生まれ。77年、東京大学法学部卒業。現在、東京大学大学院法学政治学研究科教授。法哲学を専攻。著書に『共生の作法―会話としての正義』(創文社、サントリー学芸賞受賞)、『法という企て』(東京大学出版会、和辻哲郎文化賞受賞)などがある。
 
(2023/8/9)NM
 
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会社がなくなる!
 [社会・政治・時事]

会社がなくなる! (講談社現代新書)
 
丹羽宇一郎/著
出版社名:講談社(講談社現代新書 2632)
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-06-524959-8
税込価格:924円
頁数・縦:204p・18cm
 
 「会社がなくなる」という漠然としたタイトルであるが、内容的には現状の日本を憂い、将来の日本の方向性を示す提言である。現在のような大企業を中心とした会社組織がなくなり、人々の働き方が変わる、という展望はごく一部。今後、世界に伍していくための日本の処方箋を示す、といった内容が主である。
 
【目次】
序章 すぐそこにある「コロナ以上の危機」―会社が成長し続けるために必要なこと
第1章 「SDGs」「ESG」の看板にだまされるな!―会社にとって大事なのは「中身」と「実行力」
第2章 GAFAも長くは続かない!―これから世界を支配するのは中小企業だ
第3章 いつまで上座・下座にこだわっているのか!―「タテ型組織」を変革して会社を新生せよ
第4章 アメリカと中国、真の覇権国はどっちか?―米中衝突時代に求められる日本企業の役割
終章 中小企業が世界を翔ける!―「信用・信頼」こそ日本の力
 
【著者】
丹羽 宇一郎 (ニワ ウイチロウ)
 元伊藤忠商事株式会社会長。元中華人民共和国特命全権大使。1939年、愛知県生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。1998年、社長に就任。1999年、約4000億円の不良資産を一括処理し、翌年度の決算で同社史上最高益(当時)を記録。2004年、会長に就任。内閣府経済財政諮問会議議員、内閣府地方分権改革推進委員会委員長、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任し、2010年、民間出身では初の駐中国大使に就任。現在、公益社団法人日本中国友好協会会長、一般社団法人グローバルビジネス学会名誉会長、福井県立大学客員教授、伊藤忠商事名誉理事。著書多数。
 
【抜書】
●フリードマン(p40)
 ミルトン・フリードマン「企業の社会的責任は利益を増やすこと」(『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』、1970年)。
〔 要約すれば、企業の経営者は雇い主たる株主の代理人として、その利益に奉仕する責任以外は持たなくていい。企業に人種問題や環境保全などの社会的責任を求めるのは、経営者に政府と同様の働きを求めることだ。それは資本主義ではなく社会主義だ――そう主張しました。〕
 以後、「企業経営者の使命は株主利益の最優先と最大化」という経営理念が米国の資本主義の中核をなし、1980年代からは大幅な規制緩和と市場原理主義の重視を特徴とする「新自由主義」に基づく経営が世界を席巻する。
 
●新修正資本主義(p68)
〔 株価が最高値を付けるような経営を求める株主資本主義は、そのまま放置すれば資本主義そのものを破壊させるのではなか、と私は思います。
 これからの世界は資本主義の暴走を食い止める経済体制、資本主義と社会主義の長所を取り込んだ経済システム、いわゆる「新修正資本主義」が必要なのではないでしょうか。「社会主義」といういと、すぐさま旧ソ連や中国のような一党独裁による強権国家を思い浮かべる人がいるかもしれませんが、もちろんそうではなりません。
 ここでの社会主義は、個人主義的な自由主義経済に対して、より平等で公正な社会を目指す思想、運動、体制です。平たくいえば「自分のためだけではなく、社会全体のために、さまざまな意見に耳を傾け、議論を尽くし、権限と責任を明確にして決定する」という考えに基づく体制です。
 資本主義にもいろいろあり、社会主義にもいろいろあって、呼ぶ名前はどうでもいい。いずれにしても「これまでの資本主義では世界はもうやっていけない」ということは確かでしょう。〕
 
●三つの条件(p178)
 米中のはざまで日本が今後取るべき方向性。
 (1)日本が大国に影響しうる力(存在感)を持つこと。それは人間力。人としての信用・信頼。
 (2)相手について十分に理解すること。互いに理解し、絶えず顔を合わせていれば、相互信頼が生まれる。
 (3)他国と異なる最も重要な役割として、「戦争に近づかない」こと。
 
●衰退途上国(p186)
〔 人口は国力の源です。人口が急速に減りつつある日本は「先進国」ではなく、残念ながら「衰退途上国」と位置付ける人もいます。〕
 
●信頼(p198)
〔 日本人は信用・信頼を得るためのすぐれた国民性を持っていると思います。勤勉さ、やさしさ、モラルの高さは、他国に引けを取らない日本の強みです。〕
 
(2023/8/3)NM
 
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公安警察
 [社会・政治・時事]

公安警察 (祥伝社新書)
 
古野まほろ/〔著〕
出版社名:祥伝社(祥伝社新書 673)
出版年月:2023年3月
ISBNコード:978-4-396-11673-6
税込価格:1,078円
頁数・縦:274p・18m
 
 公安警察とは何かについて、組織、機能、実務にわたり、詳細に解説。
 そもそも「公安警察」とは「警備警察」の一部門であり、一機能であり、組織としても待遇としても刑事部門、交通部門、生活安全部門と同等である、という前提で綴られている。もちろん、法律の許す範囲で行動し、違法捜査はない、と強調しているのだが……。
 なお、第4章は、架空の公安警察官(「名探偵コナン」の登場人物らしい)をネタに、公安警察の実態(との齟齬)が語られる。
 
【目次】
第1章 「公安」概論
第2章 公安警察のリアリティライン
第3章 公安警察の組織
第4章 とある公安警察官像のリアリティライン
第5章 公安警察の機能と実務
第6章 とある公安事件のリアリティライン
 
【著者】
古野 まほろ (フルノ マホロ)
 東京大学法学部卒。警察庁旧1種(現・総合職)警察官として交番、警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務の後、警察大学校主任教授にて退官。複数の都府県と、交通部門以外の全部門を経験。主たる専門は、公安警察・地域警察・保安警察。
 
【抜書】
 
(2023/7/31)NM
 
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中国人が日本を買う理由
 [社会・政治・時事]

中国人が日本を買う理由 (日経プレミアシリーズ)
 
中島恵/著
出版社名:日経BP日本経済新聞出版(日経プレミアシリーズ 497)
出版年月:2023年5月
ISBNコード:978-4-296-11806-9
税込価格:990円
頁数・縦:220p・18cm
 
 多くの中国人が日本に移住してきたり、日本の不動産などを買い漁るのはなぜなのか。この傾向は、コロナ禍以降、加速しているという。その裏にある中国の住みづらさ、将来への不安を、反中・嫌中に偏らずに在日中国人などへの取材をもとにレポートする。
 
【目次】
プロローグ 富裕層が日本に移住する理由
第1章 安心できる国、不安になる国
第2章 留学、起業、そして…彼らが日本を選ぶ理由
第3章 日本のビルは、上海のマンション1室の価格
第4章 中国人を悩ます母国のモーレツ主義
第5章 「日本式おもてなし」の危機
第6章 日本人が知らない、日本文化の底力
エピローグ 豊かになった中国人は幸せか
 
【著者】
中島 恵 (ナカジマ ケイ)
 ジャーナリスト。1967年、山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。
 
【抜書】
●経営管理ビザ(p10)
 2015年4月に「投資経営ビザ」から名称変更。日本において貿易、その他の事業の経営を行い、または当該事業の管理に従事する活動のための在留資格。在留できる期間は5年、3年、1年、6か月、4か月(または3か月)の5種類。
 出入国在留管理庁によると、
 21年に同ビザを取得した中国人は1万3,748人、
 22年は6月までの半年ですでに1万4,615人。
 12年は4,423人、15年は8,690人(「爆買いブーム」が話題になった)、17年は1万2,447人、19年は1万4,442人。
 10年で約3倍に増えた。日本で事業をしようとする中国人が増えている証。
 在日中国人が経営する不動産会社の多くは、特定の行政書士と業務提携し、顧客に対してビザの取得に関するサポートを行っている。来日を希望する人は、ビザの取得と不動産取得を同時進行で行うから。
 
●まじめにやる(p49)
 東京都内でエンジニアとして働く40代男性の弁。
 「留学先の京都は四条の街並みがとてもきれいで、日本に来ただけで自分の生活水準まで一気に上がったような気がしてうれしかった。とくに衛生環境で、日本のトイレは本当に清潔。感動したことを覚えています。それはいまでも変わりません。
 日本は社会が安定しているので、自分の人生設計をしっかりと立てられる。当たり前のことが当たり前にできる。これは中国人から見ると、すごいことなんです。
 何歳になったらこうしようとか、あと何年経つと、どのくらいの収入を得られるとか、日本では計画を立てたら、たいていのことは実行できます。とくに会社員にとって日本は最高の国。まじめにやっていればクビになりませんから、それなりに安定した生活を送れます。
 中国では、まじめにやっているだけだと、逆に負け組になる可能性がある。だから、まじめにやらなくてもうまくいく方法を考えたりする。この違いは大きいです」
 
●中国系大学の日本キャンパス(p63)
 中国の大学の経営多角化により、いくつかの大学が日本にキャンパスを設置、日本人学生を募っている。
 北京語言大学、曁南(じなん) 大学日本学院、など。
 曁南大学日本学院は、千代田教育グループが運営。会長は栗田秀子。福建省生まれ。87年に留学生として来日。
 千代田国際語学院、千葉日建工科専門学校なども運営。千代田国際語学院では、日本語学校運営のほか、中国人向けに日本の大学受験指導も行っている。
 
●儀式感(p196)
 イーシーガン。新しい中国語。
 「節目の行事を行う」「きちんと感」といった意味合い。
 あるサイトの説明。「日本人の生活の中にある儀式めいた部分。こだわり。日本人は春の花見や秋の紅葉狩りなど、日々の暮らしでの儀式感を大切にしている」とある。
 
(2023/7/25)NM
 
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なめらかな社会とその敵 PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論
 [社会・政治・時事]

なめらかな社会とその敵 ――PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論 (ちくま学芸文庫 ス-28-1)
 
鈴木健/著
出版社名:筑摩書房(ちくま学芸文庫 ス28-1 Math & Science)
出版年月:2022年10月
ISBNコード:978-4-480-51120-1
税込価格:1,540円
頁数・縦:443p・15cm
 
【目次】
第1部 なめらかな社会
 生命から社会へ
 なめらかな社会
第2部 伝播投資貨幣PICSY
 価値が伝播する貨幣
 PICSYのモデル
 PICSY、その可能性と射程
第3部 分人民主主義Divicracy
 個人民主主義から分人民主主義へ
 伝播委任投票システム
第4部 自然知性
 計算と知性
 パラレルワールドを生きること
第5部 法と軍事
 構成的社会契約論
 敵
 生態系としての社会へ
 
【著者】
鈴木 健 (スズキ ケン)
 1975年長野県生まれ。1998年慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は複雑系科学、自然哲学。東京財団仮想制度研究所フェローを経て、現在、東京大学特任研究員、スマートニュース株式会社代表取締役会長兼社長。
 
【抜書】
●PICSY(p99)
 Propagational Investment Currency System。伝播投資貨幣システム。
 通常の貨幣である決済貨幣は、SECSY(Settlement Currency System)。
 
●分人(p204)
 dividual。
 ジル・ドゥルーズが「管理社会について」(1990年)という短い論考の中で使った概念。
 現代社会は規律社会から管理社会へ移行している。権力のあり方が、学校、監獄、病院、工場といった閉鎖された空間における規律訓練から、生涯教育、在宅電子監視、デイケアといった時空間に開かれた管理へと変容していく。
 規律社会において、人々が同定されるのはサインと番号のペアであり、それぞれ個人(individual)と大衆(mass)のペアを意味している。
 管理社会では、パスワードというコードが重要。こうした変容はコンピュータという機械によって可能となる。人々を動かすのは、もはや閉鎖された空間での規律を獲得するための合言葉(watchword)ではなく、パスワードによって一人が複数の異なるアクセス権を状況に従って使い分けるようになる。もはや個人/大衆(individual/mass)ではなく、分人(dividual)というべき存在が生まれてくる。
 
●CRISPR-Cas9(p416)
 細菌(バクテリア)は、DNA にCRISPR領域というものをもち、過去感染したファージ(バクテリオファージ。ウイルス)のDNAを時間順に保存していくことができる。過去感染したファージを記録することによる免疫システムの一部と考えられている。新たに細菌内に侵入してきた外来性DNAと照合することにより、もしかつて感染したウイルスであれば、これを切断することで増殖を防ぐ。
 また、これらの記憶、照合、切断を実行する種々のタンパク質をコードする遺伝子群のことをCasと呼ぶ。
 CRISPR領域を使って遺伝子編集ツールを作ったのがCRISPR-Cas9である。
 
(2023/7/13)NM
 
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