SSブログ
社会・政治・時事 ブログトップ
前の10件 | 次の10件

習近平の本当の敵は中国人民だった! 激動する世界を大局で読む
 [社会・政治・時事]

習近平の本当の敵は中国人民だった!
 
渡邉哲也/著
出版社名:ビジネス社
出版年月:2023年3月
ISBNコード:978-4-8284-2500-9
税込価格:1,650円
頁数・縦:223p・19cm
 
 米国との対立を深める中国。習近平は、世界の覇権を目指しているようだが、その野望は実現しないだろうと著者は見る。その理由を、中国の現状を概観しながら解説する。
 
【目次】
第1章 習近平政権の本当の敵は中国人民
第2章 半導体で過熱する米中対立
第3章 底に落ちていく中国経済
第4章 引き起こされる台湾有事
第5章 中国と付き合う各国の事情
第5章 これからの日本の産業と経済
 
【著者】
渡邉 哲也 (ワタナベ テツヤ)
 作家・経済評論家。1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。大手掲示板での欧米経済、韓国経済などの評論が話題となり、2009年、『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)を出版、欧州危機を警告し大反響を呼んだ。内外の経済・政治情勢のリサーチや分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動を行っている。
 
【抜書】
●金盾(p20)
 きんじゅん。中国の情報管理システム(グレート・ファイアウォール)。
 中国国内の通信がすべて管理されている検閲システム。
 金盾をくぐり抜けて情報交換をするため、反政府的な人々はまず、AppleのスマホアプリであるDropboxを使って文章を共有していた。それに気づいた中国当局は、Appleに対してそのサービスを停止するように命じた。
 次に反政府的な人々は、VPNとテレグラム(ロシア製の暗号化ソフト)というソフトを併用して通信しあっていた。反政府的な人々以外にも、多くの国民がこの方式を使い始めた。結果としてゼロコロナ政策に反対するデモの規模も大きくなっていった。
 当局は、VPNそのものを使用禁止にした。発覚すると厳罰に処せられる。VPNとテレグラムがインストールされているかどうかをチェックするためのアプリの搭載をスマホメーカーに義務付けることも検討されている。
 
●ヤマサ醤油(p27)
 ヤマサの醤油がないと、ファイザー、モデルナのメッセンジャーRNAのワクチンを作ることができない。
 ヤマサ醤油は、江戸時代からの醬油屋。東大の医学部創設を支援した。関東大震災の時に医学部の病院を寄進したくらい、医療とのかかわりが深い。醤油もバイオである。
 
●都市戸籍(p106)
 中国には、都市戸籍の都市住民が3億人いる。その他の地域が8億人前後。中国の人口は、実際は11億人前後?
 3億人のうち、1億5000万人くらいがOECDレベル、先進国レベルの生活をしている。年収1000万円以上の富裕層は4000~5000万人と言われている。
 
(2023/7/8)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

成長戦略は台湾に学べ 日本人が知らない隣人の実力
 [社会・政治・時事]

成長戦略は台湾に学べ
 
御堂裕実子/著
出版社名:かんき出版
出版年月:2023年1月
ISBNコード:978-4-7612-7650-8
税込価格:1,760円
頁数・縦:223p・19cm
 
 台湾の良さ、今こそ日本・日本人が見習うべき点を力説した、台湾愛に満ちた書。
 改めて台湾に行ってみたいと思った。マンゴーが美味しい。
 
【目次】
第1章 台湾ってどんなところ?
 日本人が抱くイメージに収まりきらない台湾の素顔
 日本人よりも幸せな人生を送る台湾人!?
  ほか
第2章 日本人がまだまだ知らない台湾人の考え方
 似ているようで似ていない日本と台湾―台湾人は金銭にまつわる話題に開放的
 会社とプライベートの間の壁が低いアットホームな台湾企業―社内イベントを通じて距離を縮める
  ほか
第3章 日本とはまるっきり異なる台湾式ビジネスの進め方
 臨機応変がきく台湾人のメンタリティ―業種にこだわらず互いに手を組める適応力
 日本で売れないものは台湾でも売れない―親日だからと言って、何にでも日本流は通用しない
  ほか
第4章 台湾人の私生活
 値段にシビアな台湾人―「団体購入」や「代理購入」が発達
 台湾が誇る多彩な食文化―古くから根付く素食文化とは
  ほか
第5章 台湾はどうやって新型コロナ禍を乗り切ったのか(コロナ対策の初動に見事成功した台湾―政府による素早い対策の導入と国民に安心を与える丁寧な説明
コロナ期間中の景気刺激策 ほか
 
【著者】
御堂 裕実子 (ミドウ ユミコ)
 1979年東京生まれ。明治学院大学卒業後、日本での広告代理店勤務を経て、台湾国立政治大学へ留学。帰国後2008年に台湾と日本の事業の架け橋となるべく、合同会社ファブリッジを立ち上げる。2017年には台湾Fabridgeを設立。台湾企業とのマッチングや現地デパート、スーパーでの販売プロモーション、EC販売企画運営、日台輸出入物流サポート、マーケットリサーチなどの事業を行っている。日本の地方自治体のアウトバウンド支援や、食品会社、不動産企業、教育事業など様々な業界の台湾進出を手がけ、支援企業は200社を超える。本書は初めての著書となる。
 
【抜書】
●オードリー・タン(p35)
 唐鳳。鳳を日本語の「オオトリ」という読みに寄せて「オードリー」という英語名を付けた?
 2016年、35歳で蔡英文政権のデジタル担当大臣に任命された。
 きっかけとなったのは、2012年に立ち上がったシビックハッカー・コミュニティ「g0v(零時政府)」での活動。
 シビックハッカー……インターネットなどに公開されたデータを活用し、市民が利用しやすいアプリやサービスを開発することで、社会問題を解決しようとするエンジニア。
 
●萌典(p37)
 g0vが開発したスマホ対応の辞書アプリ。
 繁体字の中国語の他に、客家語、原住民の言語、さらに台湾独特の言葉を加えたものがベースになっており、各言語間、さらに英語、フランス語、ドイツ語の対訳が付いている。
 原住民の言葉も幅広く網羅。アミ族のアミ語に関しては8万語以上を登録。
 台湾の教育部(文部科学省)が開発したオンライン辞書が存在していたが、使い勝手が悪かった。スマホでの検索ができない、IDがないと使えない、など。この辞書を改良しようと、g0vのオードリー・タンが中心となって開発がスタートした。
 教育部の英語名称は「Ministry of Education」、略称「MoE」。MoEと日本語の「萌え」が同じ発音だったので、「萌典〈マァンディエン〉」と命名。
 
●損しないように(p48)
 日本では、「他人に迷惑をかけないように」と親に言われながら子どもが育つ。
 韓国では、「人に負けるな」。
 中国では、「他人に騙されるな」。
 台湾では、「損しないように」「後れないように先んじて」。
 
●妻名義(p85)
 住宅購入の際、台湾では妻名義にすることが圧倒的に多い。住宅以外の不動産も同様。住宅は男が妻に残すものという感覚がある。
 台湾では、女性や妻の意見を尊重される文化が根付いている。母の地位も高い。
 
●Gogoro(p138)
 2011年設立。香港生まれ、アメリカ育ちの陸学森が率いる。
 2015年7月に電動スクーター「Gogoro」の出荷を開始。16年8月に1万台を突破。
 17年5月、最新モデルGogoro2が登場。1ヵ月で1万5,000台のセールスを記録。台湾シェアの4分の1を占めるまでに成長。
 台湾全土にバッテリー交換ステーションを設置、2022年現在、2,215か所。93万8,045個のバッテリーが流通、バッテリーユーザーは45万3,300人。
 台湾のオートバイ市場は、ヤマハと光陽、三陽が不動の御三家だった。
 台湾はスクーター社会で、市民の二人に一人がスクーターを所有。
 
●素食(p161)
 スシー。菜食主義者用の料理。
 台湾には菜食主義の人が多く、全人口2,360万人のうちの約14%。インドに次ぐ菜食主義者大国。
 素食食品の成分の表記方法は法律で規定されている。肉や魚が含まれていてはいけない。さらに、卵、牛乳、五葷〈ウーフェン〉(ニンニク、玉ネギ、ネギ、ニラ、ラッキョウ)が使われているかどうか、細かく表記しなくてはならない。
 上記のすべてを含まないものを全素〈チュェンス〉という。
 
●産後保養センター(p171)
 かつての台湾には、「産後一か月間、母親は水に触れてはいけない」という風習があった。この期間は「坐月子〈ツォユエズ〉」と呼ばれ、妊産婦はなるべく体を動かさないようにし、栄養補給に徹する。
 坐月子の間は、洗髪や入浴も禁じられていた。
 今では、病院に併設された「産後保養センター」での静養が普及している。約1ヵ月、母体を休ませ、体調の回復に努める。
 センターに助産師が常駐し、食事も毎食用意してくれる。家族が同室で寝泊まりできる施設もある。
 料金は1泊1万5,000~5万円。
 産後保養センターに入れない人は、坐月子の期間、母親や義母が身の回りの世話をしてくれる。産後ケアシッターの派遣サービスもある。
 
●慈済基金会(p180)
 世界的に有名な慈善団体。仏教系の団体で、世界54か国・地域に組織を有し、様々なボランティア活動を行っている。台湾内では、大学や病院、テレビ局を運営している。
 ビジネスで財を成した人がしばしば寄付先として選ぶのも慈済基金会である。
 2011年の東日本大震災の際にも、震災翌日に現地入りしたのが慈済基金会のメンバーたちだった。3万円の現金が入った封筒を被災者たちに配って回った。
 
●ピンクマスク運動(p204)
 2020年4月、台湾では市民全員に向けてマスクを配布した。性別に関係なく、白やブルー、ピンクのマスクを配布。
 ピンクのマスクを受けとり、「学校に行きたくない」と訴える小学生の男子が続出。
 これを受けた定例記者会見で、CECC(中央流行疫情指揮センター)の陳時中センター長をはじめ、同席した関係者たちが皆ピンクのマスクを着用して登場。「ピンクはいい色だよ。マスクは色より、ウィルスから身を守る機能が大切ですよ」と訴える。その後、総英文総統もインスタグラムにて「ピンクは女性だけの色ではない」というメッセージを投稿。
 政府の姿勢に共鳴した企業各社は、自社のロゴをピンクにして「ピンクマスク運動」に賛同を示す。
 大人たちが率先して「身につけているものの色で人を差別してはいけない」という姿勢を見せることで、社会全体にジェンダーフリーの意識が広まっていった。
 
(2023/6/22)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

師弟百景 “技”をつないでいく職人という生き方
 [社会・政治・時事]

師弟百景 “技”をつないでいく職人という生き方
 
井上理津子/著
出版社名:辰巳出版
出版年月:2023年3月
ISBNコード:978-4-7778-2825-8
税込価格:1,760円
頁数・縦:215p・19cm
 
 さまざまな職人たちの仕事を紹介しながら、職人の世界における師匠と弟子との関係の機微を伝える。茶の湯の文化を中心に紹介する月刊誌『なごみ』(淡交社)に掲載された連載記事11本に、追加取材した5本を収録。
 師匠たちの世代は、「俺の背中を見ろ」「技は盗め」という環境で育った人が多いが、その弟子たちは言葉を介して技術を教わり、師匠に丁寧に接してもらっている例が多いようだ。時代が変わった。その背景には、伝統技術を後世に伝えたいという職人たちの切実な思いと、弟子入りする人たちの年齢層の上昇があるらしい。以前は10代半ばくらいで弟子入りしていたが、いまでは大学・大学院卒、社会人経験者など、職人の世界に入ってくる年齢が上がっているのである。
 
【目次】
庭師
釜師
仏師
染織家
左官
刀匠
江戸切子職人
文化財修理装潢師
江戸小紋染織人
宮大工
江戸木版画彫師
洋傘職人
英国靴職人
硯職人
宮絵師
茅葺き職人
 
【著者】
井上 理津子 (イノウエ リツコ)
 日本文藝家協会会員。1955年、奈良市生まれ。ライター。大阪を拠点に人物ルポ、旅、酒場などをテーマに取材・執筆をつづけ、2010年に東京に移住。現代社会における性や死をテーマに取り組んだノンフィクション作品を次々と発表し話題となる。
 
【抜書】
●江戸切子(p98)
 江戸切子の発祥は江戸時代後期。約180年前。
 日本橋大伝馬町のビロード屋(ガラス屋)の主人がガラスの表面に彫刻したのが始まり。今につながるカットの技法は明治期にイギリス人がもたらした。江東区、墨田区など東京東部地区で作られ、庶民の日用品として愛用されてきた。
 単に「切子」と呼ばれていたが、1985年に東京都伝統工芸品に指定されたころから「江戸切子」とブランディングされるに至った。2002年には、国の伝統的工芸品に指定された。
 業界団体の江戸切子協同組合(江東区)が定める江戸切子の条件は、① ガラス、② 手作業、③ 主に回転道具を使用、④ 関東一円で生産、の4点。
 
●ビスポーク(p167)
 bespoke。
 依頼者と話をし、使用目的やファッションの全体的は嗜好などをヒアリングし、最適な素材やデザインを提案して商品を作る。作り手の特色が前面に出る点が「フルオーダー」と異なる。作り手のテイストを気に入った人のみを対象とする。
 
●鋒鋩(p179)
 ほうぼう。硯の表面にある、目に見えないほどの大きさの凸凹のこと。墨をすりおろすときに威力を発揮する表面の極小のギザギザ。
 もともとは、刀の切っ先を意味する。
 山梨県早川町の雨畑(あめはた)硯は、この鋒鋩ゆえにすり味が滑らかで、水分の吸収が少ないため水持ちがよいらしい。
 
(2023/5/6)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

人間と宗教あるいは日本人の心の基軸
 [社会・政治・時事]

人間と宗教あるいは日本人の心の基軸
 
寺島実郎/著
出版社名:岩波書店
出版年月:2021年11月
ISBNコード:978-4-00-061505-1
税込価格:2,200円
頁数・縦:276p・20cm
 
 戦後日本人の空疎を、宗教との関連で考察する。根底には、国家神道再興に対する危惧がある。
 
【目次】
1 人類史における宗教―ビッグ・ヒストリーの誘い
2 世界化する一神教―現代を規定する宗教
3 仏教の原点と日本仏教の創造性
4 キリスト教の伝来と日本―日本人の精神性にとっての意味
5 神仏習合―日本宗教史の避けがたいテーマ
6 江戸から明治へ―近代化と日本人の精神性
7 現代日本人の心の所在地―戦後日本を問い直す
 
【著者】
寺島 実郎 (テラシマ ジツロウ)
 1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産常務執行役員、三井物産戦略研究所会長等を経て、現在は(一財)日本総合研究所会長、多摩大学学長、(一社)寺島文庫代表理事。国土交通省・国土審議会計画部会委員、経済産業省・資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員等を務める。
 
【抜書】
●利他愛(p36)
〔 世界中の多くの宗教者、信仰者と向き合ってきた私の体験を通じた直感だが、世界宗教の本質は「利他愛」だと思う。つまり、他者への配慮であり、心の寛さである。それが人間の内面的価値に訴え、民族を超えて受容される素地となったと思われる。一〇年を超えた米国生活の中で、また中東・アジアを動いてきた経験の中で、敬虔に宗教に向き合う人達が、ときに利害相反や緊張があっても、異邦人である私に見せた温かい配慮は、宗教性の希薄な戦後なる日本に生まれ育った私に、熱い思い出を残している。そのたびに宗教の持つ意味を再考させられたものである。〕
 
●クシャーナ帝国(p80)
 イラン系騎馬民族クシャーンは、AD1世紀後半に、それまで服従していた大月氏を倒してクシャーナ帝国を形成し、1世紀末には「パックス・クシャーナ」の時代を迎えた。
 インド西北部のガンダーラから中央アジア、敦煌など中国北西部を版図とし、最盛期の王カニシカが仏教に帰依し、中国に本格的に仏教を伝える触媒となった。ローマ帝国との交流でもたらされた金貨に王とブッダの姿を刻印し、シルクロードに仏像などの仏教美術を花開かせた。
 
●大秦寺(p116)
 635年、ペルシア人で景教僧のアロペン(阿羅本)が長安にネストリウス派キリスト教を伝え、638年には教会(景教寺院)として大秦寺を建てた。
 日本に景教が伝わったのは736年。入唐副使中臣名代が3人の景教僧を連れて帰国した。
 
●クラーク博士(p143)
 1885年(明治18年)にマサチューセッツ州アマースト大学に選科生として入学した内村鑑三は、その頃、札幌農学校の校長だったW・S・クラーク博士と面談している。第2期生だった内村は、農学校時代、直接クラーク博士の教えを乞う機会がなかった。
 クラークの印象について「彼ハ宗教家タル以上ニ軍人ナリ」という印象を持った。
 この時期のクラークは、鉱山投資会社を起こしたものの、パートナーが引き起こした詐欺事件に巻き込まれ、訴訟沙汰の最中だった。教育者としての名声は地に堕ち、俗臭漂う投機家として「失意の境遇」にあった。この面談の半年後にクラークは死去する。
 
●天海(p163)
 徳川家は、本来、浄土宗の檀家であった。三河岡崎の領主だった時代から、岡崎の大樹寺が菩提寺だった。そのため、浄土宗の増上寺が江戸における徳川の菩提寺となった。
 家康が天台宗の僧侶天海(1536-1643年、享年107歳)を重用したことが、三代家光までの徳川初期の宗教政策に大きく影響をもたらした。
 1616年、家康の死後、天海の「神仏習合神道」の基づき、家康を神格化して「東照大権現」として日光に祀り、天台宗の輪王寺が取り仕切った。
 1625年(寛永2年)には、上野寛永寺を開山。寺領・境内合わせて32万坪。
 三代家光は日光に、四代家綱、五代綱吉は寛永寺に葬られたが、以後、歴代将軍は増上寺と寛永寺が半数ずつ将軍家の菩提寺としての役割を分担した。
 御三家では、尾張が浄土宗、紀州が天台宗。水戸は二代光圀の影響で儒教にこだわり、葬祭に仏教の関与を許さなかった。水戸出身の慶喜は朝廷に配慮し、遺言で神式での葬儀を寛永寺で行い、谷中墓地に埋葬された。
 
●6万(p165)
 元禄期(17世紀末)、幕藩体制の日本において6万3,276の村が存在した。
 神社は全国に約8万。(p170)
 
●新党の三層構造(p176)
 日本精神史における神道の三層構造。
 第一層:民族的風習としての宗教……津田左右吉。山河から一木一草に至るまで神意が宿る。八百万の神々が宿る神社。
 第二層:神祇神道……天皇制を権威づける神道の萌芽。天武・持統期の律令体制の確立を目指す中で、「太政官」と並ぶ「神祇官」が設置された。右大臣として専権を握った藤原不比等(鎌足の次男)が、大宝律令、養老律令を関与・主導し、「アマテラスを祖として神武を初代天皇とする天皇制の神話」を創作した中心人物。
 第三層:宗教としての神道……圧倒的な体系性を有する仏教の影響を受けて、神仏習合の中から形成される。平安から鎌倉期に「本地垂迹説」に立つ仏教優位の神仏習合(仏本神迹)が浸透。そこから室町期における「神道の自立」という動きが胎動する。
〔 こうした三層が複雑に相関し、時代との関係性が絡み合って、近世神道、明治期の国家神道が表出するのであり、三層の濃淡をどう意識するかで、神道の捉え方は異なる。そこに神道の特異性があるといえる。とくに、戦後日本の「宗教なき状況」を生きた日本人は、至近にある神社神道(初詣、お祭りの氏神信仰)と、戦前期の強烈な「国家神道」(天皇制絶対主義の「国体」を護持する神道)の違いを意識することなく生きており、「国家神道」が国家権力のイデオロギーとして、強制力を持って迫る悲劇を忘却している。日本精神史における神道の三層の相関を解く視界が求められるのである。〕
 
●承久の乱(p180)
〔 鎌倉期における「承久の乱(一二二一年)は「天皇制」が廃絶になる可能性さえあった日本史の転換点であった。つまり、朝廷の実権を握る後鳥羽上皇をはじめとする三人の上皇(順徳上皇、土御門上皇)と仲恭天皇、すなわちオール朝廷が結束して討幕の院宣を出して鎌倉幕府の打倒を目指したが、執権北条泰時を支える母・北条政子(頼朝の妻)の「いざ鎌倉」の檄に刺激された東国武士団に大敗し、三上皇は隠岐、佐渡、土佐に流罪、近臣は斬首となった。幕府が天皇の選択権さえ握るという天皇制の危機であった。だが、天皇制の廃絶や、天皇の権威を否定する展開にはならなかった。天皇の権威を権力が利用するという意図が日本政治の深層に埋め込まれた瞬間であった。〕
 
●即位灌頂(p187)
〔 空海の偉大さは、人間の内奥の苦悩に向かいがちな仏教の視界を「宇宙」に拡張したことにある。大日如来を中心に据えた立体曼陀羅の世界観である。この世界観は「国家鎮護」の仏教の位相を変えた。真言密教的宇宙観の中に、現世における天皇の権威さえ相対化させたのである。その象徴が「即位灌頂」である。天皇が即位に当たって大日如来の印を結ぶという儀式で、地上の権力を宇宙観の中に位置付けるということであり、仏教による皇位の権威付けともいえる。京都の東寺に残る金剛界曼荼羅などを見つめると、空海の視界の大きさがわかる。即位灌頂は、平安後期の一〇六八(治暦四)年の後三条天皇の即位時から導入された。次第に儀礼的なものになったようだが、天皇の即位灌頂は江戸期最後の孔明天皇まで続いたという。〕
 
●神風特攻隊(p202)
  しき島の やまとごころを人とはば 朝日ににほふ山ざくら花
 本居宣長61歳の時、自画像一幅に書き添えた歌。
 神風特攻隊の部隊名に曲解・利用された。「敷島」隊、「大和」隊、「朝日」隊、「山桜」隊。
 
●PHP(p235)
 Peace and Happiness through Prosperity。豊かさを通じた平和と幸福。
 都市新中間層の宗教?
 1946年、松下幸之助が提起した概念。翌年、『PHP』という雑誌も創刊された。
 〔GHQからの追放指定を受け、解除嘆願に動いてくれた労働組合への熱い思いが「労使の共存共栄」の基本哲学としてPHPを強調したと感じられる。「労使対決」という戦後日本の新しい対立を克服する概念として、「まずは会社の安定と繁栄が大切」というPHP的志向は定着した。〕
 
●経済主義(p236)
〔 ひたすら「繁栄」を願う「経済主義」が戦後日本の宗教として、都市新中間層に共有されていった。だが、そこには、明治期の日本人が、押し寄せる西洋化と功利主義に対して「武士道」とか「和魂洋才」といって対峙した知的緊張はない。「物量での敗北」と敗戦を総括した日本人は、「敗北を抱きしめて」、アメリカに憧れ、アメリカの背中を「追いつけ、追い越せ」と走ったのである。そこには米国への懐疑は生まれなかった。資本主義と対峙しているかに見えた「社会主義」も、ある意味では形を変えた経済主義であった。階級矛盾にせよ、所有と分配の公正にせよ、経済関係を重視する視点であり、経済主義において同根であった。〕
 
(2023/4/24)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

日本インテリジェンス史 旧日本軍から公安、内調、NSCまで
 [社会・政治・時事]

日本インテリジェンス史 旧日本軍から公安、内調、NSCまで (中公新書)
 
小谷賢/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2710)
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-12-102710-8
税込価格:990円
頁数・縦:279p・18cm
 
 日本におけるインテリジェンスについて、戦後の歴史をたどる。
 
【目次】
序章 インテリジェンスとは何か
第1章 占領期の組織再建
第2章 中央情報機構の創設
第3章 冷戦期の攻防
第4章 冷戦後のコミュニティの再編
第5章 第二次安倍政権時代の改革
終章 今後の課題
 
【著者】
小谷 賢 (コタニ ケン)
 1973年京都府生まれ。立命館大学卒業、ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修士課程修了。京都大学大学院博士課程修了。博士(人間・環境学)。英国王立統合軍防衛安保問題研究所(RUSI)客員研究員、防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究官、防衛大学校兼任講師などを経て、2016年より日本大学危機管理学部教授。著書『日本軍のインテリジェンス』(講談社選書メチエ、第16回山本七平賞奨励賞)ほか。
 
【抜書】
●5~10%(p4)
 インテリジェンス・コミュニティの組織数は、国によってさまざま。米国では18、イスラエルでは4。
 コミュニティの規模は、その国の軍隊のおおよそ5~10%くらいの人員と予算が割り当てられている。
 米国は8兆円、20万人(米国防予算の約10%)、英国は4200億円、2万人(同7%)。
 日本は1500~2000億円、6000人程度(都道府県警察の公安部は含まず。防衛費の3~4%程度)。
 
●縦割り(p11)
 太平洋戦争中、日本陸軍は米軍の高度な暗号の一部を解読していたが、海軍は解読することができなかった。
 陸軍はそのことを知っていたにもかかわらず、自分たちの暗号解読情報が「陸軍の」機密事項にあたるとして、海軍に提供しなかった。
 米軍の矢面に立たされる海軍こそ、米軍の暗号解読情報が必要であるにもかかわらず。
 
●調査室(p34)
 1952年4月9日、吉田茂首相は総理府令第9号によって、総理府に内閣総理大臣官房調査室を設置した。村井順室長。10月1日の衆議院議員選挙によって、公職追放されていた緒方竹虎が復帰すると、吉田は緒方を官房長官に抜擢。旧軍部の影響力を極力排除した、吉田、緒方、村井のトラアングルを形成。
 定員は7名。その後、7月に31名に増員。
 
●内調(p53)
 1957年、調査室は総理府から内閣官房に移される。内閣調査室(内調)。官房長官に対して、毎週の報告を行うようになる。
 室長ポストは警察、次長ポストは外務、という慣例。
 国内部(第一部)、国際部(第二部)、報道調査部(第三部)、資料部(第四部)、研究部(第五部)、情勢判断会議(第六部)という構成。定員は36名から51名に増員。
 
●別室、調別(p73)
 1958年4月1日、陸上自衛隊幕僚監部第二部別室(別室、または仁別)を創設。通信の傍受、解読などのシギントを担う。
 ⇐陸上自衛隊第一幕僚監部暗号班⇐保安隊第一幕僚部第二部分遣隊(1952年7月)⇐警察予備隊総監部調査部暗号班(1950年7月)。
 1978年1月、陸上自衛隊幕僚監部調査部第二課別室(調別)に改編。
 
●サクラ、チヨダ(p82)
 1960年7月、最高裁判決によって、公安警察が新たな立法措置に寄らずに調査活動をすることが認められる。
 警察庁警備局は、一係が左翼、二係が右翼、三係が外事で、四係が「サクラ」と呼ばれる隠密組織だった。
 1986年、共産党国際部長を務めていた緒方靖夫宅の盗聴工作が明るみに出たため「サクラ」は廃止され、その後は「チヨダ」に受け継がれる。
 外事警察(三係?)の主務は国内の外国勢力の監視。中・ソ在京大使館、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)の定点観測、尾行による接触者の洗い出し、など。
 
●MICEの原則(p103)
 インテリジェンスの世界において、協力者を獲得するための原則。
 Money(金)、Ideology(思想信条)、Coercion/Compromise(強要と妥協)、Ego(エゴ)。
 これらのうち、対象者に最も響くところを突くのがコツ。
 
●内調(p125)
 1986年7月1日、安全保障会議の設置に併せて、内閣調査室を「内閣情報調査室(内調)」に改編。
 さらに、合同情報会議を内閣官房に設置。内閣官房副長官(事務)が主催し、内調、外務省情報調査局、防衛庁防衛局、警察庁警備局、公安調査庁の五つの組織が集まってお互いの情報を共有する場とする。
 しかし、合同情報会議は、情報を共有してそれを官房長官に上げるまでしか想定されておらず、何のために情報を共有するのかという点が不明瞭だった。
 
●外務省のIAS(p147)
 1993年、外務省では情報調査局を改編し、国際情報局(国情)を設置。組織的にインテリジェンスを扱う体制を整える。
 2002年の政治スキャンダル「外務省のラスプーチン」事件の影響で、2004年、国情は「国際情報統括官組織(IAS)」へと改編され、事実上「局」から格下げされる。
 
●情報本部(p153)
 1997年1月20日、防衛庁統合幕僚会議下の組織として、情報本部設立。人員1700名。
 公安警察、公安調査庁に次ぐ、日本で三番目の規模のインテリジェンス機関の誕生。
 電波部……定員の三分の一を占める。
 画像部……現・画像・地理部。外国軍隊に関する衛星写真を収集・分析。
 分析部……公開情報の収集や分析。
 緊急・動態部……現・統合情報部。外国の軍隊に関する情報の収集・分析や、自衛隊各部隊の情報を集約。
 
●内閣衛星情報センター(p162)
 2001年4月、内閣情報調査室の下部組織として「内閣衛星情報センター」が設置される。
 2003年3月28日、種子島宇宙センターから、H-ⅡAロケットによって日本初の情報収集衛星が打ち上げられる。
 
●内閣情報官(p166)
 2001年1月、内閣情報調査室長が「内閣情報官」に格上げされる。(本書では20年1月となっているが……)
 各省庁の事務次官や、警察庁長官、統合幕僚長と同格。
 99年の内閣法改正により、内閣官房は内閣の総合戦略機能を担うとともに、最高かつ最終の調整機関と位置付けられたことによる。
 行政改革に伴う公安調査庁の人員削減により、その一部40名の定員が内調に移管、170人体制に。内閣衛星情報センターの定員は200名以上。
 
●インテリジェンス(p168)
 2005年、元内調室長の大森義夫が『日本のインテリジェンス機関』を発表。
 翌年、元NHKワシントン支局長の手嶋龍一と佐藤優の対談本『インテリジェンス 武器なき戦争』が発刊2か月足らずで23万部を超える。
 それまで「諜報」と翻訳されてきた「インテリジェンス」という言葉が市民権を得る。
 
●方針(p175)
 2008年2月14日、「官邸における情報機能の強化の方針」が公表された。
 〔本「方針」は、戦後日本のインテリジェンス史において、最も重要な文書の一つであるといってもよい。なぜなら同文書は、日本政府が公式にインテリジェンス強化の方針について定めた初めてのものであり、その後の政府によるインテリジェンス改革は「方針」に基づいている上、ほとんどの提言内容が実現しているからである。今から振り返ってみると、予言の書といっても良いような内容となっているため、少し具体的に見てみよう。〕
 ① 情報収集機能強化……情報収集機能の強化として、政策と情報の分離という原則がうたわれ、対外人的情報収集機能の強化、情報収集衛星の拡充、各省庁の情報収集体制の強化が目標に掲げられている。2015年12月に、国際テロ情報収集ユニット(CTU-J)として結実。情報収集衛星も、4機体制から8機体制に拡充。
 ② 情報集約・共有体制の強化……それまで5省庁に限定されていた情報コミュニティを拡充し、財務省、金融庁、経済産業省、海上保安庁等を加えた「拡大情報コミュニティ」の概念を提示。
 ③ 情報保全体制の強化……「セキュリティ・クリアランス制度(秘密取扱資格)」となる秘密取扱者適格性確認制度を導入。各省庁が共通の資格で一部の秘密を取り扱うことを目指す。また、共通のイントラネットの整備や、各省庁の情報担当者を集めて合同研修を行う制度によって、担当者間の人的交流を進める。
 
●北村滋(p192)
 2011年から8年近くも内閣情報官を務める。そのため、警察庁長官や危機管理監よりも年次が上になり、結果として内閣情報官の地位を高めた。その間に、内調を中央情報機関として定着させ、数々のインテリジェンス改革を断行した。
 外事警察のキャリアを持つ北村は、警察においてもインテリジェンスの第一人者として一目置かれていた。
 それまで週1度だった内閣情報官による総理ブリーフィングを週2回にし、うち1回はインテリジェンス・コミュニティを構成する、警視庁警備局、防衛省情報本部、外務省統括官組織、公安調査庁、内閣情報衛星センター等の各機関の担当者が直接総理にブリーフィングする形式をとった。
 2013年8月、自民党で町村信孝を座長とする「党インテリジェンス・秘密保全等検討プロジェクト」が立ち上がり、内調を事務局として法案の作成が行われた。党内には法案に反対する声も多かったが、北村が法案の必要性を説明して回った。10月25日に「特別秘密の保護に関する法律案」が閣議決定、翌月から衆議院「国家安全保障に関する特別委員会」で審議が開始される。12月6日に「特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)」として成立。2014年6月には、両院で情報監視審査会を規定するための情報監視審査会規程が議決された。同年12月10日、「情報監視審査会」と、内閣府に特定秘密の指定状況を監視するための「大臣官房独立公文書管理監」が設置された。(p200)
 
(2023/3/30)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

マイホーム山谷
 [社会・政治・時事]

マイホーム山谷
 
末並俊司/著
出版社名:小学館
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-09-388857-8
税込価格:1,650円
頁数・縦:245p・19cm
 
 山本雅基と「きぼうのいえ」を中心に、山谷の現状とその地域包括ケアシステムを描く。
 
【目次】
序章 山谷と介護と山本さん
第1章 よそ者たちの集まる街
第2章 「きぼうのいえ」ができるまで
第3章 壊した壁と壊れた心
第4章 「山谷システム」は理想か幻想か
第5章 山谷のマザー・テレサの告白
終章 マイホーム山谷
 
【著者】
末並 俊司 (スエナミ シュンジ)
 1968年、福岡県生まれ。介護ジャーナリスト。日本大学芸術学部を卒業後、97年からテレビ番組制作会社に所属し、報道番組制作に携わる。2006年からライターとして活動。両親の在宅介護を機に、17年に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を取得。『週刊ポスト』を中心として、介護・福祉分野を軸に取材・執筆を続ける。『マイホーム山谷』で第28回小学館ノンフィクション大賞受賞。
 
【抜書】
●三大寄せ場(p7)
 東京の山谷(東京都台東区)
 大阪の釜ヶ崎(大阪市西成区)
 神奈川の寿町(横浜市中区)
 
●山谷(p40)
 〈「山谷」という地名は、江戸時代から存在しており、昭和41年以前は現在の住居表示でいう清川一・二丁目、東浅草二丁目の一部を「浅草山谷一丁目から四丁目」としていた〉(東京都福祉保健局『山谷地域―宿泊者とその生活―』、平成31年3月)。
 現在も台東区と荒川区にまたがる1.7㎢ほどの地域に簡易宿所(いわゆるドヤ)が密集しており、山谷地区と総称している。
 江戸時代、この界隈には、吉原遊郭や小塚原刑場(地元の人は「こづかっぱら」と発音)などが置かれていた。また、日光街道や奥州街道の主要な宿場町だったこともあり、素泊まり専用で雑魚寝の木賃宿が軒を連ねた。
 明治通りと吉野通りの交差点「泪橋」は、かつてここに思川(おもいがわ)が流れており、橋を渡れば小塚原刑場だった。縛られた罪人は、橋を渡るときに江戸方面を振り返って涙を流した、ということから「泪橋」の名がついたとも。
 1896年(明治29年)、福島県の常磐炭田から石炭を運び込むため、泪橋交差点の荒川区側に隅田川駅が開業し、荷下ろしを請け負う人足が各地から大量に集まった。
 
(2023/3/25)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

秘録齋藤次郎 最後の大物官僚と戦後経済史
 [社会・政治・時事]

秘録 齋藤次郎 最後の大物官僚と戦後経済史
 
倉重篤郎/著
出版社名:光文社
出版年月:2022年7月
ISBNコード:978-4-334-95321-8
税込価格:1,650円
頁数・縦:248p・19cm
 
 10年に一人の逸材といわれた大蔵官僚の成果と蹉跌を、戦後経済史・政治史の裏面史として解き明かす。
 
【目次】
第1章 大連立 15年目の証言
 不決断ゆえの挫折
 トップ会談合意後の決裂
第2章 生い立ち・入省まで
 敗戦、そして引き揚げ
 戦後の混乱と成長
第3章 大蔵官僚として
 主計局若手時代
 主計局参謀入り
 財政規律改革
 主計本流コース
第4章 小沢一郎と二人三脚
 官房長時代―湾岸1兆ドル支援
 主計局長時代―国際貢献税の失敗
 事務次官時代 国民福祉税の失敗
第5章 退官後 郵政社長
 郵政社長以前
 郵政社長として
 
【著者】
倉重 篤郎 (クラシゲ アツロウ)
 1953年生まれ。東京都出身。毎日新聞客員編集委員。東京大学教育学部卒業後、毎日新聞社に入社。水戸支局、青森支局、東京本社整理部、政治部、経済部、千葉支局長などを経て、2004年に政治部長、11年に論説委員長を務める。
 
【抜書】
●満州生まれ(p72)
 1936年1月15日、齋藤次郎は、旧満州・大連で生まれた。兄の一郎(33年生まれ)はフランス文学、妹の鞆子(42年生まれ)は経済学で大学教授になっている。
 父親は東京出身、満鉄調査部に勤務していた。
 4歳で上海に転勤。その後、天津、北京、奉天を経て、敗戦は疎開先の営口で迎えた。
 
●主計局(p95)
 主計局……各省の予算を査定。
 主税局……税務行政を担う。
 理財局……国有財産を管理する。
 
●企画担当(p107)
 72年6月、主計局総務課課長補佐(企画担当補佐)に。2年間。
 企画担当は、大蔵省の作戦参謀本部。予算の骨格、フレームを作る。主計官僚たちの憧れのポスト。
 〔拡大型か緊縮型か。増税か経費削減か。時の政権がどういう思想、哲学に基づいて予算を組むか。政治の要請と主計官僚の蓄積されたノウハウが一体となって、国民生活の基本設計がここで決まることになる。〕
 
●下水道特例債(p115)
 74年7月、理財局資金第一課長補佐に就任。
 下水道特例債を発案。
 下水道事業は、初年度は自治体の負担が高く、後年度に行くほど国の補助率が高くなる。特例債で自治体支出を肩代わりすることにより、事業開始の障害を軽減する。一方で、国の負担を標準化させる仕組みでもあった。
 事業規模は維持・拡大できるし、初年度の国費は節約できる。したがって、国の一般会計そのものは緊縮の体制を維持できる。下水道事業費の一般会計歳出が半分になった。
 建設省下水道課長もこの案に飛びついた。反対はどこにもなく、理財局の仕事として全省的に評価された。制度はいまも続いている。齋藤自身にとっても「個人としてやった最初のヒット作だ」となっている。
 
●企画主計官(p119)
 79年、ドイツから帰国後、主計局企画担当主計官に就任。82年6月までの3年間。80年度予算「財政再建元年イブ予算」(竹下登蔵相)。齋藤改革四点セット。10年に一度の逸材のいわれ。
 歳出百科……財政ガイドブックの作成。担当主計官が歳出の内容を分かりやすく解説。80年7月に第一稿。原稿を出す現場の負担が強く、81年度は内部資料としてのみ作成。
 予算三分類・一般歳出創設……予算項目・分類の単純化・明確化。歳出分を国債費(元利払い)、地方交付税、一般歳出の三分類に。前二者の義務的経費とは異なり、それ以外の歳出を政策費の塊として「一般歳出」として新たな概念でくくり、努力次第で削減可能だと切り分け、財政再建のキーワードにした。
 公債減額フレーム……公債1兆円減額鍵掛け方式。公債発行額を歳出入の差額としてはじき出すのではなく、編成前に対前年比で1兆円減額することをあらかじめ宣言。
 主計官フレーム……財政規律強化のための組織内部の改革。ドイツの「回章」方式をまねて、情報の共有をはかる。各主計官ごとに次年度予算の上限をあらかじめ設定、主計局長名でその順守を指示。
 
●3年間の成果(p129)
〔 齋藤にとって、企画担当主計官の3年は「頭を使って予算改革をした。大蔵省時代の一番の華」だった。主計官フレームはいまだに使っているし、一般歳出という括り方も山口、吉野両主計局長時代にも踏襲された。シーリングの導入も加えるとその後の大蔵省の予算編成の基本的枠組みは齋藤主計企画官の3年間で作られた、ということになる。
 齋藤の後の次官篠沢恭助によるとこうなる。
 「マイナスシーリング、ゼロシーリング両方とも齋藤次郎が考え出した。予算フレームというのは予算編成段階での用語だ。シーリングは要求段階のテクニックだ。その両方式を彼が編み出した」〕
 
●近畿財務局長(p131)
 82年6月、公共事業担当の主計官。
 83年6月、主計局総務課長。
 84年6月、文書課長。
 85年、近畿財務局長。主計局エリートにとっての羽休めのご苦労さんポスト。
 86年6月、主計局次長。
 88年6月、経企庁官房長。
 90年6月、大蔵省官房長。
 
●小沢一郎との二人三脚(p190)
 91年6月、主計局長。
 93年6月~95年5月、事務次官。
 齋藤は、小沢(自民党幹事長)との二人三脚で、湾岸増税(91年4月)、国際貢献税(91年12月、廃案)、国民福祉税(91年4月、廃案)に注力してきた。
 
(2023/3/25)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

希望の教室
 [社会・政治・時事]

希望の教室 (THE BOOK OF HOPE)
 
ジェーン・グドール/著 ダグラス・エイブラムス/著 ゲイル・ハドソン/〔著〕 岩田佳代子/訳
出版社名:海と月社
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-903212-73-9
税込価格:1,760円
頁数・縦:301p・19cm
 
 数回にわたるインタビューをもとに、ジェーン・グドールのメッセージを対話風にまとめた書。
 
【目次】
希望をみつけてみませんか?
1 希望とは何か
 ウイスキーとスワヒリ料理
 希望は実在する?
 希望をなくしたことはありますか?
 希望は科学で説明できるか
 困難な時代にも希望を持つには)
2 希望を信じる4つの根拠
 人間のすばらしい知力
 自然の回復力
 若者の力
 人間の不屈の精神力
3 「希望のメッセンジャー」になる
 ジェーンの歩いてきた道
結論 ジェーンからのメッセージ
 
【著者】
グドール,ジェーン (Goodall, Jane)
 動物行動学者、環境保護活動家。1934年ロンドン生まれ。幼い頃から無類の動物好きだった。23歳で人類学の権威ルイス・リーキー博士と出会い、動物に対する情熱と知識に感銘を受けた博士から、野生のチンパンジーの生態調査を依頼される。1960年、アフリカのゴンベの森へ。そこでの研究で、チンパンジーも道具を使うことなど数々の新発見をする。1986年以降は、悪化する一方の環境破壊と貧困を食い止めるべく、世界中で積極的に講演活動をする。著書、ドキュメンタリー番組多数。国連平和大使。大英帝国勲位、京都賞、テンプルトン賞など数々を受勲、受賞。世界中の尊敬を集めつづける。
 
エイブラムス,ダグラス (Abrams, Douglas)
 作家、編集者。著作権エージェンシーにしてメディア開発会社の“アイディア・アーキテクツ”創始者。
 
岩田佳代子 (イワタ カヨコ)
  翻訳家。清泉女子大学文学部卒。訳書に『フェミニスト・ファイト・クラブ』(海と月社)、『幸運を呼ぶウィッカの食卓』(パンローリング)など。
 
【抜書】
●信仰(p24)
 「信仰は、宇宙のかなたに人智を超えた力があると心から信じること。その力は、神やアッラーに置き換えることもできる。創造主である神を信じたり、死後の世界やほかの教義を信じるのが信仰よ。それらは真実だと信じることはできても、知ることはできない。でも、自分が目指したい方向は知ることができるし、それが正しい方向だと希望を持つことはできる。つまり、誰にも未来がわからない以上、希望は信仰よりもはるかに謙虚なものだと言えるでしょうね」
 
●希望学(p44)
〔 ジェーンとこの本をつくろうと思ったとき、わたしは「希望学」という比較的新しい分野について調べてみた。すると、希望が願望や空想とはまったく別物であることがわかって驚いた。希望は未来の成功をもたらすが、願望にはそれができない。どちらも想像力を駆使して未来を考えるが、望みどおりのゴールを達成するための行動へとわれわれをかきたてるのは希望だけだという。この点についてはジェーンも、その後の対談で繰り返し強調している。〕(ダグラス)
 
●物語(p48)
 「希望を持っていれば、生活のいろいろな面がすこぶるよくなるのはたしかで、それは行動や結果にも影響してくるでしょう。ただ、人を行動へかりたてるのは、データより物語だってことも肝に銘じておくのが大事ね。たくさんの人に言われるのよ、あなたの話にはデータが登場しないから助かるって」
 
●自分がしてもらいたいこと(p76)
 人間がもっと善良で、もっと思いやりがって、もっと穏やかになれる方法。
 「必要なのは、新たな道徳規範ね、それも世界的な」
 「ねえ、世界の主な宗教が、口先だけでもいいから、いっせいに『自分がしてもらいたいことを人にしなさい』って唱えるようにしたらいいのに。そうしたら簡単に、それが世界的な道徳規範になる。あとは、みんなにその規範をきちんと守ってもらう方法を考えればいいだけ!」
 「でも、難しいでしょうね、人間には欠点があるから。欲だったり、身勝手なところだったり。権力や富への執着もあるし……」
 
●理性と感情(p79)
 「我々が完全な人間になるには、時間がかかるでしょう」
 「わたしたちは、理性と感情が一致しないかぎり、人間としての可能性を十二分に発揮することはできないし、それを理解するには、もっともっと時間をかけて進化をしなくちゃならないってことじゃないかしら。天才リンネは、わたしたち人間という種をホモ・サピエンス、“賢い”人間と名づけたわ」
 「さっき、理性と感情が一致しないかぎり難しいって言ったけど、賢明に使う気が本当にあるなら、それを証明するのはまさに今よ。だって、今賢明に行動して、地球温暖化や植物や動物の絶滅を食い止めなかったら手遅れになるんですもの。地上の生あるものを現在進行形で脅かしている問題を、人類は力を合わせて解決しなくちゃ。そのためには、四つの大きな問題を解決する必要がある。その四つとも、そらんじているわ。講演でよく話しているから。」
 貧困の軽減、富裕層の生活スタイルの見直し、汚職の一掃、人口と家畜数の増加。
 
●エコグリーフ(p96)
 エコ不安症とも。
 無力感や抑圧感、不安、甘受、あきらめ、など、気候危機がもたらす心理状態。
 
●ハラ―パーク(p113)
 ケニアの海岸近くに広がる2㎢の自然公園。多くの観光客が訪れる。
 バンブリ・セメントという会社が開発した採石場は、廃墟となり、何も育たなくなっていた。
この会社の創設者のフェリックス・マンドルは、園芸の専門知識がある社員ルネ・ハラーに、生態系の回復という任務を課した。
 そして、先駆植物であるモクマオウ属の木を植え、ヤスデを移入して針葉を食べさせて土に返した。10年後、最初に根付かせた木々は30mにまで成長し、180種を超える自生植物が育つまでになった。最終的にはキリンやシマウマ、カバまで連れてこられるようになった。
 
●タカリ(p127)
 1994年、JGI(ジェーン・グドール・インスティテュート)が始めたプロジェクト。
 タンザニアの村々を回り、困っていることを聞き出して問題解決を図った。マイクロクレジットなども立ち上げた。
 村を豊かにしていくことが、チンパンジーの捕獲を抑制し、保護につながる。
 
●子孫からの借り物(p143)
 「『地球は祖先から受け継いだものではなく、子孫から借りているものだ』という有名な言葉がある。だけど、わたしたちは子孫から借りてなんかいない、奪ったのよ。借りれば返す、それが当たり前。なのに、長い長い年月にわたって彼らの未来を奪いつづけ、積もり積もって、今や許容範囲をはるかに超えてしまった」
 
●ルーツ&シューツ(p144)
 根っこと新芽。1991年、ジェーンが始めた若者のためのプログラム。世界中で、気候変動や環境破壊に立ち向かうためのプロジェクトを、子供たち、若者たちが自主的に考えて実行する。この運動が世界中に広がっている。幼稚園から大学まで、68か国数十万人のメンバーが活動。
 タンザニアの八つの高校に通う12人の生徒が、ダルエスサラームのジェーンの自宅に訪ねてきたことがきっかけで始まった。
 
【ツッコミ処】
・ウイスキー(p82)
 「理性と感情」に関する抜き書きで示したとおり、四つの大きな問題の一つとしてジェーンは「富裕層の生活スタイルの見直し」について言及している。これには全く同意見なのだが……。
 しかしながらジェシーは、ウイスキーが大好物で、ときおりウイスキーをたしなみながらインタビューを受けていたようだ。ウイスキーの原料となる麦がもし貧困層の食料に回せるのなら、一つ目の問題の「貧困の軽減」にもつながるはずだが、その点はどう考えているのだろうか。たぶん、ここも私と同じ考えだろうが……。
 
(2023/2/28)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

弁護士のすゝめ 最強資格のリアル。そして令和版司法改革へ
 [社会・政治・時事]

弁護士のすゝめ─最強資格のリアル。そして令和版司法改革へ─
 
宮島渉/著 多田猛/著
出版社名:民事法研究会
出版年月:2022年6月
ISBNコード:978-4-86556-509-6
税込価格:1,540円
頁数・縦:303p・19cm
 
 2004年に法科大学院が創設され、2006年から新司法試験が実施されているが、合格者数は当初の3,000人に遠く及ばず、弁護士は不足している……。
 そう、これまで喧伝されてきた「食えない弁護士」というのは嘘っぱちで、もっと弁護士を増やし、社会のあらゆる場面で必要となる弁護士の需要に応えなければならない。それが本書の主張である。弁護士の魅力を語り、弁護士が少なすぎることによる日本の問題点を論じる。
 
【目次】
第1章 今、弁護士が狙い目!?
第2章 売手市場で魅力的な弁護士業界の今
第3章 広がる活動領域!活躍する弁護士たち
第4章 コスパ最強!弁護士への道
第5章 合格率を下げるな!合格者数を増やせ!
第6章 法曹養成制度の課題と改革案
第7章 世界に後れる日本の司法を変えよう―令和版司法制度改革をめざして
 
【著者】
宮島 渉 (ミヤジマ ワタル)
 法律事務所フロンティア・ロー代表弁護士。働きながら夜間のロースクール(大宮法科大学院)に通って弁護士になる。モットーは、「勇気・優しい心・柔らかい頭」。世界に後れる日本の司法を変えるため「ロースクールと法曹の未来を創る会」と「久保利塾」の事務局長としても活動。
 
多田 猛 (タダ タケシ)
 イーリス総合法律事務所代表弁護士。弁護士として、スタートアップ・中小企業の支援を行う中、自らも起業。起業家弁護士として活躍中。企業と弁護士をつなげるリーガル事業に携っている。司法制度改革・法曹養成のための活動は、ライフワークとしており、「ロースクールと法曹の未来を創る会」の事務局次長を創設以来務める。
 
【抜書】
●明石市、姫路市(p36)
 2012年、全国で初めて、明石市では5年の任期付き職員として弁護士職員の採用を開始した。現在では、正規職員としても弁護士枠を設けている。
〔 明石市の泉房穂市長は、大学卒業後、テレビ局のディレクターや国会議員秘書を経て弁護士資格を取得。衆議院議員も2年間経験している。採用後に弁護士に担当させる業務の説明会を自ら開催。同市における弁護士の配属先は幅広く、採用されると議会にも出席し、市の政策立案にも関与する。〕
 採用された弁護士は、泉市長の重要な政策を支えている。
 姫路市では、総務局内にある法制課で二人の弁護士を法務専門家として採用している。法制課の総勢は8名。
 
●ブティック系(p40)
 ブティック系法律事務所……一般に、少数精鋭で、特定の分野の企業法務に特化した法律事務所。
 
●魅力にあふれた仕事(p76)
〔 ただ、稼げる、稼げないということ以上に重要なことがある。それは、弁護士というプロフェッションゆえの魅力だ。弁護士という仕事は、社会から頼りにされ、世の中のため、人のためにダイレクトに役立つことができ、しかもある程度は稼げる(才覚があればものすごく稼げる)。弁護士は魅力に溢れた職業だということを、若い人たちに強くアピールしたい。〕
 
●過疎地型公設事務所(p97)
 日弁連が設立した基金で資金調達をし、その資金で弁護士過疎地に設置する事務所。
 1999年に基金が設立され、2000年6月、第1号の「石見ひまわり基金法律事務所」が島根県浜田市に開設された。
 2001年4月には、第2号事務所として「石垣ひまわり基金法律事務所」が、第3号として「紋別ひまわり基金法律事務所」が開設された。
 公設事務所……日弁連や所在地を管轄する地域弁護士会の支援のもと、弁護士自身が経営する。「過疎地型」では、開設資金の援助を受けられるほか、年間の手取りが720万円に届かなければ、差額分を補償してもらえる。着任する弁護士は日弁連が募集し、任期は概ね2~3年、再任・定着も妨げない。必ず「ひまわり基金」という名称が入る。「都市型」は、各地の単位弁護士会が基金を設けて設置、法テラスや過疎地型公設事務所で働く弁護士の養成が目的。一般の法律事務所同様、法律相談や事件の受任も行い、事件処理を通じて若手の養成を行う。全国に11か所しかなく、うち5か所は東京の三つの弁護士会が設置したもの。(p110)
 
●法テラス(p110)
 広く社会に法の支配を行き渡らせることを目的に、都市部、地方を問わず全国に設置されている。働く弁護士は給与制で雇われている。法務省の外郭団体が運営。
 
●10万人(p261)
 日本の弁護士人口は約4万3000人(2021年)。直近2年の司法試験合格者数は1500人未満。
 フランスの弁護士は約7万人。先進国の中では少ない。総人口は6500万人で日本の52%。
 せめてフランス並みにするには、日本も10万人が必要。
 
●ルールメーカー(p264)
 日本でも世界に通用するルールメーカーが必要。そのためにも、弁護士を増やすべき。
 〔ルールメーカーとしての資質がある職業は弁護士だ。何しろ「法律=ルール」の使い方を知っているのだから。未知の法律やルールがあったとしても、リーガルマインドをもっているため、それらがどんな趣旨で何を規制しようとしているかなど、一定水準の「土地勘」がある。〕
〔 世界で活躍する弁護士、世界でルールを作る弁護士、ルールメーカーたりうる人をサポートする弁護士をもっと育てなければ、日本はいつまでも政治、外交、経済、スポーツ、ありとあらゆる場面で、ルールを守る側に甘んじ続けなければならなくなる。〕
 
●ディスカバリー(p284)
 米国には、訴訟前に相手にすべての証拠を徹底的に開示させる「ディスカバリー」という証拠開示制度がある。証拠を隠すと、法廷侮辱罪などの重い制裁が科され、不利な判決が言い渡されることになる。
 日本の民事裁判では、事実上、自分に不利な証拠を隠すことが可能になっている。一応、裁判所が証拠種類の提出を命じる制度(文書提出命令)や、虚偽の証言に対する偽証罪(刑事罰)や過料といった制裁はあるが、十分に機能していない。
 文書提出命令は、事前に書類を特定する必要があるため、相手がどんな書類を隠し持っているか分からないと使えないし、例外規定が多く、申し立てをしても命令自体が出ない場合も多い。
 虚偽の証言も、証明が難しいうえ、実際に偽証罪や過料の制裁が下されるケースはごく稀。
 
●期間制限訴訟(p287)
 法制審議会は、新たな訴訟手続きとして、「期間制限訴訟」という新たな手続きの創設を提示し、2025年度の施行を目指している。
 当事者の申し出や同意に基づき、民事裁判の審理を6カ月以内に終わらせ、その後1カ月以内に判決を言い渡す。「申述に基づく法定審理期間訴訟手続」という仮称で、民事訴訟法の改正案が、現在、国会で審議されている。
 
●法曹一元(p292)
 米国や英国などでは、弁護士経験者のなかから裁判官を命名することになっている。「法曹一元」と呼ばれている。裁判官になった人が、その経験や名声を活かして再び弁護士として活躍する場合も多い。
 日本は、司法修習を修了した直後の者の中から裁判官が任命され、定年退官するまで勤める。キャリア裁判官制度。浮世離れした裁判官となりやすい。弁護士任官もあるが、その数は少なく、常勤の任官者については、年にわずか数名程度しか採用されていない。
 
【ツッコミ処】
・税理士、弁理士(p18)
 弁護士は、法廷業務のすべてができる唯一の資格であると同時に、登録さえすれば税理士、司法書士、社会保険労務士などの士業の業務もできてしまう。ある意味最強の資格だ。〕
  ↓
 〔弁護士は、税理士や弁理士の登録ができる。司法書士や行政書士の業務は弁護士業務に含まれるから、それらもできる。〕(p147)とあるのだが、登録しなければならないのは税理士、弁理士のみ? 司法書士、行政書士は登録不要? では、社会保険労務士は??
 どうやら行政書士は、登録が必要らしい。
 「行政書士試験研究センターが毎年1回行う行政書士試験に合格した者のほか、弁護士、公認会計士、弁理士、税理士の資格を有する者、および公務員(あるいは特定独立行政法人や特定地方独立行政法人の役員または職員)として、高卒であれば通算17年間以上行政事務を担当した者は行政書士となる資格を有するが、開業するには、開業する都道府県の行政書士会を経由して日本行政書士会連合会に登録しなければならない。」
"行政書士", 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2023-02-11)
 
●プロボノ活動(p99)
 「プロボノ活動」とは?
 残念ながら、ジャパンナレッジ( https://japanknowledge.com  )にも立項されていなかった。専門用語や最新用語には、説明を付けてほしいものだ。
 
(2023/2/11)NM
 
〈この本の詳細〉

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔
 [社会・政治・時事]

ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔
 
小泉悠/著
出版社名:PHP研究所
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-569-85185-3
税込価格:1,760円
頁数・縦:185p・19cm
 
 2022年2月のウクライナ侵攻以来、世界を騒がせているロシア。
 それにしても、ロシアってどんな国? 知ってるようで知らないロシアの社会や生活について、住んでみた実感をもとに紹介する。軍事や政治には深入りしない書きぶりは、等身大のロシアの人々を見せてくれる。
 
【目次】
第1章 ロシアに暮らす人々編
第2章 ロシア人の住まい編
第3章 魅惑の地下空間編
第4章 変貌する街並み編
第5章 食生活編
第6章 「大国」ロシアと国際関係編
第7章 権力編
 
【著者】
小泉 悠 (コイズミ ユウ)
 東京大学先端科学技術研究センター専任講師。1982年、千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員、未来工学研究所客員研究員などを経て、2022年1月より現職。ロシアの軍事・安全保障政策が専門。著書に『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版、サントリー学芸賞)などがある。
 
【抜書】
●タタール人(p32)
 ロシアで最多の人口を占めるのは、正教徒のロシア人。
 第2位はタタール人。見た目は白人だが、イスラム教徒が多数を占める。
 民族としてのロシア人(ルースキー)であることと、ロシア国民(ロシヤーニン)であることはイコールではない。
 
●入れ墨(p35)
 ロシアのマフィアは、刑務所に入れられるたび、正教の象徴である玉ねぎ屋根の聖堂の図を入れ墨する。
 玉ねぎ屋根の数が多いほど、何度も「ムショ入り」したことになり、彼らの勲章であり、箔付けにもなる。
 
●カスペルスキー(p38)
 エフゲニー・カスペルスキーは、子供のころから数学が好きで、数学雑誌に掲載されるパズルを解いては投稿していた。そこから才能を見出されて、数学専門学校へ、さらにはKGBの暗号学校へと進み、サイバー分野の世界的大家とみなされるようになった。
 モスクワ大学の向かいには広大な空き地があり、そこに隣接する区画にはずっと「建設中」のまま放置されている謎のビル群がある。骨組みまでは完成しているけど、それ以上、工事が進む様子はない。しかし、夜には工事用の灯りがついている。この区画の中にはKGB第四学校と呼ばれる教育施設が存在し、情報機関が暗号を生成・解読するために必要な大量の数学者を養成していた。ここが、カスペルスキーの母校。(p79)
 
●KGB博物館(p59)
 エストニアの首都タリンに、旧国営旅行社(インツーリスト)ホテルがある。このホテルは、「マイクロクリート」と呼ばれていた。コンクリートが半分、マイクが半分、という意味。最上階に「KGB博物館」がある。「存在しない23階」。しかし、窓のない盗聴部屋とは別に、大きな窓のあるオフィスもあり、外から見ると23階があることは明白。
 ソ連時代、ここでKGBの盗聴要員が外国の訪問者たちの会話に隈なく耳をそばだてていた。
 ソ連崩壊直後、内部は盗聴機材ごと手つかずで残っており、それが博物館となった。
 
●ダーチャ(p66)
 ロシア式の別荘。
 当初は金持ちだけのものだったが、19世紀になると庶民も小さな土地と家を郊外に持つことが一般的になった。第二次世界大戦後にはフルシチョフ政権下で郊外の土地が労働者にも配分されるようになり、週末には森の中で暮らす習慣がさらに広がった。
 しかし、一般庶民に配分されたダーチャは都心から遠く、駅からも離れた場所だったので、行くのに苦労した。マイカーなど手に入らない時代。それでも、「森の民」ロシア人にとっては重要な存在だった。ログハウスのキットを買って自分で建てる人も。マイカー時代になり、週末には「ダーチャ渋滞」も。
 定年退職後、都会の家を引き払ってダーチャに永住する人もいる。
 別荘地を囲い、組合をつくって管理人を雇い、ゲーテッド・タウン化する例もある。ダーチャのコミュニティ(人脈)もでき、一緒に食事や飲酒。
 プーチンも、KGBを退職後、サンクトペテルブルクの郊外に「オーゼラ」という別荘組合を作ったと言われている。この組合のメンバーには、のちのロシア国鉄(RZnD)総裁となるウラジミール・ヤクーニン、TV局「第一チャンネル」や大手紙『イズヴェスチヤ』などを傘下に収めることになるユーリー・コヴァリチューク、教育・科学大臣となるアンドレイ・フルセンコなど、初期プーチン政権を支えた重要人物が含まれていた。プーチンには、KGB時代やサンクトペテルブルク副市長時代の同僚ととともに、「ダーチャ人脈」もあった。
 
●野良犬(p111)
〔 最近はすっかり見なくなりましたが、二〇一〇年頃までモスクワの地下鉄では、イヌも一緒に乗るのが当たり前でした。ペットとして飼い主と一緒に乗るのではありません。野良犬が勝手に乗り込み、椅子の上に寝そべっていたりするのです。
 郊外に住む野良犬が餌を求めて都心行きの地下鉄に乗り、夕方になるとまた地下鉄に乗って寝床に戻るのだといいます。駅員も乗客も追い出したりせず、イヌたちの“通勤”を自然に受け入れていました。寝そべる野良犬の横で、派手なメイクのOLが何でもない顔をして座っていたりしたのです。〕
 
●靴を脱ぐ(p126)
 ロシア人は、家に上がるときに靴を脱ぎ、部屋履きに履き替える。
 真冬なら靴底にびっしり雪がつくし、雪解けの時期には地面がぬかるんで泥だらけになるため。
 
●大国(p146)
 ロシアの国土は日本の45倍。人口は1億4400万人程度だが、GDPは日本の三分の一で、2020年の国別ランキングでは11位。韓国と同程度。
 にもかかわらず、ロシアは大国として振舞う。
 (1)ソ連から受け継いだ国連安保理常任理事国である。
 (2)国土大国である。
 (3)世界最大級の核戦力を保有する軍事力がある。総兵力は、約101万人、実勢で約90万人(世界第5位)。
〔 言い換えるならば、ロシアを「大国」たらしめているのは意志の力、つまり自国を「大国」であると強く信じ、周囲にもそれを認めさせようとするところにあるといえるでしょう。〕
 
●正教会(p164)
 通常、正教では一民族につき一教会が設置される。アルメニア、ジョージア、ブルガリアなどは独自の正教会を持っている。
 しかし、ベラルーシ、ウクライナ、モルドヴァ、バルト三国は、いずれもロシア正教会(モスクワ総主教庁)の一部とされてきた。
 ウクライナ正教会は、突出して信徒の数も多く、「自主管理教会」というかなり高度な自治権を持つとされてきた。
 このほかにも、モスクワ総主教庁に属さない「キエフ総主教庁・ウクライナ正教会」(信者700万人)、ロシア革命当時に創設された「ウクライナ独立正教会」も存在している。一国に正教会が三つ併存。
 2014年、ロシアの侵攻を受けたウクライナで正教会の統一と独立に向けた機運が高まり、2016年に、クレタでの正教公会議でウクライナ正教会の独立問題が正式に取り上げられた。
 2018年には、コンスタンチノープル総主教庁が、ウクライナ正教会の独立に関する連絡要員として2名の総主教代理をウクライナに派遣。また、キエフ総主教庁・ウクライナ正教会とウクライナ独立正教会が統一される。
 2019年1月、コンスタンチノープル総主教がウクライナ正教会に独立の地位を認める決定を下す。
 モスクワ総主教庁は、コンスタンチノープル総主教庁との断交を発表。
 
(2023/1/24)NM
 
〈この本の詳細〉

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:
前の10件 | 次の10件 社会・政治・時事 ブログトップ