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ザ・パターン・シーカー 自閉症がいかに人類の発明を促したか
 [医学]

ザ・パターン・シーカー:自閉症がいかに人類の発明を促したか
  
サイモン・バロン=コーエン/著 篠田里佐/訳 岡本卓/監訳 和田秀樹/監訳
出版社名:化学同人
出版年月:2022年11月
ISBNコード:978-4-7598-2089-8
税込価格:2,640円
頁数・縦:312p・19cm
 
 偉大な発明者の脳に宿るシステム化メカニズムについて、自閉症との関係も含めて多角的に論じる。
 本省の要点は以下の通り(p.22)。
 1.唯一、ヒトは脳に特殊なエンジンを持つ。これは、システムの最小定義である、if-and-thenパターンを探索するものだ。私は、脳に存在するこのエンジンを「システム化メカニズム」と呼ぶ。
 2.システム化メカニズムは、7万年前~10万年前という人類の進化における特筆すべき時期に出来上がった。このとき、最初のヒトは、それまでの動物や現在のヒト以外の動物には成しえなかった方法で複雑な道具を作り始めた。
 3.システム化メカニズムの獲得によって、この惑星上でヒトだけが、科学、および技術を極めることができ、他のすべての種を凌駕することになった。
 4.システム化メカニズムは、発明者、STEM分野(科学、技術、工学、数学)の人びと、そしていかなるシステムであれ完璧を目指す人びと(ミュージシャン、職人、映画製作者、写真家、スポーツマン、ビジネスマン、弁護士など)のマインドのなかで、超高度なレベルに調整されている。こうした人びとは、正確さや細部にこだわらずにはいられない「高度にシステム化するマインド」を持ち、システムがどのように機能し、どのように構築され、そしてどのように改良されるのかを解明せずにはいられないのだ。
 5.システム化メカニズムは、自閉症マインドでも、非常に高く調整されている。
 6.最新の科学によれば、システム化能力は一部遺伝性を持つ。つまり、自然淘汰の影響を受けた可能性が高いのだ。自閉症の人たち、STEM分野の人たち、その他のハイパー・システマイザー(高度にシステム化するマインドを持つ人)たちは、その遺伝子を共有している、というとんでもないつながりを持つことになる。
 
【目次】
第1章 生まれながらのパターン・シーカー―アル(エジソン)の幼少時代
第2章 システム化メカニズム
第3章 5つの脳のタイプ
第4章 発明家のマインド
第5章 ヒトの脳に起きた革命
第6章 システム・ブラインドネス―なぜサルはスケートボードをしないのか?
第7章 巨人の戦い―言語vs.システム化メカニズム
第8章 シリコンバレーの遺伝子を探る
第9章 未来の発明家を育てる
付録1 SQとEQでわかるあなたの脳タイプ
付録2 AQでわかる自閉特徴の値
 
【著者】
バロン=コーエン,サイモン (Baron-Cohen, Simon)
 ケンブリッジ大学心理学・精神医学教授、自閉症研究センター所長。600本を超える科学論文を発表した自閉症研究の第一人者。三つの有力な学説、「マインド・ブラインドネス理論」「出生前性ステロイドホルモン理論」「共感‐システム化理論」を提唱。1999年、英国初のアスペルガー外来を開設、1000人以上の患者の診療に携わってきた。2017年、国連で基調講演者として自閉症啓発を行った。
 
篠田 里佐 (シノダ リサ)
 愛し野内科クリニック事務長・心理相談員。東京学芸大学卒業。ロンドン大学大学院修了。医学博士、教育神経科学修士、教育学修士。国立国際医療センター研究員、理化学研究所脳科学研究センター研究員などを経て現職。
 
岡本 卓 (オカモト タカシ)
 愛し野内科クリニック・院長。東京大学医学部卒業。東京大学病院、ハーバード大学医学部講師などを経て現職。医学博士。論文Cell他多数。
 
和田 秀樹 (ワダ ヒデキ)
 国際医療福祉大学特任教授・精神科医。東京大学医学部卒業。東京大学病院、アメリカ・カールメニンガー精神医学校国際フェローなどを経て現職。医学博士。
 
【抜書】
●過読症(p11)
 ハイパーレクシア。識字障害(ディスレクシア)の反対。
 過剰に読書する傾向?
 
●システム化メカニズム(p26)
 システム化メカニズムは4段階からなり、これらを総称して「システム化する(システマイジング)」と呼ぶ。
 第一段階 質問をする。「どうして?」「どうやって?」「なに?」「いつ?」「どこで?」
 第二段階 if-and-thenパターンで仮説を立てることによって質問に答える。何がある事象(インプット)を異なる事象(アウトプット)に変えてしまった可能性があるのかを探索する。
 第三段階 if-and-thenパターンをループの中で検証する。再現性を見極める。
 第四段階 あるパターンを発見したとき、このパターンに修正を加え、ループの中で検証を繰り返す。最初のif-and-thenパターンを分解し、ifとand両方、あるいはifかandに修正を加え、thenの変化を確認する。
 
●五つの脳のタイプ(p72)
 システム化指数(SQ)と共感指数(EQ)のスコアによって、人間の脳は五つのタイプに分かれる。
 エクストリームE型……共感力は超高度である一方、システム化能力は平均以下。女性の3%、男性の1%。
 E型……共感力が高く、システム化するのが苦手。全体の約三分の一、女性の40%、男性の24%。
 B型……バランスの取れたタイプ。共感力とシステム化能力の両方が同レベル。全体の約三分の一、女性の30%、男性の31%。
 S型……システム化を重視する一方で、共感力が低いタイプ。全体の約三分の一、女性の26%、男性の40%。
 エクスリームS型……システム化能力は超高度である一方、共感力は平均以下。男性の4%、女性の2%。
 
●エジソン人形(p120)
〔 エジソンの共感力がごく限られていたことを表すいくつかのエピソードがある。例えば彼の実験によって成し遂げられた数々の発明の中には、単純に誰も必要を感じていないものもあった。エジソンは、いつも孤独、かつ強迫観念的な状況に身を置いていたので、他人が何を欲しいと思っているかなど、察することができなかったのである。その一つにおしゃべりをするエジソン人形の発明がある。子どもたちはこの人形にまったく興味を示さなかった。エジソンは、子どもたちが楽しめるものなのかどうか試そうと実際に子どもたちを使って調べようともしなかったのだ。エジソン人形が童謡を歌うのも聞くためにはハンドルを回さなければならず、別の童謡を聞くには、いったん人形を開けて小さな蓄音器レコードを別のレコードに入れ替えるといった、とても面倒な作業を要したのだ。
 ほどんどの子どもは同じ童謡を何度も聞けばすぐに飽きてしまうと、親なら誰でもエジソンにアドバイスができただろう。しかし、エジソンは、子どもの好き嫌いといった感情をチェックしていなかった。つまり、彼らの反応を予測していなかったのだ。さらにエジソンは、レコードの交換方法を学ぶために、子どもたちには我慢強さが要求されるということも予想していなかった。高音で単調な人形の声は、魅力的なものではなく、気味が悪いとさえ受け取られることすら察しえなかった。こうしたエピソードはすべて、エジソンが相手の気持ちを想像しなかった――認知的共感力が低かった――という証拠だろう。この人形制作は商業的には大失敗に終わったことは驚きではなかった。店頭に配送された2千500体の人形のうち、販売されたのは500体だけで、数週間で生産終了となったのである。〕
 
●6σ(p124)
 シックスシグマ。平均値から6標準偏差という極端に外れた値。
 機械的なシステムを繰り返し使用した場合、99.999966%に欠陥を認めないこと。欠陥が発生しうる機会は100万回のうち3回か4回。
 
●神経多様性(p221)
 ニューロ・ダイバーシティ。生来の脳の型は多数ある、という考え方。
 〔知的障がいがなく、ハイパー・システム化能力を持つ自閉症の人のマインドは、進化を遂げ、神経多様性に富んだ脳を持つに至った。これは多数ある生来の脳の型の一つとして捉えられる。自閉症の人や、自閉症の確定診断には至らないハイパー・システマイザーは、多くの中のたった一つの脳の型を表しているにすぎず、彼らを取り巻く環境次第で、抜きんでる力を発揮したり、もがき苦しんだりするかもしれないのだ。〕
 
●スペシャリスタナ社(p225)
 自閉症の人が能力を発揮できる職場環境づくりに積極的に取り組んでいるデンマークの企業。自閉症の人だけを雇用する。
 創業者はトーキル・ソンネ。自身もハイパー・システマイザーであり、自閉症の息子がいた。
 自閉症の人にやさしい面接方法を開発。例えば、レゴでロボットを作る、など。
 
●9900部隊(p229)
 イスラエル軍の特殊部隊。自閉症の志願兵で構成され、彼らの細部に及ぶ優れた注意力とパターン探索の才能を、軍のニーズに適用。
 例えば、人工衛星によって撮影された地球の画像から、異常なパターンを検出する、など。定型ではない形や色、動きを検出し(if)、周囲の環境と異なっている(and)ならばテロに関する物体の可能性がある(then)。
 
(2024/1/25)NM
 
〈この本の詳細〉


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