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最新DNA研究が解き明かす。日本人の誕生
 [自然科学]

最新DNA研究が解き明かす。 日本人の誕生
 
斎藤成也/編著 河合洋介/著 木村亮介/著 松波雅俊/著 鈴木留美子/著
出版社名:秀和システム
出版年月:2020年8月
ISBNコード:978-4-7980-6022-4
税込価格:1,430円
頁数・縦:239p・19cm
 
 文理融合を目指した学際研究である「ヤポネシアゲノム」プロジェクトの現時点での成果を1冊にまとめた。
 当研究は文部科学省新学術領域研究であり、2018年度から5年間の予定で進められている。
 
【目次】
第1章 ゲノムとは……斎藤成也
第2章 ヤポネシア人の起源と成立をめぐるこれまでの説……斎藤成也
第3章 大規模ゲノムデータから浮き上がるヤポネシア人の遺伝的多様性……河合洋介
第4章 東ユーラシア系集団および日本列島集団の表現型多様性……木村亮介
第5章 ゲノムで検証するオキナワ人の由来……松波雅俊
第6章 ピロリ菌ゲノムからさぐる日本列島への人類移動……鈴木留美子
 
【著者】
 斎藤 成也 (サイトウ ナルヤ)
 1957年福井県生まれ。東京大学理学部生物学科人類学課程卒業。同大学理学系研究科人類学専攻修士課程修了。米国テキサス大学ヒューストン校生物医学大学院修了(Ph.D.)。東京大学理学部生物学科助手、国立遺伝学研究所進化遺伝研究部門助教授を経て、2002年より同研究所集団遺伝研究部門教授(現職)。琉球大学医学部特命教授、総合研究大学院大学遺伝学専攻教授、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授を兼任。
 
河合 洋介 (カワイ ヨウスケ)
 1978年岡山県生まれ。東京理科大学理工学部応用生物科学科卒業、同大学院応用生物科学専攻修了。博士(理学)。国立遺伝学研究所、立命館大学、前橋工科大学、東北大学、東京大学を経て現在、国立国際医療研究センターゲノム医科学プロジェクト上級研究員。専門は分子進化学・集団遺伝学。ヒトを対象とした集団ゲノムの集団遺伝解析を行っている。「ヤポネシアゲノム」では日本人の過去の人口動態の変化を明らかにする研究に取り組んでいる。
 
木村 亮介 (キムラ リョウスケ)
 1974年神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部理学科生物学専修卒業。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、東海大学医学部助教、琉球大学亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構特命准教授を経て、琉球大学大学院医学研究科准教授。専門は分子人類学、集団遺伝学。人類の拡散と適応をテーマに、ゲノムと表現型双方の多様性について研究を行っている。
 
松波 雅俊 (マツナミ マサトシ)
 1983年大阪府生まれ。北海道大学理学部卒業。総合研究大学院大学生命科学科遺伝学専攻博士課程修了。博士(理学)。現在、琉球大学大学院医学研究科先進ゲノム検査医学講座助教。専門は、分子進化学・集団遺伝学。琉球列島人のゲノム解析を進めている。また、ヒトに限らず、さまざまな動物の比較ゲノム解析をおこなっている。
 
鈴木 留美子 (スズキ ルミコ)
 奈良女子大学理学部生物学科卒業。一般企業勤務を経て、総合研究大学院大学生命科学研究科遺伝学専攻博士課程修了。2010年から2019年まで大分大学医学部環境・予防医学講座でピロリ菌ゲノムデータの解析を担当。ピロリ菌の病原性や薬剤耐性解析のほか、世界各地から採取された菌をマーカーとして、人類集団の移動経路推定を行う。2019年から国立遺伝学研究所集団遺伝研究室に所属し、ヒトゲノムのデータ解析に携わる。
 
【抜書】
●非コード領域(p17)
 ヒトゲノムは、約32億の塩基対を持つ。約2万1000種類のタンパク質と、数千種類のRNA分子を作るための遺伝子が含まれる。あわせて全体の2%弱。
残りの98%以上は、遺伝子をコードしていない(遺伝情報を持っていない)非コード領域。このうち、ある部分は遺伝子の発現時期や発現量を調整する役割がある。
 つまり、ヒトゲノムの90%ほどは、何の情報も持っておらず、単に4種類の塩基がつながっているだけ。
 
●100世代(p32)
 生物の生存に有利に働くものであっても、突然変異の大部分は消えてしまう。
 長期的な進化に寄与するためには、突然変異遺伝子が100世代以上にわたって存続しなくてはならない。
 
●オキナワ人とアイヌ人(p67)
 2012年発表の論文(斎藤成也ら)により、アイヌ人とオキナワ人のクラスターのブーツストラップ値が100%となり、1911年にベルツの提唱したアイヌ・沖縄同系説は証明された。
 ブーツストラップ確率……系統樹の枝の信頼性を推定する値。
 
●ビタミンD仮説(p152)
 高緯度地域において明るい皮膚色が積極的に選択された理由として、二つの仮説がある。ビタミンD仮説と性選択仮説。
 ビタミンD仮説……紫外線量の少ない高緯度地域では、紫外線が透過しない暗い皮膚色はビタミンD合成の不足を引き起こしやすく、不利に働く。ビタミンD欠乏による骨格異常であるくる病にちなみ、「くる病仮説」とも呼ばれる。
 
●沖縄、宮古、八重山(p188)
 琉球大学を中心とした研究グループが、沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島出身者のゲノムDNAを採集し、約60万SNPsの遺伝型を決定した。
 沖縄・宮古・八重山集団は、互いに祖先を共有する近縁な集団であり、隣接する台湾先住民との間に直接の遺伝的つながりはない。
 また、主成分分析の結果、沖縄諸島人と宮古諸島人がそれぞれ異なる遺伝集団を形成し、八重山諸島人が両者の中間に位置している。
 ヘテロ接合度に注目すると、宮古諸島の遺伝集団のヘテロ接合度が、他の諸島より小さいことが分かった。宮古集団は、集団が分化した初期に集団サイズの大きな減少(ボトルネック)を経験したため、遺伝的浮動の効果を大きく受けて中立なバリアントが蓄積し、その影響が現在の集団に引き継がれている。
 おそらく、宮古諸島への移住は1万年前以降。宮古・八重島諸島で発見された、約2万6000年前のピンザアブ洞人(宮古島)や、約2万7000年前の白保竿根田原洞人(石垣島)は、両諸島の主要な祖先ではないと考えられる。
 
●PRS(p196)
 ポリジェニック・リスク・スコア(PRS: polygenic risk score)。既知のGWAS(genome-wide association study:ゲノムワイド相関解析)の結果をもとに、疾患の発症を予測すること。
 数十万規模のGWASが多数行われている欧米人集団では高い精度が得られている。しかし、欧米人集団で構築されたPRSの発症予測精度は、日本人ではあまり高くない。
 
【ツッコミ処】
・100km(p169)
〔 琉球列島は、ユーラシアプレートの東側に位置し、地殻変動が激しい地域である。プレートの活動により、約1500万年から1000万年前には、現在の琉球列島と呼ばれる地域は陸地化していたと考えられる。この頃には、中国大陸・九州との間に陸橋が存在し、現在、琉球列島に生息する動物の祖先の多くは、この陸橋を通じて大陸から渡ってきたのだろう。約1000万年~200万年前には琉球列島は再び切り離され、約150万年前に中国大陸と陸橋で繋がったのち、約2万年前に三つの島嶼群に別れ、氷河期の終了で海水面が約100kmほど上昇したあと、現在のような姿になったといわれている。〕
  ↓
 海水面が100kmも上昇することがあり得るだろうか? マリアナ海溝でも、最深部で10km(1万912m)ほどである。
 それとも、100kmとは深さではなく、水平方向の長さのことか?
 
(2021/3/18)KG
 
〈この本の詳細〉

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