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模倣の罠 自由主義の没落
 [社会・政治・時事]

模倣の罠――自由主義の没落 (単行本)
 
イワン・クラステフ/著 スティーヴン・ホームズ/著 立石洋子/訳
出版社名:中央公論新社
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-12-005430-3
税込価格:3,740円
頁数・縦:347p・20cm
 
 1989年の東西冷戦終結後、世界はバラ色の「自由主義」を謳歌すると思われていた。
 しかし、そうはならなかった。中欧における「自由主義の模倣」は失敗し、ロシアは西欧化の仮面を貫きとおし、イデオロギーのかけらもない中国の覇権が台頭してきた。
 結局、自由主義の一極支配は訪れなかった。これからの世界は、どこに向かおうとしているのか。本書では、ポーランド、ハンガリー、ロシア、米国、中国の冷戦終結後の30年をたどり、「自由主義」の蹉跌を描く。
 本書のテーマに沿って言うならば、イスラム諸国とインドの動向も気になるところだ。
 
【目次】
序章 模倣とその不満
第1章 模倣者の精神
第2章 報復としての模倣
第3章 強奪としての模倣
終章 ある時代の終わり
 
【著者】
クラステフ,イワン (Krastev, Ivan)
 1965年生まれ。ブルガリア出身。ソフィア大学卒業。ヨーロッパと民主主義を研究する政治学者。ソフィアの「リベラル戦略センター」理事長、ウィーンの「人間科学研究所」常任フェロー。『ニューヨーク・タイムズ』に定期的に寄稿。
  
ホームズ,スティーヴン (Holmes, Stephen)
 1948年生まれ。ニューヨーク大学ロー・スクール教授。ヨーロッパにおける自由主義の歴史や旧共産主義諸国の自由主義化を研究。
  
立石 洋子 (タテイシ ヨウコ)
 同志社大学グローバル地域文化学部准教授。香川大学法学部卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。
 
【抜書】
●「模倣の時代」の終わり(p285)
〔 中国の台頭が「模倣の時代」の終わりを告げるということは、二つの大国の間の世界的なイデオロギーの対立に戻ることはないということだ。冷戦時代には、二つの大国がそれぞれの社会的・政治的モデルを従属する国に押し付け、人類の未来についての自国の目標や課題、理想像を採用するように世界中の人々を説得していた。習の中国が、国際的に特に慈悲深い国になると信じる理由は存在しない。中国の近隣諸国の多くはアメリカ海軍の南シナ海での活動を歓迎しており、中国の経済力の行使がある時点で、はるかに強圧的で軍事的なものになるのではないかと当然にも疑っている。来るべき中国とアメリカの対立が、重要かつ危険な方法で国際秩序を再構築することは間違いないだろう。しかし、「新たな経済冷戦」をイデオロギーに囚われた最初の冷戦の再来と見なすのは、誤解を招くことに変わりはない。この対立で双方が冷静で合理的になることはなく、感情を爆発させるかもしれない。しかし、それはイデオロギーの対立ではないだろう。それはむしろ、貿易や投資、通貨、技術、そして国際的な威信と影響力をめぐる厳しい闘争になるだろう。これが、世界を「非アメリカ化」しようとする中国の計画の背後にある目的だ。それは世界的な自由主義のイデオロギーを、世界的な反自由主義のイデオロギーに置き換えようとしているわけではない。国内ではそうとは限らないものの、国際的な競争の場ではイデオロギーの役割を根本的に減少させようとしているのだ。その結果、たとえ米中の覇権争いが世界の他の国々に「我々とともにあるか、我々に反するか」という論理を押し付けたとしても、それは、競合する世界観と歴史哲学の間の世界の破滅を招くような戦いにはならないだろう。〕
 
【ツッコミ処】
・ビアフラ(p73)
 ビアフラについては、〔ナイジェリアの南東部にあった共和国。ナイジェリア政府によって滅亡させられた。〕との訳注が入っている。しかし、オルバーン・ヴィクトル(p12)や、ヤロスワフ・カチンスキ(p23)は説明なしに(注釈もない)いきなり固有名詞として登場する。あんたら、誰?
 ヨーロッパの人には常識、著名人なので、説明する必要がないのかもしれない。日本人向けの内容だったら、金正恩に説明・注釈を加えないだろうが、それと一緒か?
 
・アガサ・クリスティー(p199)
〔 アガサ・クリスティーの心をつかむ推理小説『オリエント急行の殺人』(一九三四年)で有名な探偵エルキュール・ポアロは、何度もナイフで刺された死体が列車内で発見されるという事件に遭遇する。発見されたのは悪意に満ちたアメリカ人の乗客の死体であり、ポアロは殺人の背後にある謎を見事に解き明かしていく。厳密な調査の後に彼は、サミュエル・ラチェットという怪しげな名の人物の死を望む個人的な理由がそれぞれの乗客にあるだけでなく、全員が故意に共謀し、すべての共謀者が交代で標的を刺して死に至らしめたことを知る。〕
  ↓
 本書全体、にどうも分かりづらいな、と思っていたのだが、日本語訳があまりよくないのかもしれない。
 例えば上の文章。
 (1)「心をつかむ」とは誰の「心」なのか。アガサ・クリスティーか? いやいや、『オリエント急行の殺人』の読者であろうか。最初に読んだ際、「アガサ・クリスティー」だと思った。
 (2)「有名な」は、『オリエント急行の殺人』を受けるのか、「エルキュール・ポアロ」にかかかるのか。最初に読んだときは、「有名な」『オリエント急行の殺人』かと思った。
 (3)「何度も」はどこにかかるのか? 「刺された」なのか、「発見される」なのか。最初に読んだ際、「何度も」「発見される」だと思った。
 (4)「悪意に満ち」ているのは、「アメリカ人」なのか、「死体」の状態なのか。これは、前者かと思った。
 読み方がひねくれてる??
 いやいや、誤解を招かず、すらすらと読めるようにするには、以下のように書いたらどうだろう。
  ↓
 アガサ・クリスティーの魅力的な(←心をつかむ)推理小説『オリエント急行の殺人』(一九三四年)で、有名な探偵エルキュール・ポアロは、ナイフで何度も刺された死体が列車内で発見されるという事件に遭遇する。発見されたのはアメリカ人の乗客の悪意に満ちた死体であり、ポアロは殺人の背後にある謎を見事に解き明かしていく。厳密な調査の後に彼は、サミュエル・ラチェットという怪しげな名の人物の死を望む個人的な理由がそれぞれの乗客にあるだけでなく、全員が故意に共謀し、すべての共謀者が交代で標的を刺して死に至らしめたことを知る。〕
 
(2021/10/7)NM
 
〈この本の詳細〉


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