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神社の起源と歴史
 [歴史・地理・民俗]

神社の起源と歴史
 
新谷尚紀/著
出版社名:吉川弘文館
出版年月:2021年7月
ISBNコード:978-4-642-08400-0
税込価格:2,200円
頁数・縦:245p・19cm
 
 日本で神をまつる形は、有史以前の磐座祭祀、禁足地祭祀から、神社(かみのやしろ)へと進化していった。その歴史をたどり、神を祀るとはどういうことか、日本の神社とは何かを解き明かす。
 
【目次】
神社の起源と歴史をどう読み解くか プロローグ
第1章 神社と古代王権
第2章 律令祭祀と伊勢神宮・出雲大社
第3章 平安時代の祭祀と神社
第4章 荘園鎮守社と氏神―隅田八幡神社の歴史と祭祀の変化
第5章 郷村神社の歴史の重層構造―毛利・吉川氏の足跡と神社
第6章 若狭のニソの杜―原初的な神祭りを伝える
神社の多様性が意味すること エピローグ
 
【著者】
新谷 尚紀 (シンタニ タカノリ)
 1948年、広島県に生まれる。1971年、早稲田大学第一文学部日本史学科卒業。1981年、早稲田大学大学院史学専攻博士後期課程単位取得退学。1998年、社会学博士(慶応義塾大学)。現在、国立歴史民俗博物館名誉教授、国立総合研究大学院大学名誉教授、元國學院大學文学部及び大学院教授。
 
【抜書】
●宮、社(p13)
 宮(みや)……大和王権では、「宮」に二つの意味がある。一つは、大和王権にとって重要と位置付けられた神の宮。出雲の大己貴神を祀る「天日隅宮(あめのひすみのみや)」「神之宮」、大和の三輪の大物主の「神の宮」、大和の石上の「神の宮」、伊勢の天照大神宮の「神の宮」、など。もう一つは、歴代の天皇の住む建物、それに関連して皇后をはじめ皇族の住む建物。〔この両者に、宮という呼称が共通して用いられていたことは、天皇が神と共通する存在と考えられていたことを意味している。
 社(やしろ)……人間の住まいではなく、自然の神、神霊をまつる場所もしくは建物という意味。
 折口信夫は、「やしろ=屋代」は神が来られたときに屋が立つ場所のこと。「みや=御屋」は常在される神の居られる建物のことであると説く(1950年「神々と民俗」神宮司庁講演筆記、『折口信夫全集』〈20巻、中央公論社、1956年〉所収)。やしろの神というものは、山野の精霊あるいは、自然庶物の精霊の祭祀から出ているものが多い。
 
●『日本書紀』α群、β群(p67)
 α群……『日本書紀』で、中国風の正格漢文で書かれた部分。巻14雄略紀から巻27天智紀まで。
 β群……α群とは全く異なる日本風の漢文で書かれた部分。巻1神代上から巻13允恭・安康紀までと、最新の巻28・29天武紀。
 α群の雄略紀が最も古い記述であり、β群の天武紀を編集した人材たちが、はるか上代の神話の時代もβ群の文章で書いて編集した。
 例外的なのは、巻22推古紀と巻23舒明紀。どちらもβ群になっている。
 7世紀末から8世紀初頭の最終段階で、新たにβ群の推古紀に差し替えられ、酢香手姫皇女の記事が削除され、皇女による日神奉祭についての記事を崇神紀・垂仁紀へと移行させた? 
 また、推古30年紀(622年)が1年まるごと抜けており、厩戸皇子の没年が他の記録情報と異なってしまっている。β群推古紀では、推古29年辛巳二月癸巳(621年2月5日)となっている。
 
●寺院建築、神社建築(p85)
 寺院建築は礎石が必須であり、神社建築は掘立柱が基本。
 
(2021/9/30)NM
 
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ひきこもっていても元気に生きる
 [社会・政治・時事]

ひきこもっていても元気に生きる
 
高井逸史/編著 藤本文朗/編著 森下博/編著 石井守/編著
出版社名:新日本出版社
出版年月:2021年6月
ISBNコード:978-4-406-06606-8
税込価格:1,870円
頁数・縦:220p・19cm
 
 ひきこもりはどうして起こるのか。ひきこもりの「当事者」にどう接するのが良いのか。
 このような点について、長年にわたって当事者の対応を行ってきた著者たちが助言してくれる。
 
【目次】
1 「ひきこもり」状態をどう理解するか……森下博(pp11~62)
 家族、当事者の事例から
 当事者の苦しみを考え、ありのままの姿を受け容れる
 「八〇五〇問題」
2 「当事者が元気になる」支援の実例から
 当事者が考え実行する活動を第一に……森下博(pp68~93)
 当事者による自助グループの力……高井逸史(pp94~115)
 ひきこもり、人として生きるための協同……石井守(pp116~133)
3 支援に必要ないくつかの観点
 ひきこもりと精神科医療……漆葉成彦(pp138~151)
 自殺に至るような深刻な事例と予防を探る……早川淳、藤本文朗(pp154~179)
 ひきこもりは日本に多いか―外国人観光客対象の意識調査から……藤本文朗(pp183~195)
 ひきこもり家族のいる高齢者……渋谷光美(pp199~220)
  
【著者】
高井 逸史 (タカイ イツシ)
 1965年生まれ、大阪経済大学人間科学部教授、博士(学術)。
藤本 文朗 (フジモト ブンロウ)
 1935年生まれ、滋賀大学名誉教授。博士(教育学)。全国障害者問題研究会顧問。著書多数。
森下 博 (モリシタ ヒロシ)
 1943年生まれ、元大阪健康福祉短期大学教授。
石井 守 (イシイ マモル)
 1938年生まれ。高校や中学の教師を経て、NPO法人「社会的」ひきこもり・若者支援近畿交流会代表理事、社会福祉法人つむぎ福祉会理事長。
 
【抜書】
●ひきこもりに対応するときの観点(p45)
 「今ある姿をありのままに認めること」、ひきこもる人とは「人間としての願い」を持つ存在であるということを正面に据えた積極的な対応であると確信することが大事。
〔 “どうすれば本人が、よりくつろぐことができて最終的には元気になれるか”、“本人対しては性急に変化を求めない”、“ひきこもっていてもこの状況は本人のかなりの努力によって維持されている。その積極的意味を評価する”といった観点で当事者に接することが大事だということを、この問題に詳しい精神科医も指摘しています(斎藤環著『ひきこもりはなぜ「治る」のか?』(二〇一二年、筑摩書房。同書第六章「ひきこもりの個人精神療法」など)。〕
 
●ひきこもり支援相談士(p96)
 一般社団法人ひきこもり支援相談士認定協議会が認定する資格。
 ひきこもり当事者(本人と家族)に第三者として寄り添い支援を行う。
 
●時間的展望の拡散(p176)
 未来に対する絶望感や悲壮感から自分自身を狭い枠に閉じ込めてしまい、将来の自分が分からなくなってしまうこと。
 将来に対して夢も希望もないような気分にとらわれてしまうために、絶望感しか持てなくなる人もいる。
 
●hikikomori(p183)
 『オックスフォード英語辞典』(第三版、2010年)に収録。
 
(2021/9/27)NM
 
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ロボット学者、植物に学ぶ 自然に秘められた未来のテクノロジー
 [自然科学]

ロボット学者、植物に学ぶ―自然に秘められた未来のテクノロジー
 
バルバラ・マッツォライ/著 久保耕司/訳
出版社名:白揚社
出版年月:2021年7月
ISBNコード:978-4-8269-0229-8
税込価格:2,860円
頁数・縦:232p・20cm
 
 これまで、ロボットといえば、動物(そして人間)を手本とするバイオミメティクスが主流であった。これに対し、著者は植物を模倣した「プラントイド」の開発を目指す研究者である。
 ロボットを媒介として、植物の奥深さと不思議を教えてくれる。
 
【目次】
すべてが始まった場所
新たな時代のロボット工学
インスピレーションを探し求める科学者たち
自然の実験室
進化の謎に挑む動物ロボット
私たちに似た機械
植物は隣にいるエイリアン
ロボット学者、偏見の壁にぶつかる
見えない運動
プラントイド ある革命の歴史
植物の知能
水の力
よじのぼる植物ロボットを目指して
 
【著者】
マッツォライ,バルバラ (Mazzolai, Barbara)
 マイクロシステム工学の博士号をもつ生物学者。イタリア技術研究所(IIT)のマイクロバイオロボティクスセンターのディレクター。2015年、ロボット研究者が集う最大の国際科学コミュニティ“Robohub”で「ロボット業界で知っておくべき25人の女性」の一人に選出されたほか、数々の賞を受賞。植物の根に着想を得た世界初のロボット“プラントイド”を開発。現在、BrowBotプロジェクトを立ち上げ、つる植物を持続可能なインテリジェントテクノロジーに変換しようと取り組んでいる。
 
久保 耕司 (クボ コウジ)
 翻訳家。1967年生まれ。北海道大学卒業。訳書多数。
 
【抜書】
●ラマルク(p17)
 1809年、ジャン=バティスト・ラマルクは、『動物哲学』において、進化に関する最初の理論を提唱。地球上に最初に存在していた様々な生物は、習性や環境の変化に応じて、もととは異なる体に変わっていったと論じた。
 用不用の原理、獲得形質の遺伝。
 
●人工精神(p27)
 人工精神(アーティフィシャル・マインド)、人工脳(アーティフィシャル・ブレイン)。人間の中枢神経系がもっている機能のシミュレーション。
 人間そっくりな振る舞いをする機械、つまり「強いAI」と呼ばれる人工知能を開発しようという試み。
 
●ロボット(p29)
 もともとrobotという語は、「強制労働」「過酷な労働」を意味するチェコ語のrobotaに由来。
 カレル・チャペックが、SF戯曲『R. U. R.』(1920年)で初めて用いた。
 部品を組み立てて作られた人造人間が「ロボット」と呼ばれ、彼らは人間による支配に反抗し、反乱を起こすことになる。
 
●プラントイド(p39)
 〔植物と同じように、その体を動かし、環境を知覚し、コミュニケーションをとり、成長するロボット。〕
 〔〈プラントイド〉は、あらかじめ定められた形態が変わることのないロボットではなく、成長し変化することができるのだ。〕
 
●Wood-Wide Web(p42)
 植物は、言語なしでコミュニケーションを行っている。
 環境に化学物質を放出したり、細菌や菌類(真菌類)、さらには動物といった他の生物と関係を築いたりすることによって、コミュニケーションをとる。
 樹木やあらゆる植物種は、地中に正真正銘の相互接続された生物ネットワークを作り上げている。
 このネットワークに参加している菌糸は、植物の根の先端を包み込み、地中の養分を提供する代わりに、菌類に不足している糖分を植物から手に入れる。
 
●アカシア(p45)
 南アフリカのアカシアの木は、クーズー(ウシ科の草食動物)に対して協力して防御行動を取る。
 クーズーは、植物が不足するとアカシアばかりを食べることがある。そのときアカシアは、無味無臭のエチレン分子を放出し、危険を「警告し合う」。この気体が他のアカシアの葉にたどり着くと、そのアカシアはタンニンを普段よりも多く生成し始める。この毒素のせいで葉はまずくなり、消化されにくくなる。
 もしタンニンの量が増えれば、クーズーはうまく消化することができなくなり、死に至ることもある。
 
●バイオミメティクス(p57)
 ギリシャ語の「生命bios」と「模倣mimesis」に由来。米国の科学者・発明家のオットー・シュミットが、1969年に論文の題名として使用。生物物理学と生物工学の研究で有名。
 「生物が作り出した物質と素材(例えば酵素や絹)、生物によるメカニズムとプロセス(タンパク質合成や光合成)の形態、構造、機能の研究であり、その目的は自然のメカニズムを模倣した人工的なメカニズムを通して、類似する産物を合成することである」(『メリアム・ウェブスター英語辞典』、1974年初出)。
 バイオニクス、バイオミミクリー、バイオインスピレーションといった類義語もある。
 
●バイオインスピレーション(p91)
〔 カトコスキーとフルの小さなゴキブリロボット、〈SOFi〉、〈OCTOPUS〉、さらには以降の章で紹介する他の動物ロボットたちはすべて、ある共通点がある。それは、特定のプラットフォームであると同時に、特定の用途をもった機械でもあるという、二重の性質をもっていることだ。この生物学とテクノロジーの合体こそが、ロボット工学におけるバイオインスピレーションの真の本質なのだ。それは、偉大な実験室である自然についての知識を加速度的に増大させる、とてつもなく強力な要素でもある。〕
 
●ラティメリア(p100)
 シーラカンス類の現生属。1939年に南アフリカの海岸沖で捕獲された。
 それ以来、コモロ諸島沖の深海をはじめとする多くの場所で多数捕獲されている。
 
●3Dプリンタ(p150)
 プラントイドは成長によって動く。この重要な特徴を再現するため、3Dプリンタを小型化し、ロボットの先端内部に組み込んだ。
 ロボットのセンサーが集めた情報に基づいて屈性が作動する。
 
●地中での効率(p156)
 地中で根の先端が成長する「根ロボット」と、似た形状をしているが「上方から圧力を加える」タイプのロボットの比較。
 根ロボットのほうは、地中を貫いて進む速度は40%増し、エネルギー消費は最大70%少なくて済む。
 
●根による炭素交換(p172)
 植物は、根によって他の個体と炭素の交換を行っている。スザンヌ・シマードの実験。
 森で、80本のダグラスモミ(ベイマツ)とシラカバを使って実験。カバに炭素14(放射性同位体で、放射線を出す)を注入し、モミに炭素13(安定同位体なので放射線を出さない)のガスを注入した。注入してから1時間ほどで、どちらの種でも放射線が確認できた。
 二種の樹木の間で交換される炭素の量は一定ではなく、樹木の状態や季節に応じて変化する。
 森の木々は互いに助け合い、協力し合い、一つのネットワークの一部になっている。
 母木……菌根が作り出す巨大な地下ネットワークでは、最も古い樹木が「母木」となっている。情報科学でいう「ハブ」の役割を演じている。幼木に養分を与えている。菌根を通して炭素を送り、幼い木の生存可能性を4倍にも高める。
 
●植物発電(p206)
 著者の研究グループによる発見。
 植物は電気を生産できることを実験で証明した。
 〔人類は自由に使える、文字通り緑のエネルギー源を手に入れたことになる。〕
 高等植物(維管束を持つ植物)の葉の組織には、クチクラ層と呼ばれる一番外側の層と、その下の表皮の層からなる二重の層がある。それがコンデンサとして機能し、繰り返し触れられると電気を生み出す。葉の表面が一定の物質を接触した時に電気が作り出される。
 「接触帯電」と呼ばれるプロセスにより、クチクラ層ー表皮の二重の層が、葉の表面に電荷を移動させることで起きる。葉の表面の電荷が内部の異符号の電荷で補償されて内部組織に伝わり、この組織がケーブルの役割を果たして他の場所に電気を運ぶ。したがって、植物の茎に「プラグ」を接続するだけで、発生した電気を集めて電子機器の充電などに使うことができる。
 1枚の葉が生み出す電圧は、150ボルト以上。LED電球を100個同時に点灯させることができる。
 このシステムを使えば、植物経由で風を電気に変えられる。柔らかいプラスチックのような人工素材でできた長方形の帯を、キョウチクトウの葉の上に置くと、風が葉を揺らすたびに、葉と帯がこすれ合い、その摩擦で電気が発生する。電力量は、葉がこすれる頻度と葉の数に比例する。
 
(2021/9/24)KG
 
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都会の異界 東京23区の島に暮らす
 [歴史・地理・民俗]

都会の異界 東京23区の島に暮らす
 
高橋弘樹/写真・文
出版社名:産業編集センター
出版年月:2021年7月
ISBNコード:978-4-86311-304-6
税込価格:1,650円
 
 東京23区内にも島があったのか……。
 そりゃそうだろう。何しろ、江戸川区、江東区、中央区、港区、品川区、大田区は東京湾という海に面しているのだから。そこに島があっても何の不思議もない。
 また、荒川や多摩川といった大河川もある。中州だってあるだろう。
 しかしながら、観光として訪問するに値する「島」があるとは、考えたこともなかった。本書を読むと、多くの魅力的な島が23区内にあることを教えてくれる。ボクも行ってみたくなった。
 佃島の5Fカフェに佃煮屋、そして江戸風情を残す長屋。
 城南島のジャングル歩道に城南島食堂。
 荒川の旧岩淵水門のかかる中之島。
 京浜島のアウトレット&リサイクルショップ。
 勝島の大井競馬場。
 大森ふるさとの浜辺公園(いや、これは東京本土の大田区にある)。
 妙見島の絶景ホテル。
 興味をそそられるスポットばかりだ。これらの島々をすがすがしい季節に自転車で廻ったら楽しいだろうな。
 
【目次】
早朝の佃島―銀座から4分、漁師の島に住む(中央区)
佃島観光―東京23区の島、観光してみた(中央区)
佃島の物件―月1.5万円で買える長屋(中央区)
城南島―絶景ビーチと、半裸おじさんの島(大田区)
中之島―まさかの北区・赤羽に島?(北区)
もう1つの中の島―ピンクに染まる小さな島(江東区)
夜の佃島―東京で最古の盆踊り(中央区)
京浜島―『地球の歩きかた』京浜島編(大田区)
勝島―まつろわぬ境界島(品川区)
平和島―絶景ビーチへの隠れ入り口(大田区)
昭和島―この島のような、父になりたい(大田区)
月島温泉―東京23区の島風呂(中央区)
妙見島―江戸川モン・サン=ミシェル(江戸川区)
 
【著者】
高橋 弘樹 (タカハシ ヒロキ)
 映像ディレクター。ソロモン諸島、硫黄島、沖ノ島など、世界の「人が旅しないところ」を旅することをなりわいとする。2018年より佃島に移住。23区にいながら「島暮らし」というライフスタイルを追求する。YouTubeチャンネル「日経テレ東大学」教授。
 
(2021/9/21)NM
 
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サバイバルする皮膚 思考する臓器の7億年史
 [自然科学]

サバイバルする皮膚: 思考する臓器の7億年史 (河出新書)
 
傳田光洋/著
出版社名:河出書房新社(河出新書 030)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-309-63131-8
税込価格:946円
頁数・縦:249, 11p・18cm
 
 人間の皮膚は、脳に匹敵する情報処理システムである、という「唯皮膚論」(?)の書。というのは冗談だが、人間の皮膚のすごさに感心しきりである。
 
【目次】
第1章 出現―生命を創る皮膚
第2章 奇策―解放された皮膚
第3章 蘇生―自律する皮膚
第4章 攻防―病原体と皮膚
第5章 暴走―錯乱する皮膚
第6章 覇者なのか?―皮膚というシステムを見つめ直す
 
【著者】
傳田 光洋 (デンダ ミツヒロ)
 1960年神戸市生まれ。京都大学工学研究科分子工学専攻、京都大学工学博士。カリフォルニア大学サンフランシスコ校皮膚科学教室研究員、資生堂研究員、科学技術振興機構CREST研究者、広島大学客員教授を経て、明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)研究員。
 
【抜書】
●皮膚(p8)
〔 ぼくは30年ほど皮膚の研究を続けてきた。その中で、人間の皮膚が持つ、様々な能力を見つけてきた。そして今、前代未聞の動物が生まれ栄えてきたのは、その皮膚のためではないかと考え始めている。〕
 
●二つの情報処理(p57)
 人間は二つの情報処理システムを持っている。
 一つが環境に向き合う皮膚、特に表皮。主として変転する環境に即して緊急に対処するためのシステム。そこで感知された情報のあるものが選ばれて大脳にもたらされる。
 もう一つが脳、大脳。皮膚、および他の感覚器官からもたらされた情報を集積し、それを基に未来に対するシミュレーションを行う。
 
●ケラチノサイト(p58)
 皮膚の表層である表皮は、ケラチノサイトという細胞で構築されている。
 表皮の深い部分で生まれたケラチノサイトは、次第に形を変えながら皮膚の表面に向かい、やがて死ぬ。死んだケラチノサイトが角層を作る。
 ケラチノサイトは、電磁波である光、色、電気、磁気、さらには音(超音波も含む)、温度、大気圧、空気中の酸素濃度、突かれたり触られたりする刺激などの物理学的な現象すべてを感知する能力を持っている。
〔 表皮は視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感すべてと、眼や耳で感知できない紫外線、超音波、気圧の変化、磁場などまで感知できる驚くべき感覚器官なのだ。〕
 ケラチノサイトの数は1,000億にも達する。
 
●120万年前(p61)
 人類は、120万年前に体毛を失った。
 その頃から、脳の容量が大きくなり始めた。
 
●ウロカニン酸(p62)
 表皮には、紫外線を防御するウロカニン酸という物質がある。紫外線を浴びるとウロカニン酸が増える。
 増えたウロカニン酸は血中に放出され、脳に達する。そこでウロカニン酸はグルタミン酸になり、海馬(記憶や学習の中枢)で重要な役割を果たしているNMDA受容体を活性化する。その結果、学習能力が高くなった。
 以上は、マウスによる実験。
 人類も、進化の過程で体毛をなくして紫外線が直接皮膚に届くようになった結果、ウロカニン酸を増やし、学習能力を高めた時期があったのかもしれない。
 
●角化細胞の層数(p91)
 人間の角層は、身体の場所によって層数が違う。
 顔の角層が最も薄く、角化細胞の層数は9くらい。
 胴体が13、四肢が13~16。手の平が50、足の裏55。最も厚いかかとが86層くらい。
 
●顔(p93)
 類人猿は、平面状の顔に視覚、聴覚、嗅覚、味覚の感覚器すなわちセンサーが集中している。
 脳に近い顔にセンサーを集中させることにより、環境の変化をより早く獲得し集約し、脳に判断させることができる。顔の表皮が薄いのも、環境変化に敏感に反応するため。
 そもそもサルは樹上生活が長かったので、枝に飛び移るために立体視が発達し、両眼が顔の正面に並んだ。木の上では、草食動物のような広い視野があっても枝葉にさえぎられて意味をなさない。
 
●ノネナール(p186)
 ノネナールという臭い分子は、ケラチノサイトの増殖を抑え、表皮を老化させる。ノネナールをブロックする香料には、表皮の老化を防止する効き目がある。
 
●衣服(p195)
 人類が衣服をまとい始めたのは11~3万年前ごろ。
 衣服に棲むコロモジラミがケジラミから分かれたのがこの頃。
 
●タコ(p196)
 タコの神経細胞の数は、視覚領域も含めた脳で約2億。ドブネズミの脳は1億。
 さらに、8本の触手などの末梢にには約3億の神経細胞があり、脳と独立した神経系になっている。
 
(2021/9/20)NM
 
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シン・日本経済入門
 [経済・ビジネス]

シン・日本経済入門 (日経文庫)
 
藤井彰夫/著
出版社名:日経BP日本経済新聞出版本部(日経文庫 1436)
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-532-11436-7
税込価格:1,100円
頁数・縦:229p・18cm
 
 平成以降の30年の日本経済の変化を、日本経済新聞社の論説委員長が概観する。
 世界の「日本化」という現象が起こっているという。高齢化・人口減少や非伝統的金融政策など、これまで他国が経験したことのない状況に日本は置かれている。世界は「トップランナー」(?)たる日本の取り組みを注視し、見習おうとしているというのだ。世界の範たる日本、ということか。喜ばしいのか、誇らしいのか……。うまく乗り切れればいいだが。
 
【目次】
第1章 平成の30年と波乱の令和
第2章 デジタル革命の衝撃
第3章 脱炭素革命とエネルギー
第4章 人口減少と少子・高齢化
第5章 金融政策・財政の試練
第6章 グローバル経済と日本
 
【著者】
藤井 彰夫 (フジイ アキオ)
 日本経済新聞社論説委員長。1962年生まれ。85年早稲田大学政治経済学部卒、日本経済新聞社入社。経済部で経済企画庁、日銀、大蔵省などを担当し、主にマクロ経済・金融・財政を取材。ニューヨーク米州総局、ワシントン支局記者、経済部次長、編集委員兼論説委員、欧州総局編集委員、ワシントン支局長、Nikkei Asian Review編集長、上級論説委員などを経て現職。
 
【抜書】
●2040年問題(p156)
 2025年問題……団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、医療や介護費用が急増する。
 2040年問題……団塊ジュニアの世代も65歳になり始め、団塊世代は90歳以上の超高齢者(日本老年学会の定義)に。
 厚生労働省の将来見通しによると、2040年度の社会保障給付は、18年度に比べて1.5倍の190兆円。そのうち年金は73.2兆円で1.3倍。医療は1.7倍の68.5兆円、介護は2.4倍の25.8兆円。
 
●フォワード・ガイダンス(p171)
 中央銀行があらかじめ将来の金融政策の指針を示して、政策の効果を強めようとする手法。
 日本銀行では、「時間軸政策」と名付けている。米欧に先駆けて世界で初めて導入。
 
●資産買入等基金(p172)
 2010年10月、日銀は「資産買入等基金」を創設し、「包括緩和」として国債以外に上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)など、リスクのある資産も買い始めた。
 資産買入等基金は、当初の35億円から12年10月には80兆円まで拡大した。
 
●先頭ランナー(p190)
〔 こうしてみてくると、バブル崩壊後に日銀が先頭ランナーで進めた、ゼロ金利、量的緩和、リスク資産購入、フォワード・ガイダンスなど非伝統的政策は世界に広がり、コロナ禍後はそれが加速しているようにみえます。そしてこの金融緩和は財政支出拡大、国債増発というなかで進んでいることも同様です。これが世界の「日本化」と呼ばれる現象です。〕
 
●米中逆転(p214)
 経済協力機構(OECD)などでは、2030年代に中国の国内総生産(GDP)が米国を上回って世界一になると予測している。コロナ禍後の中国の景気回復が強いと見込まれるため、「米中逆転」の時期が28〜29年頃になるとの予測も出始めた。
〔 中国経済が急拡大しているのは皆がわかっていることですが、実際に世界第一の経済大国の座が入れ代わることが、国際政治・経済にどのような影響を及ぼすかは注意が必要です。
 全体の規模で米国を上回っても、中国の一人当たりGDPではまだ米国には遠く及ばないのですが、規模で世界一になった中国の対外姿勢にどんな変化が出るのかも要注意です。中国がより大国意識を強め、対外拡張的な政策を進めていくのでしょうか。経済規模世界一から転落した米国は、その現実をどう受け止めるのでしょうか。これまでナンバーワンであることに慣れてきた米国の国内世論の動向も気になるところです。〕
 
●日本の指導力(p220)
〔 TPP11交渉は日本が初めて多国間の通商交渉で指導力を発揮した例です。これまで通商交渉と言えば、日本は米国などから農作物などの市場自由化を求められ、それに抵抗しながら何とか自国に有利な形に持っていくという「受け身」のものでした。TPP交渉も最初は米国からの圧力という面もあったのですが、米国が抜けた後は、日本が多国間自由貿易の騎手として取りまとめにあたったのです。TPP交渉で勢いづいた日本は、17年末には欧州連合(EU)との経済連携協定も妥結し、19年に発効しました。〕
 
(2021/9/18)NM
 
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中世ヨーロッパ ファクトとフィクション
 [歴史・地理・民俗]

  中世ヨーロッパ: ファクトとフィクション
ウィンストン・ブラック/著 大貫俊夫/監訳
出版社名:平凡社
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-582-44713-2
税込価格:3,520円
頁数・縦:380p・19cm
 
 ヨーロッパの中世とは、概ね5世紀から15世紀までの千年間を指すらしい。この時代は「暗黒時代」とみなされ、知性に欠け、教会支配による迷信と不潔が支配した時代だったと一般に捉えられている。
 しかし、その見方自体が「迷信」であり、「神話」にすぎない。
 本書では、そんな11の固定観念を取り上げ、その由来と現実の姿を「一次資料」を基に描き出す。
 中世に対する誤解の原因はいろいろと考えられるが、一つの大きな理由は、プロテスタントにあるという。カトリック教会が支配した時代を貶めるために、「暗黒の中世」を喧伝したのだという。また、「暗黒の中世」に関する描写の多くは15世紀以下の時代のもので、その時代に特異的に発生したものも少なくない。たとえば、ペスト医師の嘴型マスクの画は、17世紀が初出だという。それが中世全体に敷衍されて観念されてしまう。
 つまるところ、中世の「暗黒」を流布する人々は、中世の何たるかをほとんど知らない人たちばかりなのであろう。自分も同様である。その蒙昧を啓かせてくれる、格好の書である。
 
【目次】
第1章 中世は暗黒時代だった
第2章 中世の人々は地球は平らだと思っていた
第3章 農民は風呂に入ったことがなく、腐った肉を食べていた
第4章 人々は紀元千年を恐れていた
第5章 中世の戦争は馬に乗った騎士が戦っていた
第6章 中世の教会は科学を抑圧していた
第7章 一二一二年、何千人もの子どもたちが十字軍遠征に出立し、そして死んだ
第8章 ヨハンナという名の女教皇がいた
第9章 中世の医学は迷信にすぎなかった
第10章 中世の人々は魔女を信じ、火あぶりにした
第11章 ペスト医師のマスクと「バラのまわりを輪になって」は黒死病から生まれた
 
【著者】
ブラック,ウィンストン (Black, Winston)
 中世史研究者。中世科学史・医学史が専門で、ヨーロッパと地中海世界の活発な交渉によって発展した中世の薬学と薬草学(本草学)を研究。
 
大貫 俊夫 (オオヌキ トシオ)
 1978年生まれ。トリーア大学(ドイツ)第三専門分野博士課程修了。Dr.phil.。東京都立大学人文社会学部准教授。西洋中世史(とくに修道会史、中世ドイツ史)。キリスト教修道制が中世ヨーロッパの国制・法・社会・経済などの諸分野に与えた影響とその史的意義を研究。
 
【抜書】
●暗黒時代(p26)
 「暗黒時代(saeculum obscurum)」という語が中世を指して用いられるようになったのは17世紀。
 カトリックの学者でサンティ・ネレオ・エ・アキレオ協会の枢機卿だったカエサル・バロニウス(1538-1607)が、900年頃から1046年までの期間のみを指す用語として使った。
 この期間は、教会と教皇権にとってひときわ悪い時代で、文書もほとんど作成されず、また、伝来していない。
 バロニウスの「暗黒時代」は、中世全体、すなわちカトリック一色だった時代を非難する意図はなかったが、急速に広がり、ヨーロッパ史においてカトリック教会が支配的だった時代全体に適用されるようになった。
 
●スペイン暦(p134)
 中世スペインのキリスト教徒が用いていた暦。中性の終わりまでヨーロッパの一部で使われ続けた。現西暦の紀元前38年からはじまる。
 
(2021/9/14)KG
 
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デジタルで変わる子どもたち 学習・言語能力の現在と未来
 [教育・学参]

デジタルで変わる子どもたち ――学習・言語能力の現在と未来 (ちくま新書)
 
バトラー後藤裕子/著
出版社名:筑摩書房(ちくま新書 1571)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-480-07396-9
税込価格:1,034円
頁数・縦:305, 13p・18cm
 
 デジタル世代、すなわち「2000年以降に生まれ、デジタル・テクノロジーとともに育ってきた子どもたち・若者たち」(p.14)は、その前の世代と認知能力や言語能力に違いがあるのだろうか? そんな疑問に答えるべく、デジタル世代の言語能力の特徴をあぶりだし、さまざま視点からデジタル時代に求められる言語能力を探る。
 既存の媒体と比較して、デジタル・テクノロジーには良い面も悪い面もあり、その点を認識しつつ、学習に生かしていく姿勢が大切だ、ということ。
 ところで、アメリカではTwitterを授業で利用しているという記述があったが、どのようにTwitterを活用しているのであろうか。ちょっと気になった。
 
【目次】
第1章 デジタル世代の子どもたち
第2章 動画・テレビは乳幼児にどう影響するのか?―マルチメディアと言語習得
第3章 デジタルと紙の違いは何?―マルチメディアと読解力
第4章 SNSのやりすぎは教科書を読めなくする?
第5章 デジタル・ゲームは時間の無駄か?
第6章 AIは言語学習の助けになるか?
第7章 デジタル時代の言語能力
 
【著者】
バトラー後藤 裕子 (バトラーゴトウ ユウコ)
 ペンシルバニア大学教育学大学院言語教育学部教授。同校Teaching English to Speakers of Other Languages(TESOL)プログラムディレクター。専門は子どもの第二言語習得・言語教育および言語アセスメント。東京大学文学部卒業後、スタンフォード大学教育学大学院で博士号(Ph.D.教育心理学)を取得。スタンフォード大学教育研究センターのリサーチ・フェローを経て、現職。
 
【抜書】
●ビデオ不全(p80)
 2歳以下の乳幼児は、テレビ/ビデオからの学習では現実の世界で同じことを学ぶのに比べて、学びが劣るということが、しばしば指摘されてきた。video deficit。
 
●オンセット、ライム(p108)
 オンセット……音節内の母音の前にくる子音。bigのb、pigのp。
 ライム……音節を除いた音節の残りの部分。bigのi/g、pigのi/g。
 
●正書深度(p110)
 日本語の仮名表記は、音節と文字が一対一で対応しているのが基本。例外は、拗音、促音、撥音、長音。
 基本的には正書情報と音韻情報がかなり高い割合で一致している。日本語の仮名表記は、正書深度(音と表記の不一致の度合い)が浅い表記(shallow orthography)だと言われる。
 英語は、音と綴りの関係性が複雑なので、深い表記(deep orthography)と言われる。
 英語は、二重母音も含めて43の音素を持つ。アルファベットは26文字なので、圧倒的に文字の数が少ない。
 
●紙対デジタル(p124)
 読解に関して、基本的に紙媒体の読みとデジタル上の読みの違いはないが、細かく見ていくと、多少の差がある。
 物語……フィクションでは、差が見られない。
 説明文……内容を正確に把握することを要求される読みに関しては、紙に軍配が上がる。
 テクストの長さ……英語の場合、500語以下の短文では違いが出ない。500語以上になると、紙で読んだほうが読解力が高まる。スクロールという行為が、読解にマイナスに働くらしい。
 要点把握……ざっくりと要点を理解するタスクでは、差がない。細部の情報を記憶したり、推測しながら読む力は、紙媒体のほうがパフォーマンスが良い。
 過大評価……自分の読みの力を過大評価する度合いは、デジタルのほうが高い。つまり、紙媒体での読みのほうが、より正確に自分の読みの出来具合を予測できている。
 時間……テキストだけの場合は、紙媒体の読みほうが時間がかかる。グラフやイラストなど他の視覚情報が付随している場合には、デジタル媒体での読みのほうが遅くなる傾向がある。
 校正……誤字脱字などの校正では、紙媒体のほうが成績が良い。ポインティングやなぞりながら読む頻度も高い。
 横書きの紙媒体に書き込みをしたり、テキストをなぞったりするとき、多くの人はテキストを少し傾けて行う。読みのスピードと理解のパフォーマンスが一番良いのは、右利きの場合、時計の反対回りに5度程度傾けた状態。
 
●打ちことば(p145)
 SNSやメールで使われる文字ことば。英語では、テクスティング、テクスト・スピークと呼ばれる。
 話しことばに対する打ちことばの特徴をテクシズム(texism)と呼ぶ。
 
●文化の多様性(p178)
〔 AIの登場で、デジタル・テクノロジーも、文化の多様性の一つと考えるべき時代がきているのかもしれない。今までは、人間同士のコミュニケーションを前提としてきたが、そろそろ人工物もコミュニケーション対象の一つとしてとらえるべきだろう。AIは、少なくとも今の技術的アプローチ(深層学習)では、人間とはまったく異なるプロセスで言語コードを使う対象である。場面や相手に応じた適切な反応ができないこともあるだろうし、空気を読んだ発言をしてくれないこともあるだろう。背景知識がないために、誤解することもあるだろう。こうしたAIとのコミュニケーションは、ある意味、異文化コミュニケーションであり、柔軟な対応ができる力が求められる。〕
 
●言語使用能力(p285)
 デジタル時代に必要な言語コミュニケーション能力は、基本的言語知識と、三つの言語使用能力。
 自律的言語使用能力……自主的に言語活動を行う能力。多くの言語情報を効率よく処理し、その中から、自ら必要な言語情報を取捨選択し、批判的な視点を持ちながら、分析・理解する言語能力。どの言語情報を知識に変換するのかを決めたり、自ら問題を設定したりといった、言語と認知との境界線上にある能力も含まれる。
 社会的言語使用能力……デジタルおよび非デジタル空間内で社会ネットワークを構築するための言語「使用」能力。自らの基本的言語知識や非言語知識(世界に関する知識など)を、言語を通じて他者と共有したり、他者とともに新しい知識を構築したりする能力。他者と協力して作業を行う能力。
 創造的言語使用能力……言語情報から変換された既存の知識を再構成・再構築したり、新しいコンテクストへの植え替えを行ったりする能力。対象となる能力のなかには、映像や音など、非言語情報も含まれる。
 
●知識(p288)
 〔情報は知識ではない。私たちの自発的な注意や、記憶や認知判断、意味づけなどを伴うものだけが、知識となる。〕
 
(2021/9/10)NM
 
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ネット中傷駆け込み寺
 [社会・政治・時事]

ネット中傷 駆け込み寺
 
佐藤佳弘/著 スマイリーキクチ/著
出版社名:武蔵野大学出版会
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-903281-51-3
税込価格:1,980円
頁数・縦:244p・21cm
 
 ネットで中傷を受けたり、身に覚えのないことで誹謗されたらどうしたらいいのか……。その解決策を指南する。
 しかしながら、本書を読んで感じるのは真に有効な解決策はないということ。火元を鎮火しても延焼は広がるばかりし、法的手段に訴えても費用がかさむばかりで……。
 困った世の中になったものだ。
 
【目次】
第1部 ネット中傷とは?
 書き込み削除の壁
 発信者の特定
 中傷投稿への対処
 ネット時代の法制度
 無視しますか?戦いますか?
第2部 ネットで悪質な書き込みをされたら…
 被害は突然やってくる
 警察・弁護士へ相談するには?
 トラブルに巻き込まれないために
Special Talk 佐藤佳弘×スマイリーキクチ
 
【著者】
佐藤 佳弘 (サトウ ヨシヒロ)
 東北大学を卒業後、富士通(株)に入社。その後、東京都立高等学校教諭、(株)NTTデータを経て、株式会社情報文化総合研究所代表取締役、武蔵野大学名誉教授、早稲田大学大学院非常勤講師、明治学院大学非常勤講師、総務省自治大学校講師。専門は社会情報学。
 
スマイリーキクチ (スマイリーキクチ)
 東京都出身。1993年お笑いコンビ『ナイトシフト』結成。翌年解散。現在、一人で活躍中。1999年身に覚えのない事件の殺人犯だとネット上で書き込まれ、以降、誹謗中傷を受け続ける。現在タレント活動の傍ら、自身の経験をもとに全国の自治体や学校、企業などでネット上の中傷と風評被害の実態、いじめや命の大切さについて語る。
  
(2021/9/7)NM
 
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古代日本の官僚 天皇に仕えた怠惰な面々
 [歴史・地理・民俗]

古代日本の官僚-天皇に仕えた怠惰な面々 (中公新書 2636)
 
虎尾達哉/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2636)
出版年月:2021年3月
ISBNコード:978-4-12-102636-1
税込価格:924円
頁数・縦:234p・18cm
 
 官僚と言えば、滅私奉公で「宮仕え」をするお役人というイメージがある。それは昔からそうだったと、我々日本人は何となく思い込んでいる。
 しかし、古代日本の律令官人(律令国家の官僚たち)は、けっこうルーズで怠け者だった。その実態を、奈良・平安時代の史料を紐解き、明らかにする。
 そもそも、古代日本には中国的な専制君主国家の礎となる儒教が普及していなかった。礼もなかった。専制君主に従順に仕えるという観念自体が存在しなかった。体制側も、官人たちの緩い勤務に対してあまり厳しく統制してこなかった。つまり、それが日本的な文化だったのである。
 しかし、である。本書では官人たちの勤務態度に対して「怠慢」「過怠」という言葉を多用しているが、果たしてそれだけだろうか、と思うのである。資料的な根拠はないのだが、この時代の社会は、現代との大きな違いがある。個々人が手軽に時刻を知るための時計もないし、交通も発達していない。家電などの文明の利器もないので、官人たちにも家での雑用が多々あったかもしれない。そのため、サボるつもりはなくても、出仕できない日もそれなりにできてしまう。そういう事情もあったのではないか、と漫然と思うのである。律令官人たちに好意的すぎる考えだろうか?
 
【目次】
第1章 律令官人とは何か―前史とその世界
第2章 儀式を無断欠席する官人
第3章 職務を放棄する官人
第4章 古来勤勉ではなかった官人たち
第5章 官人たちを守る人事官庁
終章 官僚に優しかった「専制君主国家」
 
【著者】
虎尾 達哉 (トラオ タツヤ)
 1955年(昭和30年)、青森県に生まれる。京都大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科博士課程中退。京都大学博士(文学)。現在、鹿児島大学法文学部教授。専門は日本古代史。
 
【抜書】
●大舎人(p18)
 天武天皇は、天武2年(673年)5月、出身法(官人登用のための法)を打ち出した。
 「大舎人(おおとねり)」という官人登用制度を創設した。他の「舎人」と区別するために、天皇との密接な関係を表す「大」の字を付けた。天皇の身近にトネリとして仕えさせ、これを忠良なる官人に育て、能力に応じた官職に就ける。大舎人は新官人群養成のための培養器であった。
 
●官人の給与(p38)
 奈良・平安時代の六位以下の官人の給与。
 長上官の給与は、季禄。年2回支給される。絁(あしぎぬ)・綿・布の繊維製品と鍬の現物給付。全国からの調を財源とする。
 番上官は、一部を除き給与はない。毎月の食料(月料)と調庸免除の特権のみ。
 長上官(ちょうじょうかん)……識事官(しきじかん)ともいう。四等官(長官、次官、判官、主典)など、常勤の官庁の中軸的官職。
 番上官(ばんじょうかん)……分番官、雑任(ぞうにん)ともいう。非常勤でローテーション(番)を組んで勤務する。史生(ししょう)、使部、伴部(ばんぶ)など四等官の下にあって様々な下働きを担う官職。官位相当制の埒外にある。
 
●悪臭(p108)
 桓武天皇は、延暦9年(790年)、奏紙の悪臭について怒りをぶちまけた。
 「私のもとに進められる奏紙には、悪臭を放つものが多い。今後は臭わないきれいな紙だけを選んで奏紙とせよ。もし、これを改めないなら、奏上を行う少納言を処罰する」。
 
●早朝(p141)
 古代中国では、政治は早朝に行われるものとされた。
 朝廷や朝政という古代の政治機構や政治そのものを表す漢語に「朝」がつくのはそのためである。
 
(2021/9/1)NM
 
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