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科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体 誤用の悪影響と賢い使い方を考える
 [自然科学]

麻生一枝/著
科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える  
出版社名:日本評論社
出版年月:2021年1月
ISBNコード:978-4-535-78929-6
税込価格:2,860円
頁数・縦:162p・21cm
 
 インパクト・ファクターなるものが、研究者の業績を判断するのに大いに活用されている。
 しかし、これは一方で問題の多い指標である。本来の目的からずれてしまっている。
 本書では、インパクト・ファクターを起源に遡って解説し、その原理と問題点を探る。
 
【目次】
プロローグ 間違った指標で評価される科学者たち
第1章 インパクト・ファクターとは何か
 インパクト・ファクターの定義
 インパクト・ファクターの起源
  ほか
第2章 インパクト・ファクターの誤用とその問題点
 雑誌のインパクト・ファクターからではわからない、個々の論文の被引用回数
 分野によって大きく異なるインパクト・ファクター
  ほか
第3章 インパクト・ファクターの誤用のもたらすもの
 個々の研究者による論文の被引用回数の操作
 出版社や編集委員によるインパクト・ファクターの操作
  ほか
第4章 インパクト・ファクター偏重主義根絶への動き
 インパクト・ファクターの不適切な使用に関するEASE声明
 研究評価に関するサンフランシスコ宣言
エピローグ
 
【著者】
麻生 一枝 (アソウ カズエ)
 成蹊大学非常勤講師。お茶の水女子大学理学部数学科卒業、オレゴン州立大学動物学科卒業、プエルトリコ大学海洋学科修士、ハワイ大学動物学Ph.D.。専門は動物行動生態学。オハイオ州立大学ポスト・ドク研究員、お茶の水女子大学人間文化研究所研究員、長浜バイオ大学准教授を経て、科学ジャーナリズム海外修行準備中。
 
【抜書】
●インパクト・ファクター(p1)
 もともとは、大学の図書館が図書を購入するときの参考にするために考え出されたもの。
 ある雑誌の2019年のインパクト・ファクターは、次の式で計算される。
  (2017年と2018年にその雑誌に掲載された論文が、2019年に様々な雑誌に引用された回数)
  ――――――――――――――――――――――――――――
  (2017年と2018年にその雑誌に掲載された論文の総数)
 JCR(Jounal Citatation Reports)に掲載される。クラリベイト・アナリティクス社(本社:米国フィラデルフィア)が販売。以前はトムソン・ロイター社。
 81ヵ国で出版された11,459の学術雑誌が対象(2016年時点)。
 
●SCI(p3)
 Science Citatation Index。
 1955年に、ユージーン・ガーフィールドが考案。発表された論文がその後どの論文に引用されていくかを追跡することができる。
 彼が設立したInstitute for Scientific Infromation社(その後、トムソンISI)から1963年に刊行された。
 インパクト・ファクターの起源。
 
●実際の算出式(p44)
 ある雑誌の2019年のインパクト・ファクター。
  (2017年と2018年にその雑誌に掲載された記事が、2019年に様々な雑誌に引用された回数)
  ――――――――――――――――――――――――――――
  (2017年と2018年にその雑誌に掲載された引用可能な記事の総数)
 引用可能記事とは、研究論文(原著論文とレビュー論文)のことである。
 
●ネカト(p106)
 データの捏造、データの改竄、盗用、重複出版は、明らかな不正。
 捏造(fabrication)、改竄(falsification)、盗用(plagiarism)は、FFPと呼ばれ、三大研究不正として広く認識されている。
 日本語では、「ネカト」。
 
(2021/8/30)NM
 
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悲劇の世界遺産 ダークツーリズムから見た世界
 [歴史・地理・民俗]

悲劇の世界遺産 ダークツーリズムから見た世界 (文春新書 1313)
 
井出明/著
出版社名:文藝春秋(文春新書 1313)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-16-661313-7
税込価格;1,210円
頁数・縦:220p・18cm
 
 1978年、初回の世界遺産登録は、文化遺産8か所、自然遺産4か所だった。文化遺産の一つは西アフリカのゴレ島。大航海時代に奴隷売買が行われた場所である。第2回目には、アウシュビッツが登録された。
 このように、世界遺産とは人類の栄光、明るい記憶のみを後世に伝えるための制度ではない。光と影の両面にわたって、人類が語り伝え、後世に残すべき「遺産」を認定する事業なのである。世界遺産という制度には、もともと観光振興という目的はなかった。
 しかし、途上国そして日本においては、観光地としての箔付けのために世界遺産を利用する傾向が強い。日本の世界遺産の現場では、負の記憶を隠ぺいする動きさえある。そんな問題意識を抱きつつ、世界遺産をめぐるダークツーリズムについて論じる。
 ちなみに日本では、1992年に世界遺産条約が正式に発効し、翌年、文化遺産として「法隆寺地域の仏教建造物」と「姫路城」が、自然遺産として「白神山地」と「屋久島」が登録された。
 
【目次】
第1章 世界遺産制度の概要とダークツーリズムの考え方
第2章 アウシュビッツとクラクフから考える
第3章 産業遺産の光と影
第4章 ダークツーリズムで巡る島
第5章 潜伏キリシタン関連遺産を観る眼
第6章 復興のデザイン
第7章 コロナ禍で考える世界遺産
付章 カリブの旅
 
【著者】
井出 明 (イデ アキラ)
 1968年生まれ。京都大学経済学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、同大学院情報学研究科博士後期課程指導認定退学。京都大学にて博士号(情報学)を取得。近畿大学助教授、首都大学東京准教授、追手門学院大学教授、ハーバード大学客員研究員などを歴任。現在、金沢大学国際基幹教育院准教授。日本に「ダークツーリズム(災害や戦争の跡など“悲劇の記憶”を巡る旅)」を広めた気鋭の観光学者。社会情報学の手法を用いて、新しい時代の観光研究を行っている。
 
【抜書】
●ユネスコの三大遺産事業(p17)
 世界遺産……世界文化遺産、世界自然遺産。不動産が中心。最近では、「景観」も対象に。
 世界記憶遺産……正式名称は「世界の記憶」。人類が後世に伝えるべき資料の原本。
 世界無形文化遺産……食文化や伝統工芸など。
 通常、「世界遺産」と言った場合には、下の二つは入らない。
 
●ダークツーリズム(p29)
 1990年代にイギリスで生まれた新しい観光の概念。
 戦争や災害などの悲劇の記憶を巡る旅。ほかに、環境破壊(公害)・性的搾取・労働問題・病気・犯罪に関連した場所も対象。
 欧米ではここ20年で一般化した。
 日本では、東浩紀が『福島第一原発観光地化計画』(ゲンロン、2013年11月)を発表して、急速に一般化していった。
 
●政治犯(p47)
 ナチスは、ポーランドに侵攻した直後、クラクフの伝統ある名門校ヤゲロー大学(現地語ヤギェヴォ)の教授たちのなかから政治犯をでっちあげ、アウシュビッツに収容し、処刑した。
 インテリ層を捕縛し、被統治民から言葉を奪うための政策。
 
●トーマス・クック(p62)
 世界最初の旅行会社と言われたトーマス・クック・アンド・サンズ社の創業者。企業グループは2019年に破綻。
 産業革命時代、鉄道を利用した安価な大衆旅行をビジネスモデル化し、労働者に提供したことが近代観光産業の起源。当時の労働者は、仕事の鬱憤を酒で紛らすことが多く、酒浸りの生活をしていた。鉄道旅行でリフレッシュされ、生産性も上がったため、旅行業が成立した。
 
●千人壺(p77)
 石見銀山には、脱走を試みる者や就業拒否者に対する処刑場があった。観光の用にも供されていたが、世界遺産登録後、跡形もなく整備されてしまった。
 千人壺という史蹟(市指定文化財)もある。死罪となった盗人や放蕩者、病死者、身寄りのない遺体が投げ入れられたという言い伝えが残る。現在も見学可能だが、観光マップ等には掲載されておらず、地元の人に聞かないと場所がわからない。
 
(2021/8/27)NM
 
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新・資本主義論 「見捨てない社会」を取り戻すために
 [社会・政治・時事]

新・資本主義論:「見捨てない社会」を取り戻すために
 
ポール・コリアー/著 伊藤真/訳
出版社名:白水社
出版年月:2020年9月
ISBNコード:978-4-560-09787-8
税込価格:3,520円
頁数・縦:317, 15p・20cm
 
 イデオロギーとポピュリズムを廃したプラグマティズムを根底に据え、社会民主主義に根差した倫理的な資本主義こそが、今後構築すべき世界の姿である。グローバル化と新自由主義によって傷ついた社会について論じ、それを乗り越えるための新しい資本主義について提案する。
 
【目次】
第1部 危機
 第1章 新たなる不安
第2部 倫理を回復するには
 第2章 道徳の基礎―利己的遺伝子から倫理的集団へ
 第3章 倫理的な国家
 第4章 倫理的な企業
 第5章 倫理的な家族
 第6章 倫理的な世界
第3部 包摂的な社会を回復するには
 第7章 地理的格差―繁栄する大都市と破綻した都市
 第8章 階級格差―すべてを「持てる者」たちと崩れゆく「持たざる者」たち
 第9章 グローバルな格差―勝者と落伍者
第4部 包摂的な政治を回復するには
 第10章 二極分化を超えて
 
【著者】
コリアー,ポール (Collier, Paul)
 オックスフォード大学ブラヴァトニック公共政策大学院教授。『最底辺の10億人』『民主主義がアフリカ経済を殺す』(以上、日経BP)、『収奪の星』『エクソダス』(以上、みすず書房)の著書で知られる政治経済学者。アフリカをフィールドワークの中心としながら、世界の最貧国の最底辺で暮らす人びとに寄り添い、先進諸国の政治・経済政策やグローバリズムの弊害に厳しい批判の目を向けてきた。また、途上国援助や民主主義といった理念的には望ましい政策も、運用を間違えればかえって救うべき人びとに不幸をもたらす現実を鋭く指摘。
 
伊藤 真 (イトウ マコト)
ノンフィクションを中心に翻訳に従事。
 
【抜書】
●六つの価値観(p21)
 ジョナサン・ハイトは、世界中の人々が抱く根本的な価値観を測定した。その結果、私たちはほぼ誰でも六つの価値観を重視しているという。『社会はなぜ左と右にわかれるのか』高橋洋訳、紀伊國屋書店。原著は2012年刊。
 忠誠、公正さ、自由、権威の尊重(ヒエラルキー)、気遣い(ケア)、神聖さ。
 
●ロールズ主義(p23)
 ジョン・ロールズ、1921-2002年。
 ある社会が道徳的であるかどうかは、もっとも不利な立場にある集団の利益のためにその法制が設計されているかどうかで判断すべきだ、という主張。弁護士たちが率先した。
 
●社会的母権主義(p34)
 ソーシャル・マターナリズム。社会的父権主義に対抗する概念。
 〔国家は社会と経済の両方の領域で積極的に役割を果たすが、過度に自らの権力を増大させることはしない。租税政策は強者たちが分不相応な利益を持ち去ることがないように抑制するが、喜び勇んで富裕層から所得を奪い取って貧困層に配るようなことはしない。さまざまな規制はするが、それはまさに資本主義が驚異的なダイナミズムを発揮する活動を挫くためではなく、「創造的破壊」――それは競争によって経済発展を促進する――の犠牲者たちが補償を求めることができるようにするためだ。「社会的母権主義」のもとでは、愛国心が人びとを結束させる推進力となり、不平不満に基づく個々にばらばらなアイデンティティは重視されなくなる。この指針の哲学的基盤となるのはイデオロギーの排斥だ。とはいえ、雑多な思想のごった煮というわけではなく、私たちの多様かつ本能的な道徳的な価値観と、その多様性に当然ながら伴うプラグマティックな妥協とを、進んで受け入れることを意味している。何か特定の単一な絶対的な理性的原理でもって多様な価値観を退けるというやり方は、必然的に対立をもたらすだけだ。互いの多様な価値観を認め合うことは、デイヴィッド・ヒュームとアダム・スミスの哲学に根差しているのだ。左右両極の対立は二十世紀の最悪の時期の特徴であり、目下猛烈な勢いで復活しつつあるが、本書が提示する諸政策はそれを乗り越えるのである。〕
 
●プラグマティズム(p48)
 〔プラグマティズムはイデオロギーの対極にあるのと同様に、大衆迎合主義(ポピュリズム)とも対極にある。イデオロギーは数々の豊かな人間的価値観よりも、何らかの「理屈」を優先する。一方、ポピュリズムは証拠に基づく実際的な推論を払いのけ、いつだって臆面もなく激情にまかせて一足飛びに政策へと飛躍する。私たちが抱く価値観は、実際的な論理的思考と組み合わされば、心と頭を組み合わせたものになる。それに対してポピュリズムが提示するのは心ばかりで頭がなく、イデオロギーによる価値観は頭ばかりで心がないのだ。〕
 
●最高コミュニケーション長官(p62)
〔 家族、企業、そして国家は、私たちの生活を成り立たせるのに不可欠な舞台(アリーナ)だ。それらを構築するもっとも手っ取り早い方法はヒエラルキー型の構造にすることだろう。そこではトップの連中が下層の連中に命令を下す。ただし、つくるのは簡単でも、効率的に運営することはきわめて難しい。司令官たちが部下たちの行動を監視て(ママ)いるときしか、人びとは命令に従わないからだ。これまでも多くの組織では、ヒエラルキー構造を緩めるほうが効率的だということに気づいてきた。明確な目的意識のある相互に依存した役割を人びとのためにつくり出し、それを実行する自主性と責任を人びとに与えるのだ。こうして、力によって運営されるヒエラルキー型組織から、目的意識によって運営される相互依存型の組織へと移行することは、同時にそれに応じてリーダーシップのあり方を変えることでもある。リーダーは「最高司令官」ではなく、「最高コミュニケーション長官」となったのだ。「飴と鞭」に「ナラティブ」が取って代わるのである。〕
 
●倫理的な資本主義(p70)
 イデオローグともポピュリストとも異なる道。
 私たちの価値観に基づく規準に合致し、実際的な推論によって研ぎ澄まされ、社会自体によって再生産さる。
 「社会自体によって再生産される」とは、社会の種々の規範は自らを破壊するようなものであってはならない、という意味。
 
●持ち家(p104)
 〔若い人たちが帰属意識を失いつつある理由の一つは、家を買うことがきわめて難しくなってしまったことだ。人口に占める持ち家率は、帰属意識の中心部を知るための実用的な指標となる。そして後述するように、持ち家率を回復させるには賢明な公共政策が必要なのである。〕
 
●経済的レント(p203)
 ある人に何らかの行為を行わせる誘因となる収入を超過する収入。
 集積による利益は経済的レントである。そのため、効率性という基準に照らして理想的な課税のターゲットとなる。
 
●幼稚園無償化(p234)
 幼稚園教育こそ、国家が提供すべき根拠が他のどんなレベルの教育よりも強い。
 幼稚園がもっとも標準化しやすい。規模が大きくなればコストも下がる。国家が運営する利点が大きい。
 社会が主として幼稚園に期待するのは、幼い子供たちが社会の幅広く多様な背景出身の他の子供たちと出会えるように、標準的な場を提供してくれること。
 望ましい結果として、(1)子供たちの人格が社会的影響によって最も形成されやすい時期に、社会的に多様な子供たちと交わることができること、(2)もっとも就学前教育を必要としている子供たちが通園する可能性が高くなること。
 
●ティーチ・ファースト・プログラム(p237)
 大学を卒業したての優秀な学生に、ほかの職業に就く前に卒業後から数年間、教員をさせること。
 当初はロンドンに限られていたが、最も必要としているのは地方の都市や町の学校。優秀な教員たちはそこで孤立して置き去りになることを恐れ、そうした学校への赴任には及び腰である。一生教員をしようという人たちが行きたがらないからこそ、ずっと教員をするつもりのない人材こそ、ふさわしい。
 
●金融、法曹(p264)
〔 きわめて生産性の高い多くの高学歴者たちは社会にとってきわめて有益である。だがその多くは他人を犠牲にして自分たちが稼ぐためにスキルを使っている。〕
 金融界と法曹界を結ぶさまざまな職。
 金融資産の活発な取引は資産の流動性を高めるのに有効だが、その取引の大部分はゼロ・サム。
 〔ではそんなゼロ・サム式の取引がどうして行われるのか? 答えは、ひどく頭の切れる連中がわずかに頭の切れが劣る連中を出し抜けるからだ。〕
 ドイツ銀行は、スター行員のボーナスに710億ユーロを支払った。株主には190億ユーロ。
 弁護士は数が多すぎる。イギリスの弁護士の収入の70%は住宅取引の法的手続きを独占していることによる。弁護士はもっぱら経済的レントを追い求めている。
 こうした人材を、社会的に価値のあるイノベーションに向かわせるべき。イノベーションによって生み出した利益の96%は、イノベーター以外の人々が享受できる。
 
●コミュニタリアニズム(p287)
 最後に資本主義がまともに機能していた時期は1945-70年。
 この時期の政策は、主要政党に満ち満ちていた共同体主義(コミュニタリアニズム)的な社会民主主義を指針としていた。
 社会民主主義の源は19世紀の共同組合運動。
 
(2021/8/26)NM
 
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日本人の愛国
 [社会・政治・時事]

日本人の愛国 (角川新書)  
マーティン・ファクラー/〔著〕
出版社名:KADOKAWA(角川新書 K-359)
出版年月:2021年6月
ISBNコード:978-4-04-082331-7
税込価格:990円
頁数・縦:222p・18cm
 
 日本に長く住み、各地で取材を続け、日本と30年間向き合ってきたジャーナリストによる、「日本人の愛国」論。そのあらましは以下の「抜書」に譲るとして、日本がこれからの世界の新しい社会モデルになる、という提言を私たちは肝に銘じて、実現する努力をしていかなければならないだろう。
 
【目次】
第1章 愛国は多層的だ
第2章 戦前の愛国―上からの愛国は命さえも軽んじられる
第3章 元兵士たちの愛国―ナショナリズムの拒絶と新しい表現
第4章 定まらない愛国―島は巨大な墓である
第5章 戦後の転機その1―尖閣諸島問題
第6章 戦後の転機その2―3・11
第7章 天皇が示した愛国
第8章 沖縄の人々
 
【著者】
ファクラー,マーティン (Fackler, Martin)
 ジャーナリスト。1966年アメリカ・アイオワ州生まれ。大学生のときに台湾の東海大学に留学。慶應義塾大学をへて、東京大学大学院で経済学を研究生として学ぶ。イリノイ大学でジャーナリズムの修士号を、カリフォルニア大学バークレー校で歴史学の修士号(現代東アジア史専攻)を取得した後、96年よりブルームバーグ、AP通信社、ウォール・ストリート・ジャーナルで記者として活躍。2009~15年、ニューヨーク・タイムズ東京支局長。11年の東日本大震災の精力的な報道で、12年ピュリッツァー賞のファイナリストとなった。
 
【抜書】
●新しい社会モデル(p40)
〔 一方で私は、日本に対しての期待も大きくなってきたとも言えると思う。戦後の世界秩序が揺さぶられる中で、世界の多くの人は、アメリカでの格差社会を生んだ新自由主義とも違う、香港の若者たちの抗議デモを弾圧する中国のサイバー権威主義とも違う、別の社会モデルを探している。この混乱した、技術や政治的な変化によって流動性のある時代に合う、新しい価値観や経済・社会モデルを日本に期待している。〕
 
●リーダーの息子や孫(p98)
〔 戦後の日本の支配者にとって、戦争の記憶を棚上げするもう一つの目的があったと私は考える。戦後の政治家や官僚の多くは、戦争に直接関わったか、または、戦前・戦時中のリーダーの息子や孫だったから、戦争責任を追及するのを避けたかったのだろう。新しい経済大国を造るには、国民の追従と動員が必要だったのだ。
 戦後のコンセンサスを作るために、戦争についての社会議論をしなかった。根本的な問いかけさえ投げかけなかったのである。あの戦争はなぜ起きたのか? 日本は何のために戦ったのか? 約310万人もの人がどうして亡くなったのか? このような議論をしたことがある人はどれくらいいるだろうか。
 日本政府は、社会を分断させるこうした議論を凍結して、国民の力や感情を平和的な経済成長に集中させることに成功した。所得倍増計画といった目標を立てて、皆の生活水準を高めるために頑張ろうと呼びかけた。国民の意欲を育て維持するように、政府がメディアを動員して、戦争という課題をずっと避けてきた。そして、終戦から70年以上もの歳月が過ぎた。〕
 
●戦争責任(p131)
〔 戦争責任と真正面から向き合う勇気をすべての世代がもちあわせることが、新しいアイデンティティを生み出す大前提となると私は考えている。〕
 
●新たな愛国(p218)
〔 違う民族同士が共有できるアイデンティティをどう構築するか。戦後の日本は、植民地を手放して、平和的で平等な社会を作ってきた。弱肉強食の原理で動くアメリカと異なり、公平で思いやりのある、コミュニティのメンバーを大事にする国となった。日本の愛国のあるべき姿は、戦後の今までの成果に基づくのではないだろうか。
 だからこそ、新たな愛国の定義を何に求めるのかが問われてくるだろう。政治的な体制なのか。経済的な体制なのか。私個人としては、社会のあり方に答えがあるのではと考えている。沖縄で図らずも表出したアイデンティティの違いを乗り越えていくことは、21世紀の日本を前進させていくチャンスであると考えている。〕
 
●下からの愛国心(p220)
〔 この本で、世界の地政学的な変化により、日本が冷戦時代から続いてきたアメリカに従属するマインドから脱皮して、国民の一人一人が自分の国への責任を感じないといけない時代になってきたと議論した。
 しかし、これは戦前の愛国心に戻るという意味では決してない。戦後の日本の素晴らしい成果を認め、平和的で平等で住みやすいという新しい形の国を作るのが立派なゴールとなるのではないだろうか。
 そのため、3・11の後に現れた市民ジャーナリズムや市民科学からヒントを得て、明治時代にできた上からの愛国から脱却して、国民が自発的に感じる下からの愛国心が必要なのではないだろうか。これにより、国民が主体となる、もっと健全なナショナリズムを生み出すのではないかとこの本の中で議論した。
 そして、単一民族国家という古い考え方から脱却して、多様な民族や価値観、生活様式、女性やLGBTなどの活躍を可能にする社会となり、『日本人」の新しい定義をより広く考え直すということを私なりに提案した。〕
 
【ツッコミ処】
・南北戦争(p21)
 〔南北戦争、国内の対立の様子(小学館「ジャパンナレッジ」掲載資料をもとに作成)〕と題した地図が掲載されている。調べてみたら、『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)の「南北戦争」という項目に載っている図版だった。
 ちなみに、「ジャパンナレッジ」の運営会社は株式会社ネットアドバンスである。
 
・遺骨収集(p92)
〔 日本とアメリカのこの違いは何だろう。戦死者の数が理由ではない。戦争という史実への向き合い方、とらえ方の違いだと私は考える。歴史を直視してきたか否かの差が、収容されていない遺骨数に反映されているのではないか。
 アメリカでは、遺体および遺骨の収容は、アメリカ軍が責任をもってあたる。太平洋戦争を含めた第二次世界大戦から朝鮮戦争、ベトナム戦争をへて湾岸戦争やアフガニスタン戦争、イラク戦争などにおいても、戦争の目的などに対する議論とは別に、戦没者へ最大限の敬意と感謝、哀悼の想いを捧げる。〕
  ↓
 日本が戦没者の遺骨収集に積極的でないのは、軍が消滅したからではないだろうか?
 軍人たちは、一緒に戦ってきた仲間たちの遺体を戦場に放置したくないだろう。その思いは強いと思う。軍が消滅した日本では、戦死者への思いを強く抱く主体がなくなったのだ。
 しかし、硫黄島は自衛隊の基地・駐屯地となっているのだったら、自衛隊に収集作業をしてもらえいばいいのにと思う。
 それにしても、北朝鮮拉致被害者との大きな違いは何だろう。こちらの遺骨回収には非常に神経質なのに。
 
(2021/8/23)NM
 
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彼らはどこにいるのか 地球外知的生命をめぐる最新科学
 [自然科学]

彼らはどこにいるのか: 地球外知的生命をめぐる最新科学
 
キース・クーパー/著 斉藤隆央/訳
出版社名:河出書房新社
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-309-25423-4
税込価格:2,970円
頁数・縦:368, 15p・20cm
 
 地球外知的生命は存在するのか。そして、高度な文明を築いている地球外知的生命がいるとしたら、われわれはどのように接触すべきなのか。
 SETI(Search for Extraterrestrial Intelligence:地球外知的生命探査)およびMETI(Messaging Extraterrestrial Intelligence:地球外知的生命へのメッセージ送信)について、研究の最前線と最新状況を広汎に取材して論じる。
 第1章がいきなり「利他行動」を扱っていることに面食らった。SETIと関係するのか? これはつまり、ETIが地球人にシグナルを送ってくる理由を考察しているのである。シグナルを送ることで存在を知られてしまって、侵略されては元も子もない。そんな危険を冒してシグナルを送ってくるのは、善意の行動としか考えられない、というのである。だとしたら、送られてくるメッセージは「銀河百科事典」だろうか?
 しかしながら、ETIが存在するとして、それを探索したり、メッセージを送ったりすることにどれほどの意義があるのだろうか。見つかったとしても数光年以上離れた惑星であろうし、やり取りには途方もない時間がかかる。それに必要なエネルギーも膨大である。無駄なことではないかと思うのである。これも人類の知的好奇心のなせる業か?
 
【目次】
はじめに 「緑の小人」は存在するか
第1章 利他行動の仮定―エイリアンは地球人に親切か
第2章 知能―エイリアンとコミュニケーションができるか
第3章 故郷―地球以外に住みやすい星はあるか
第4章 星間ツイッター―地球外からのメッセージは見つかるか
第5章 銀河帝国―エイリアンは宇宙に進出しているか
第6章 ふたつの時計―宇宙で文明はどれだけ続くか
第7章 地球からのメッセージ―エイリアンとのコンタクトは危険か
第8章 二一世紀のSETI―なぜエイリアンを探すのか
 
【著者】
クーパー,キース (Cooper, Keith)
 科学ジャーナリストおよび編集者。マンチェスター大学で天体物理学の学位を取得。専門は、天体物理学、宇宙論、宇宙生物学、地球外知的生命探査、惑星科学。2006年以降、イギリスの天文学専門誌『Astronomy Now』の編集者を務めている。2017-19年にはオンライン科学誌『Astrobiology Magazine』の編集者も兼任。
 
斉藤 隆央 (サイトウ タカオ)
 翻訳者。東京大学工学部工業化学科卒業。訳書多数。
 
【抜書】
●ティコピア島(p44)
 南太平洋の島。面積5平方キロメートル。人口1,115人が、四つの氏族に分かれて生活。火山活動で生まれ、標高380mのレニア山の山頂付近には水深80mのカルデラ湖がある。
 カヌーで太平洋を西から渡ってきたポリネシア人が、3,000年にわたって自給自足の生活をしている。
 1600年頃、島じゅうのすべての豚を処分した。島の食料資源を節約するため。1kgの豚肉を得るために10kgの野菜が必要。そして、果物と野菜と根菜といった主食を補うため、再び漁をするようになった。
 人口抑制の手段として、独身、妊娠中絶、成功の中断、子殺し、氏族間の戦争、事実上の自殺(太平洋に漕ぎ出して帰ってこない)、などが行われていた。これらは、四つの氏族の首長たちが小屋に集まって、話し合った末に民主的に定められたルールだった。
 
●勝者と敗者(p52)
〔 では、平等主義社会がそんなにうまくいくのなら、なぜわれわれの大半はそれを放棄しているのだろう? ひとつの可能性として、人口過剰がさまざまな障害を生み、全員を養えるように農耕の登場をもたらした結果、余剰が生じたというものが挙げられる。その余剰を管理する人々が必要になり、するとその人々が余剰を自分たちの利益のために利用するようになって、それまで存在しなかった不平等や社会階級が生まれたのである。農耕は資源を消費し、集団にはるか遠くに目を向けさせて拡張させ、近隣の集団との争いをもたらした。勝者と敗者がいるところに、平等はない。〕
 
●テイア(p130)
 44億5000万年前、火星くらいの大きさで、質量は1〜5倍あったテイアという惑星が、秒速4km未満で、45度の角度でかすめるように地球と衝突した。
 テイアはすっかり破壊され、小さな鉄のコアは、衝突によって深さ1,000kmまで溶解した地球に吸収された。
 大量のマントル物質が地球本体からちぎり取られ、テイアのかけらの大部分と一緒になる。切り取られたマントル物質とテイアの破片は燃えるリングとなって地球を取り巻き、地球に溶岩の玉が滴り落ちた。
 数十年と立たずにリングの物質はぶつかりあって溶け合い、新たな天体となった。「月」である。
 月の組成は地球のマントルにある比較的軽い物質に似ている。
 
●タイタン(p149)
 土星の衛星タイタンは、マイナス179℃という極低温の世界。大気がある。メタンをたたえた湖がたくさん見つかっている。「メタンのハビタブルゾーン」かもしれない。
 タイタンの地表では、エタンとアセチレンの量が、太陽の紫外光によって上層大気のメタンが分解されてできると予想される量に比べて少ない。水素も、地表で少なくなっている。メタン生成生物が、水素やアセチレンの分子を取り込み、化学反応でエネルギーを生み出す一方、メタンと二酸化炭素を老廃物として「吐き出している」のかもしれない。
 エタン、アセチレン……いずれも水素原子と炭素原子のみからなる「炭化水素」の分子。
 
●ハビタブル・リング(p157)
 天の川銀河のハビタブルゾーンは、超大質量のブラックホールがある中心から2万2800光年を内端、2万9400光年を外端とする細いリングとなっている。
 地球は、ブラックホールから2万6000光年ほどの距離で、リング内。
 
●ダイソン球(p206)
 数学者・物理学者・宇宙科学者フリーマン・ダイソンにちなむ。
 先進文明が自分たちの恒星の全エネルギー出力を利用しようとしたら、恒星を取り囲むソーラーコレクター(太陽エネルギー収集機:つまり手の込んだ太陽電池パネル)の大群を建造して、恒星の放射エネルギーをすべて吸い取ることができるだろうと考えた。
 エネルギーを吸い上げている装置や物は、溶けてしまわないよう、予熱の一部を宇宙へ放射しなければならない。すると赤外線でほのかに明るく見える。これが、「ダイソン球」。
 
●第一SETIプロトコル(p326)
 電波やレーザーといった地球外からのシグナルや、ダイソン球や太陽系に来たプローブなどのテクノシグネチャーを、たまたま見つけた場合になすべきことを科学者にアドバイスするための9項目のプラン。
 国際宇宙航行アカデミー(IAA)を代表して、マイケル・ミショーがリーダーを務めた、SETIの研究者と関係者のワーキンググループによって考案された。
 項目8「地球外知的生命のシグナルやほかの証拠に対する返答は、しかるべき国際協議が行われるまで送ってはならない」。
 
(2021/8/22)KG
 
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警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル
 [社会・政治・時事]

警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル
 
服藤恵三/著
出版社名:文藝春秋
出版年月:2021年3月
ISBNコード:978-4-16-391344-5
税込価格:1,870円
頁数・縦:278p・19cm
 
 積極的に地下鉄サリン事件に関与し、サリンの同定、オウム真理教の施設の解明に実績を残し、警視庁の初代科学捜査官に任命された男の半生記。
 科学捜査の手法や、難事件を解決したいきさつなどが細かく具体的に描かれていて面白い。和歌山カレー事件で、林眞須美が通常、座敷から庭に出入りしていることを見抜き、沓脱石の周りに亜ヒ酸が検出されるのではないかと推理する場面など、まるでシャーロック・ホームズ。オウム真理教第二厚生大臣・土谷正実との面会シーンでは、サリンの合成法やオウムの実験施設に関することなど、化学的な知識をひけらかすことによって観念させ、自供を引き出した。
 その他にも、現場の刑事たちとの心温まる交流が描かれていて、真面目に愚直に捜査に邁進する彼らに対する共感をひしひしと感じる。とても人間的である。一方、科捜研の職員や一部警察官僚の事なかれ主義、役人的体質にも言及し、警察組織の複雑さも垣間見える。そうした一切合切を含めて、一風変わった警察人生の喜怒哀楽を、誇りをもって本書で語りたかったのだと思う。
 
【目次】
第1章 オウムの科学を解明せよ―地下鉄サリン事件
第2章 憧れの科学捜査研究所へ
第3章 真の科学捜査とは何か―和歌山カレー事件
第4章 続発する薬物犯罪―ルーシー・ブラックマン事件
第5章 現場の捜査に科学を生かす―歌舞伎町ビル火災
第6章 犯罪捜査支援室の初代室長となる―東京駅コンビニ店長刺殺事件
第7章 警察庁出向から副署長へ―大阪幼児死体遺棄・殺人事件
第8章 生き甲斐を求めて―名張毒ぶどう酒事件再審請求
 
【著者】
服藤 恵三 (ハラフジ ケイゾウ)
 1957年生まれ。東京理科大学卒業。警視庁科学捜査研究所研究員(1981)。地下鉄サリン事件でサリンを最初に同定。オウム真理教関連事件捜査に特別派遣(1995)。初代科学捜査官(1996)。和歌山毒物混入カレー事件(1998)、長崎・佐賀連続保険金目的父子殺人事件(1992-1998)、国立療養所医局アジ化ナトリウム混入事件(1998)、ルーシー・ブラックマン失踪関連事件(2000)、44人死亡新宿歌舞伎町1丁目多数焼死事件(2001)など、全国で発生した多くの事件捜査に科学的立証の立場から貢献。日本警察で初めて「捜査支援」構想を企画・立案・運営。初代警視庁犯罪捜査支援室長(2003)。数多の捜査支援用資機材・各種解析手法を開発。日本警察における「科学と捜査の融合」を具現化。警視庁捜査第三課理事官・科捜研理事官・刑事部主席鑑定官、警察庁刑事局調査官などを歴任。元警視長。現在、法律事務所の他、複数社にて顧問・技術戦略アドバイザー、官と民による社会安全・安心の仕組み作りに奔走。医学博士。警察庁指定シニア広域技能指導官。
 
【抜書】
●DB-Map(p182)
 Database-Map System。平成14年ごろ、著者が開発した捜査支援のための資機材。
 詳細な住宅地図、データベース、各種解析機器を搭載し、初動捜査から事件の分析を支援する機能を備えている。
 画面の地図上で範囲を指定すればワンクリックで拡大・縮小が可能。即座に印刷できる。貼りあわせて掲示するためにのりしろも付けた。
 
●DAIS(p183)
 Dijital Assisted Investigation System。平成14年ごろ、著者が開発した捜査支援用画像解析システム。
 回収した防犯カメラの映像を取り込むとデジタル化され、毎秒30枚の静止画がたくさん並んだ状態になる。手動でも自動でも動画を再生でき、その中の欲しいカットを指定してボタンを押すだけで切り取れる。ノイズを除去して鮮明化もできる。
 
●FIVe(p206)
 Face Image Verification。平成16年に開発した顔認証システム。
 コンペに参加した7社のうち、個々の機能に優れた4社と警視庁と合わせて五者の共同開発だったので命名。顔の認証に良い成績を残した装置、顔の切り出しに優れた装置、照合に能力を発揮した装置とあったが、設定したハードルを越える製品は一つもなかった。
 
(2021/8/20)NM
 
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教科書の常識がくつがえる!最新の日本史
 [歴史・地理・民俗]

教科書の常識がくつがえる! 最新の日本史 (青春新書インテリジェンス)
 
河合敦/著
出版社名 青春出版社(青春新書INTELLIGENCE PI-618)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-413-04618-3
税込価格:1,078円
頁数・縦:205p・18cm
 
 これまで、あまり重視されてこなかった「日本史の節目」となる七つの事件を取り上げて論じる。
 
【目次】
1章 日本史の節目1 大海人皇子の吉野降り(671年)―約450年続く律令体制の始まり
2章 日本史の節目2 保元の乱(1156年)―源氏と平氏の台頭、平氏政権、鎌倉幕府の誕生へ
3章 日本史の節目3 享徳の乱(1454年)と明応の政変(1493年)―戦国時代はいつ始まったのか
4章 日本史の節目4 大津浜事件(1824年)―尊王攘夷論の確立、幕府の崩壊へ
5章 日本史の節目5 廃藩置県(1871年)―一日にして藩が消滅、政治権力は新政府に統一
6章 日本史の節目6 日比谷焼打ち事件(1905年)―大正デモクラシー、本格的政党内閣の時代、軍国主義へ
7章 日本史の節目7 ノモンハン事件(1939年)―日本の軍事政策の大転換。太平洋戦争へ
 
【著者】
河合 敦 (カワイ アツシ)。
 歴史研究家・歴史作家・多摩大学客員教授、早稲田大学非常勤講師。1965年、東京都生まれ。青山学院大学文学部史学科卒業。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学。歴史書籍の執筆、監修のほか、講演やテレビ出演も精力的にこなす。
 
【抜書】
●廃藩の申し出(p157)
 明治2年6月の版籍奉還の後、政府は、12月に吉井藩(1万石)、狭山藩(1万石)の廃藩願いを受け入れた。藩財政が逼迫していた。最初の廃藩。
 その後、盛岡藩、徳山藩、津和野藩、長岡藩など、十数藩の申請を受け入れた。
 鳥取藩、尾張藩、熊本藩などは、統一国家を作るべきだという観点から、廃藩を申し出た。
 
●日比谷焼き討ち事件(p183)
 1905年(明治38年)9月5日に勃発した日比谷焼き討ち事件で、警視庁第一部長の松井茂が警察官の抜刀を許可したことをきっかけに、怒った民衆によって警察署や交番200か所が襲撃された。翌日には、市電11台が焼き討ちにあった。
 ついに政府は、戒厳令を発令し、軍隊が出動して騒動は沈静化した。
〔 ただ、軍隊の圧倒的武力が大衆を制圧したのではない。命をかけて戦争を戦った兵士を敬愛するあまり、大衆が兵士との衝突を忌避したのである。警察とは対照的に、大衆は軍隊を尊崇していたのである。〕
 
(2021/8/16)NM
 
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尊皇攘夷 水戸学の四百年
 [歴史・地理・民俗]

尊皇攘夷―水戸学の四百年―(新潮選書)
 
片山杜秀/著
出版社名:新潮社(新潮選書)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-10-603868-6
税込価格:2,200円
頁数・縦:476p・20cm
 
 幕末の水戸藩が尊皇攘夷に突っ走るさまを、二代目藩主光圀から書き起こす。博覧強記に満ちた歴史評論である。「水戸学の世界地図」という題で、『新潮45』2015年8月号〜18年10月号、『新潮』2019年7月号〜20年8月号に連載された原稿を加筆・改題したもの。
 まるで司馬遼太郎の小説のような読み心地である。『翔ぶが如く』を彷彿とさせる筆致だ。
 
【目次】
第1章 水戸の東は太平洋
第2章 東アジアの中の水戸学
第3章 尊皇の理念と変容
第4章 攘夷の情念と方法
第5章 尊皇攘夷の本音と建前
第6章 天狗大乱
第7章 「最後の将軍」とともに滅びぬ
エピローグ 三島由紀夫の切腹
 
【著者】
片山 杜秀 (カタヤマ モリヒデ)
 1963年仙台市生まれ。政治思想史研究者、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。『音盤考現学』および『音盤博物誌』で吉田秀和賞、サントリー学芸賞を受賞。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。
 
【抜書】
●杮葺き(p39)
 水戸藩の上屋敷は小石川にあった。現在の小石川後楽園は、その屋敷の庭。
 慶安の江戸大地震(1649年)の時には、武家屋敷の瓦葺きをやめて杮葺きに改めるべきだという議論もあった。しかし、武家の権威と格式の維持が優先され、立派な瓦葺きを原則としたまま、幕末に至った。
 
●彰考館(p56)
 1657年(明暦3年)、駒込の水戸藩中屋敷に、『大日本史』編纂のための史局が設けられた。後に、彰考館と名付けられた。
 ちなみに『大日本史』という書名が決まったのは、徳川光圀の次の水戸藩主、綱條(つなえだ)のときである。
 
●碁盤太平記(p150)
 『仮名手本忠臣蔵』は、1748年(寛延元年)、大坂の竹本座で、人形浄瑠璃として初演された。竹田出雲らの合作。その後、歌舞伎にも移された。
 近松門左衛門『兼好法師物見車』、1706年(宝永3年)。討ち入りから4年後の浄瑠璃。『太平記』になぞらえ、浅野内匠頭を塩冶判官高貞に、吉良上野介を高師直に見立てて物語を作った。
 同『碁盤太平記』、1710年(宝暦7年)。こちらでは、架空の人物大星由良之介(大石内蔵助)も登場する。『仮名手本忠臣蔵』では、大星由良之助。
 
●加茂氏(p156)
 徳川家は、三河国加茂郡松平郷を本拠とする。加茂郡なので、先祖として加茂(賀茂)氏の流れを名乗ることもあった。
 賀茂氏は、古代出雲の豪族。先祖は、八咫烏に化身して神武天皇の東征を導いたとも伝えられる。
 賀茂氏の祖霊を祀るのが京都の賀茂神社で、葵祭が行われる。これが葵の御紋の由来だとする説もある。
 
●皇紀元年(p179)
 皇紀元年は、西暦紀元前660年。
 記紀の根底にある歴史観では、斉明天皇の崩御によって中大兄皇子が称制を始める西暦661年が、日本革命にとって特別な年として扱われる。五行十二支でいうと辛酉の年、中国古代の思想では革命の起こりやすい年とされる。さらに、21回もしくは22回の周期で、大変革がもたらされる、とも言われてきた。
 『日本書紀』では、661年を大変革の年とし、60✕22=1320年前のBC660年を神武天皇即位年すなわち皇紀元年とした。
 
●中央集権(p251)
 水戸学の総帥、立原翠軒は、大黒屋光太夫を日本に帰したロシアの意図を探るべく、蝦夷地に門弟の木村謙次を派遣した。水戸に戻って、1793年、密偵記録と意見具申を兼ねた『北行日録』を翠軒に提出した。大黒屋光太夫が、ロシア船で蝦夷地に帰還したのは1792年(寛政4年)。(p245)
〔 要するに木村は、天皇に委託された将軍の統べる農本主義的ユートピアとしての幕藩体制の永続をひたすら冀い、それを脅かすロシアから「豊葦原瑞穂国」の本体を守るべく、絶対国防圏として蝦夷地と千島と樺太を強力な軍隊の駐留地としなければならぬと主張するのだが、それを支えるエートスと費用と人数をみたすには、幕藩体制と農本主義ではうまく行かないという、大いなる矛盾にたどり着かざるをえない。僻地に膨大な軍事力を集中する鎮戍府をマネージするにはどうしても中央集権が必要なのである。それでこそ防人の時代や多賀城・胆沢城の時代が再現可能になる。ここに明治維新の芽も出てくる。中央集権国家と四民平等と国民皆兵の組み合わせである。〕
 
●弱兵と愚民(p267)
〔 とにかく、武家は都市生活によって弱兵化し、民衆は武家の課する負担と反現世的宗教によって愚民化する。天の義が通らなくなった世ゆえの慢性的戦乱状況を鎮め、天の義が相変わらず通らないままに天下泰平を続けようとするなら、武士を弱兵に、民衆を愚民にしておとなしく飼いならすのが上策である。徳川家康はそれを見事に成功させた。身も蓋もない言い方をすれば、徳川の平和は義なき弱兵と愚民の平和なのである。
 それで済んでいたのはなぜか。幸いにも外敵が来なかった。鎖国すると宣言すれば、それでもわざわざ力ずくで極東まで押しかけてくる西洋の国はなかった。西洋の航海術も海軍力もいまだはるか遠い日本近海でマキシマムなプレッシャーをかけるまでには発達していなかった。オランダに限って長崎を開港しておくと言えば、それで済んだ。一七世紀から一八世紀の世界情勢に救われていたからこその、弱兵と愚民の天下泰平であった。〕
 
●助川城(p294)
 斉昭は、1836年(天保7年)、現在の日立市助川に「助川城」と呼ばれる海防のための要塞を築いた。1824年(文政7年)の大津浜事件の現場からも近い。
 山野辺義視を長とする士卒200名が助川城勤務を命じられた。
 幕府に、蝦夷地と鹿島の統治を認められなかったので、領内に海防施設を作った。
 
●気になる人物
 佐々宗淳(さっさむねきよ)……水戸光圀の家臣。「水戸黄門」佐々木助三郎のモデル。
 小野言員(おのときかず)……徳川光圀の守役。「かぶき者」光圀改心のきっかけを作った。(p59)
 徳川斉脩(とくがわなりのぶ)……水戸藩主徳川家8代。
 堀田正睦(ほったまさよし)……阿部正弘の跡を継いだ老中首座。
 田沼意尊(たぬまおきたか)……田沼意次の曾孫。遠江相良藩1万石の藩主。第二次天狗党討伐軍の最高司令官。
 松平頼徳……三島由紀夫の曾祖母の兄。常陸宍戸藩主。1万石。水戸徳川家の「副将軍」。
 
(2021/8/14)KG
 
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文部科学省 揺らぐ日本の教育と学術
 [社会・政治・時事]

文部科学省-揺らぐ日本の教育と学術 (中公新書 2635)
 
青木栄一/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2635)
出版年月:2021年3月
ISBNコード:978-4-12-102635-4
税込価格:990円
頁数・縦:288p・18cm
 
 2001年、文部省と科学技術庁が統合されて文部科学省が発足した。2004年には、国立大学が国立大学法人として文科省から分離し、2010年には高校無償化が開始された。
 文部省から文科省への変容と、それでも変わらない部分など、文科省の現状、そして来し方と行く末を探る。様々な問題を抱えてはいるものの、新しい時代の日本の教育行政をつかさどってほしいという著者の思いが伝わってくる。
 
【目次】
序章 「三流官庁」論を超えて
第1章 組織の解剖―統合は何をもたらしたか
第2章 職員たちの実像
第3章 文科省予算はなぜ減り続けるのか
第4章 世界トップレベルの学力を維持するために
第6章 失われる大学の人材育成機能
終章 日本の教育・学術・科学技術のゆくえ
 
【著者】
青木 栄一 (アオキ エイイチ)
 1973年、千葉県生まれ。1996年、東京大学教育学部卒業。2002年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。国立教育政策研究所教育政策・評価研究部研究員などを経て、2010年より東北大学大学院教育学研究科准教授。専攻・教育行政学、行政学。著書『教育行政の政府間関係』(多賀出版、2004、日本教育行政学会学会賞受賞)、『地方分権と教育行政―少人数学級編制の政策過程』(勁草書房、2013、日本教育経営学会学術研究賞受賞)など。
 
【抜書】
●指定国立大学法人制度(p66)
 国立大学の種別化の第3段階。研究大学のなかでも、世界の有力大学と伍していく大学として指定。
 2017年6月……東北大学、東京大学、京都大学。
 2018年……東京工業大学、名古屋大学(3月)、大阪大学(10月)。
 2019年……一橋大学(9月)、筑波大学、東京医科歯科大学(10月)
 
●授業料(p150)
 国立大学の授業料収入は全収入のおよそ2割。
 私立大学は7割以上。
 
●67万人(p204)
 全国の自治体の小中学校教員は67万人。
 2020年、地方公務員276万人のうち、教育部門全体では102万人(約37%)。
 
(2021/8/11)NM
 
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内側から見た「AI大国」中国 アメリカとの技術覇権争いの最前線
 [社会・政治・時事]

内側から見た「AI大国」中国 アメリカとの技術覇権戦争の最前線 (朝日新書)  
福田直之/著
出版社名:朝日新聞出版(朝日新書 814)
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-02-295124-3
税込価格:935円
頁数・縦:269p・18cm
 
 AI大国となりつつある中国の実態を、長く特派員を務めたジャーナリストが内側から伝える。
 スマートフォン決済や、ビッグデータを用いた芝麻(ゴマ)信用、AIによる顔認証を活用した監視カメラなど、最先端をゆく中国社会を活写する。一方、最先端の半導体を外国に依存するなど、危うい面もあるようだ。それも、中国が本気になって研究開発に資源を投入すれば、あっという間に解決してしまうかもしれない。
 
【目次】
第1章 AI大国が突っ走る
 エクサバイトの世界
 新たな時代の「産油国」
  ほか
第2章 監視社会
 人びとを追う無数のカメラ
 向上する治安と人びとのモラル
  ほか
第3章 中国技術のアキレス腱
 半導体を狙い撃ち
 米国を震撼させた男
  ほか
第4章 社会主義下のイノベーション
 技術のリスクに対する楽観
 「計画経済が大きくなる」
  ほか
第5章 ニューエコノミーの旗手たち
 「スカウター」を作った男呉斐
 武漢で活躍した肺炎検知AI 陳寛
  ほか
 
【著者】
福田 直之 (フクダ ナオユキ)
 1980年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。2002年朝日新聞社入社。名古屋、東京で経済記者。その間、欧州ジャーナリズム・センター研修派遣、北京大学で中国語研修。17年4月~20年8月北京特派員。現在、東京で経済記者を務めている。
 
【抜書】
●中関村(p80)
 中国のシリコンバレーと呼ばれる。
 北京市北西部にある。精華大学や北京大学などの研究機関に加え、内外のIT企業が拠点を置く。
 
●エコノミック・ステイトクラフト(p151)
 ES。経済を活用して地政学的国益を追求する手段。
 米中による覇権争いでは、ESが多用されており、経済と安全保障を深く結びつけて考える経済安全保障が強く意識されている。
 たとえば中国は、劉暁波氏のノーベル平和賞に抗議してノルウェーからのサーモン輸入を止めた。尖閣諸島をめぐる問題では、日本へのレアアース輸出を止めた。
 
(2021/8/11)NM
 
〈この本の詳細〉


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