SSブログ

宇宙を解く唯一の科学熱力学
 [自然科学]

宇宙を解く唯一の科学 熱力学
 
ポール・セン/著 水谷淳/訳
出版社名:河出書房新社
出版年月:2021年6月
ISBNコード:978-4-309-25428-9
税込価格:2,420円
頁数・縦:341p, 39p・20cm
 
 熱力学発展の200年を、関係の深い科学者を中心にたどる科学史。蒸気機関の効率化を目指した理論が、コンピュータの発明や、宇宙の謎の解明にまで行き着く。
 物理学に関する説明にはあまり理解できなかった部分もあるが、科学者たちのドラマとして面白く読めた。
 
【目次】
第1部 エネルギーとエントロピーの発見
 イギリス旅行―蒸気機関からすべては始まった
 火の発動力―カルノー、熱力学を拓く
 創造主の命令―ジュールの歴史的実験
  ほか
第2部 古典熱力学
 物理学の最重要問題―ヘルムホルツとエネルギーの謎
 熱の流れと時間の終わり―クラウジウスと熱力学の第一法則・第二法則
 エントロピー―すべてを支配する法則
  ほか
第3部 熱力学のさまざまな帰結
 量子―プランクの変心
 砂糖と花粉―アインシュタイン、熱力学に魅了される
 対称性―ネーターの定理、アインシュタインの冷蔵庫
 
【著者】
セン,ポール (Sen, Paul)
 ドキュメンタリー作家。TVシリーズ『Triumph of the Nerds』などの制作で知られる。ケンブリッジ大学で工学を学んでいたときに熱力学と初めて出合う。現在は、Furnace社のクリエイティヴ・ディレクターとしてBBSの科学番組を多数制作。2016年には、『Oak Tree: Nature’s Greatest Survivor』で英国王立テレビ協会賞を受賞。
 
水谷 淳 (ミズタニ ジュン)
 翻訳家。訳書多数。
 
【抜書】
●ケルヴィン(p92)
 1954年、パリ近郊のセーヴルで開かれた第10回国際度量衡総会で、絶対温度スケールにウィリアム・トムソンを称えた名称を付けることが決定した。
 トムソンはケルヴィン卿という称号で世に知られていたため、その単位は「ケルヴィン」と命名された。
 最新の測定によると、摂氏マイナス273.15度が0ケルヴィンに相当する。
 
●ルドルフ・クラウジウス(p96)
 ΔS≧0……Δ(デルタ)は変化を表す。Sはエントロピーを表す。
 1865年、クラウジウスは15年前の論文で最初に示した熱力学の二つの法則を改めて取り上げた。Kraftの代わりに「エネルギー」という言葉を使い、「エントロピー」という言葉を付け加えた。
 1. 宇宙のエネルギー量は一定である。
 2. 宇宙のエントロピーの量は最大量に向かって増えていく。
 (ここでいう「宇宙」とは、閉じている(周囲から切り離された)系という意味である。しかし我々が住むこの宇宙の外側には何もないので、実際の宇宙のエネルギーの量も変化しないし、エントロピーも増えていく。)
 
●ラガー・ビール(p148)
 19世紀半ばに、ジェイムズ・ハリソンはスコットランドからオーストラリアに移住した。
 帰化先の国の暑さが堪えたハリソンは、1日何トンもの氷を作れる装置を開発した。現代の冷蔵庫の原型。水を入れる容器の周りにコイル状に管を巻き付け、蒸気動力を使ってその管に液体のエーテルを送り込む。管の中でそのエーテルが蒸発することで、容器内の水が氷に変わる。
 ラガー・ビールは、摂氏0度近い低温で発酵させなければならない。人工的に作った氷が大量に手に入ることで、暑い夏でも醸造ができるようになった。
 
●ジョサイア・ウィラード・ギブズ(p156)
 熱力学の二つの法則を以下のように言い換えた。
  第一法則:宇宙に存在するエネルギーの量は一定である。
  第二法則:宇宙のエントロピーは増えていく。
 さらに、二つの法則を一つの新たな法則に言い換えた。
  エネルギーが流れることで、宇宙はエントロピーを増大させる。
 
●現代物理学(p188)
 1900年に発表した論文で、マックス・プランクは次のように述べた。
 「放射の電磁気理論に確率論的考察を組み込まなければならなかった。その確率論的考察が熱力学の第二法則において重要であることは、もともとL・ボルツマン氏が発見した事柄である。」
 振動する電子によって吸収・放射されるエネルギーの塊を、「量子」と名付けた。量子力学の誕生。
 1900年の論文は、物理学の画期。プランク以前の物理学は「古典物理学」、以後は「現代物理学」と呼ばれている。
 〔しかし、ボルツマンの果たした役割はかなり軽んじられているといえる。自らの研究が量子革命に重要な役割を果たしたことをいっさい認められずに、量子以前の科学者と十把一絡げにされてしまっているのだ。〕
 
●情報通信に必要なエネルギー(p222)
 グーグル社の2018年の電力消費量は1000万メガワット時を超えた。リトアニアなどの小国とほぼ同じ量。
 各国のデータセンターで世界中の電力の約1%が消費されている。
 情報通信技術による二酸化炭素排出量は、世界中の二酸化炭素排出量の2%以上。航空産業におおよそ匹敵する。
 2030年には、情報通信産業の電力消費量が世界中の電力の20%に達するという予想もある。
 
●万能機械(p265)
 決定問題……あらゆる数学的命題について、それが真かどうかを自動的に決定する方法は存在するか、という問題。ある命題について、「それは偽だ」と言い切れれば、証明しようと無駄な努力を重ねずに済む。「真だ」と言い切れれば、証明に取り組む価値も出てくる。ゲッティンゲン大学で女性数学者エミー・ネーターの師だったダフィット・ヒルベルトが1928年に示した。
 アラン・チューリングは、決定問題に対する答えとして、「万能機械」というものを思い浮かべた。この万能機械は、人間に解けるあらゆる数学的問題を解くようプログラムすることができる。つまり、チューリングは、ソフトウェアを変えるだけで様々な作業に転用できるハードウェアというものを思いついた。そして、そのような万能機械を使ってあらゆる数学的命題の真偽を検証することは不可能であり、ヒルベルトの疑問への答えは「ノー」であることを証明した。
 チューリングの万能機械は、現代のコンピュータを支える根本原理と見なされている。
 
(2021/10/17)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ: