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進化を超える進化 サピエンスに人類を超越させた4つの秘密
 [自然科学]

進化を超える進化 サピエンスに人類を超越させた4つの秘密 (文春e-book)
 
ガイア・ヴィンス/著 野中香方子/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2022年6月
ISBNコード:978-4-16-391553-1
税込価格:2,750円
頁数・縦:404p・20cm
 
 火、言葉、美、時間が、人類を他の生物を超える存在へと押し上げた。
 博覧強記の縦横無尽な知識に恐れ入った。
 
【目次】
序章 人間がいかに生物学的人類を超える種となったかについての物語へようこそ
創世記
第1部 火
第2部 言葉
第3部 美
第4部 時間
 
【著者】
ヴィンス,ガイア (Vince, Gaia)
 サイエンス・ライター、作家。『ネイチャー』誌、『ニューサイエンティスト』誌のシニア・エディターを歴任。『ガーディアン』、『タイムズ』、『サイエンティフィック・アメリカン』などの新聞・雑誌に寄稿する。60ヶ国以上を歴訪し、3ヶ国に暮らした。現在はロンドンを拠点とし、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの人新世研究所のシニア・リサーチ・フェローも務める。2014年のデビュー作『Adventures in the Anthropocene』(『人類が変えた地球 新時代アントロポセンに生きる』小坂恵理訳、化学同人)は英国王立協会サイエンス・ブック賞を女性として初めて受賞。
 
野中 香方子 (ノナカ キョウコ)
翻訳家。お茶の水女子大学卒業。
 
【抜書】
●好色(p36)
〔 およそ八万年前、現生人類の最初の少数の集団がアフリカから脱出した。当時、ネアンデルタール人は、シベリアからスペイン南部までの広域で繁栄していた。わたしたちの遺伝子の中には彼らの痕跡がかすかに残っている。なぜならわたしたちの祖先は、他の人類に出会うたびに交配していたからだ。わたしを含め、現代のヨーロッパ系の人は遺伝子の中にネアンデルタール人のDNAを持ち、ヨーロッパではネアンデルタール・ゲノムの二〇パーセントが今も受け継がれている。おそらく、それらの遺伝子がヨーロッパでの生存を助けたからだろう。その他の古代の人種も、現生人類の中に遺伝子を残している。オーストラリアの先住民はデニソワ人に由来する遺伝子を持つが、デニソワ人についてわかっていることはきわめて少ない。一方で、まだ確認されていない古代の人種が、わずか二万年前のアフリカ人を含め世界中の人々の遺伝子に影響を与えている。わたしたちの祖先が、適応に役立つ遺伝子をさまざまなホミニンからこれほど多く集めることができたのは、おそらく好色だったからで、その性質は、祖先たちが世界のさまざまな環境に広がっていくのを助けたにちがいない。〕
 
●ミツオシエ(p54)
 〔サハラ砂漠以南のいくつかのコミュニティは、ミツオシエという小さな鳥と協力する。この鳥は人々の呼びかけに応えて、彼らをハチの巣に案内する。そこで人間は巣を煙でいぶしてハチを追い払い、人間も鳥もハチミツを得る。一部の狩猟採集民では、そうやって得たハチミツのカロリーが摂取カロリーの一五パーセントを占める。〕
 
●煙(p57)
〔 一部のサピエンスは、中東からはるか彼方のオーストラリア(当時はニューギニアとつながっていた)に渡った。六万年ほど前に、おそらく大規模な山火事の煙に惹かれて、彼らは航海に乗り出した。それは外洋を一〇〇キロメートルも渡る、命知らずの船旅だった。煙があるなら火があり、火があるなら植物に覆われた陸があり、そこには豊穣で(部族間の争いのない)平和な世界が広がっている、と彼らは夢見た。それは驚くほど進化した種による、途方もない旅だったが、そうするだけの価値はあった。最初のオーストラリア人になった彼らは、巨大な有袋類や鳥類や爬虫類がいて、先住者はいない、広大な世界を発見したのだ。〕
 まだ火を自ら作り出せなかった太古の人類にとって、山火事などによって発生する火は貴重だった。
 
●1時間(p75)
 火を使った調理によって、人間が食事にかける時間は1日1時間程度。
 チンパンジーはおよそ5時間かけて咀嚼する。
 
●脳の減少(p77)
 過去1万年の間に、人間の脳の大きさは約10%減少した。体格との比率では3~4%減少した。
 小さな集団では生き残れなかったあまり知的でない人々を、大きくなった社会が「抱えられる」ようなったから?
 〔脳の縮小は家畜動物にはよくあることなので、わたしたちの極端な社会性や協調性に関連した遺伝的変化なのかもしれない。知的な人々ほど子供が少ない傾向にあることは注目に値する。おそらく知性は、遺伝子プールの中で薄められているのだろう。いずれにしてもわたしたちは、蓄積された知識を文献やデバイスという外部の脳に移すことが増えているので、生き延びるために、それほど賢い脳を必要としないのだろう。〕
 
●完全なコピー(p88)
 ドイツのマックス・プランク研究所の進化心理学者マイケル・トマセロが行った実験。
 おやつの入った仕掛け箱を人間の幼児とチンパンジーに与えた。その箱は、つまみを押したり引いたりといった一連の手順を経なければ開かない。
 トマセロは、幼児とチンパンジーそれぞれの目の前で、その手順をやって見せた。その動作には、明らかに意味のない動作(最後の手順の前に、自分の頭を3回たたく)が含まれていた。
 幼児もチンパンジーも動作を真似ておやつを得ることができたが、頭をたたいたのは幼児だけだった。チンパンジーは、この動作はおやつを得ることと無関係だと見抜いて省略した。
 人間の幼児は、自分に教えてくれる人を信頼し、どの手順も何か理由があるはずだと思うので、過剰に模倣してしまう。実のところ、目的がはっきりしない手順ほど、幼児は慎重かつ正確に模倣した。
 
●トスカーナ語(p125)
 トスカーナの詩人ダンテ・アリギエーリは、ラテン語ではなくトスカーナ方言で『神曲』を書いた。
 以来、トスカーナ方言がイタリアの母国語になったと言われている。
 
●言語音(p142)
 東南アジアのような、温暖で湿潤で、深い森に覆われた地域で話される言語は、母音が多く、子音は少なく、単純な音節で構成されている。
 熱帯雨林とは無縁の英語とグルジア語には子音が多い。
 標高の高いところに住む人々の言語は、子音で空気を強く排出する単語が多い。
 乾燥した砂漠のような地域では、声調言語はほとんど存在しない。空気が乾燥していて声帯の動きが制限されるから。
 声調言語……北京語やベトナム語のように、声の高低が異なると単語の意味が異なる言語。
 
●大麻(p245)
 ヤムナヤ人は、色白で黒い瞳だった。
 大麻を吸っていた。ユーラシア大陸で初めてマリファナの取引を行った。
 
●カゴ(p277)
 フランスの不可触賤民。
 何百年もの間、下等な階級として差別され、カゴテリという辺鄙な地区に隔離されて暮らした。
 
●ピンゲラップ島(p284)
 南太平洋の島。比較的孤立しており、外部の人との結婚を禁じる社会規範があった。
 1775年、壊滅的な台風のせいで島民の大半が死滅し、20人しか生き残らなかった。近親交配が繰り返されたせいで、ある遺伝子の変異が蓄積され、島の人口の10%が重度の色覚異常で白と黒以外の色が見えない。
 この変異を持つ人は、昼間は不自由な思いするが、夜になると正常な視力の人よりもよく見えるようになる。そのおかげで夜の漁をうまくこなし、それがこの遺伝子が残っている理由だと考えられている。
 
●ホムニ(p347)
 Homo omnis、集合性人類。
〔 本書では、遺伝子、環境、文化という三つの進化を通して、人間が常に自らを作り変えてきたこと、そして、人間がいかにして自らの運命を変えられる比類ない種になったかを述べてきた。今や、わたしたち全員が全く例外的なものになろうとしている。人間は超生物になりつつある。これをホモ・オムニス(集合性人類)、略してホムニと呼ぼう。〕 
 
(2022/8/6)NM
 
〈この本の詳細〉

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