SSブログ

新中国論 台湾・香港と習近平体制
 [社会・政治・時事]

新中国論: 台湾・香港と習近平体制 (1005;1005) (平凡社新書 1005)
 
野嶋剛/著
出版社名:平凡社(平凡社新書 1005)
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-582-86005-4
税込価格:1,056円
頁数・縦:283p・18cm
 
 台湾と香港の民主主義の現状を論じ、両者に介入しようとする習近平体制の中国を批判する。
 
【目次】
第1章 「台湾化」と「香港化」の狭間で
第2章 なぜ台湾と香港は中国にとって「特別」なのか
第3章 中国指導者にとっての台湾・香港問題
第4章 台湾・香港にとっての「中国」と本土思想
第5章 失われた「文化中国」の連帯
第6章 グローバル化する台湾・香港問題
第7章 日本は台湾・香港にどう向き合うべきか
第8章 台湾・香港は「坑道のカナリア」か
付録 2021年の「歴史決議」で記された台湾・香港問題
 
【著者】
野嶋 剛 (ノジマ ツヨシ)
 1968年生まれ。ジャーナリスト。大東文化大学社会学部教授。上智大学文学部新聞学科卒業後、朝日新聞社に入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長、AERA編集部などを経て、2016年4月に独立。
 
【抜書】
●自古以来(p40)
 台湾について、中国憲法でその序文に「台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部分である。祖国統一の大業を完成することは台湾同胞を含めた全中国人民の神聖な職責である」と書かれている。
 その根拠として、1993年、国務院台湾事務弁公室が公表した「台湾問題と中国の統一に関する白書」に以下の記述。
 ・台湾は中国大陸の東南縁に位置し、中国第一の島であり、大陸とは分割できない全体を構成している。
 ・1700年あまり前の三国時代の『臨海水土志』に記述がある。歴史上もっとも古い台湾の文字だ。
 ・紀元3世紀と紀元7世紀に、三国の孫呉と隋王朝が万単位の人員を派遣している。
 ・17世紀になると、中国からの移民が台湾に大量に入った。
 ・宋王朝は兵を派遣して澎湖諸島を守った。
 ・1662年に鄭成功が台湾に「承天府」を設置した。
 ・1684年、清朝が台湾府を設置した。
 ・1885年、清朝が台湾省を設置し、順撫(じゅんぶ)を置いた。
〔 ただこれだけでは、「古から」台湾は中国の領土であるとするには十分ではない。
 中国に対する甘めの解釈でも、その起点は台湾の一部支配を始めた1684年の台湾府設置であるし、全土を統治対象として認識したという意味では、1885年の台湾省の設置を起点とすべきだろう。そうだとすれば「古から」と言いきるのはかなり厳しい。このため、中国の学会では、考古時代から大陸からの人類移動が起きていたことを立証しようとする研究も発表され、できるだけ「古から」を補強する材料を積み重ねようとしている。領土概念がない時期に「中国の領土」だったと主張する国際法上の意味があるわけではない。実際のところ、台湾では日本の統治が1895年から1945年まで続き、1945年から現在までは「中華民国」が統治しているので、中華人民共和国は1日たりとも台湾を統治した経験はない。〕
 
●毛沢東(p76)
 毛沢東は、台湾独立を支持していた。
 1936年、米国人ジャーナリストのエドガー・スノー(『中国の赤い星』の著者)との対話。「我々は中国の失われた領土を回復して独立したあと、もし朝鮮人が日本帝国主義の鎖をたちきりたいときは、我々は彼らの独立闘争に熱のこもった援助を与えるだろうし、台湾についても同様である」。
 1947年、人民解放軍の機関紙「解放軍報」にて。「我々中国共産党が指導する武装部隊は、台湾人民が蒋介石と国民党に反対する闘争を完全に支持する」「我々は台湾の独立に賛成し、台湾が自ら求める国家を作り上げることに賛成する」。
 
●我が道を行く(p92)
〔 すべてにおいて「我が道を行く」スタイルの習近平は自分たちの主張を前面に出し、聞き入れるかどうかは相手次第で、聞き入れれば大事にするし、聞き入れなければ敵視する、という行動様式が目立つ。〕
 
●完全統一(p93)
〔 中国にとっての「完全統一」とは、中華人民共和国建国時にまだ支配下になかった新疆ウイグル、チベット、海南島、台湾をすべて「解放」することを評して使われた言葉だった。その後、中国の公式文章などでは「完全統一」と「平和的統一」はしばしば混用されて使われてきたが、台湾に与える印象としては「平和統一」のほうがはるかにソフトで、胡錦涛時代以前はあまり「完全統一」が使われなかった。〕
 習近平が「完全統一」を多用するようになったは2021年から。7月の中国共産党100年のとき、「台湾問題を解決し、祖国の完全統一を実現することは中国共産党が諦めることのない歴史的任務だ」と述べている。
 
●本土化(p104)
 台湾は、日本時代に「日本化」を経験し、戦後の国民党統治下で「中国化」を経験し、李登輝以後に「台湾化(本土化)」を経験している。
 〔100年あまりの間に、日中台の間をさまよった台湾社会のアイデンティティ経験は、まさに東アジアの近代の激動を物語ってくれる貴重な生きた資料だ。台湾の人々の強靭なメンタリティの根底には、こうした変化への適応を恐れないマインドがあると痛感させられる。〕
 
●法理台独(p111)
 もともと、台湾における独立派は、中華民国を否定していた。中華民国は台湾を統治する正統性がない。
 サンフランシスコ講和条約で日本は台湾の放棄を表明し、中華民国は一時的に接収しただけ。国際条約などで中華民国への台湾の帰属は定められていないと考える。「国際法理論」から台湾独立を推進する根拠とされ、「法理台独」と呼ばれている。
 
●神社復元(p121)
 民主化によって解放された台湾の人々は、中華民国一辺倒だった歴史の見方を変えた。鄭成功のものも、清朝のものも、列強のものも、日本のものも、「台湾史の一部」として尊重し、保存するようになった。
 台湾の各地で、国民党政権によって破壊された神社の保存、復元運動が起きている。遊歩道を直し、鳥居を再現している。
 
●陳雲(p122)
 香港本土思想のイデオローグ。
 香港は、西洋と東洋の間に生まれた特殊な「城邦(都市国家、都会)」。民主主義を実践していた古代ギリシャのポリスのような自治機能を有する都市国家である。主権国家ではないが、中国が民主化を果たしていくなかで、香港はその中心となっていくと唱えた。
 
●孔子79代(p132)
 孔垂長。孔子直系79代の子孫。台湾にて、「大成至聖先師奉祀官」という世襲官職に就いている。
 蒋介石率いる国民党とともに大陸から渡ってきた孔家の人物。
 台湾こそ、儒教が受け継がれている地、中華文化の担い手?
 
●金馬奨(p143)
 台湾の『アカデミー賞」ともいわれる映画祭。中国には金鶏奨、香港には金像奨があるが、三者の中で最も長い歴史と権威を誇る。両者と異なり、中国でも香港でも、東南アジアでも、中国語を用いる「華語映画」であれば審査対象となる。
 金馬とは、金門島、馬祖島に由来。中国への大陸反攻を想起させる政治的な意図が名前に込められた。
 2018年11月17日、金馬奨授賞式で、「最優秀ドキュメンタリー賞」を受賞した傅楡(フー・ユー、36歳、女性監督)が「いつか、私たちの国家が、本当に独立した個体としてみてもらえますように。これは台湾人に生まれた私にとって最大の願いです」とスピーチ。受賞作は『私たちの青春、台湾』(邦題)。
 中国の映画人のほとんどは、授賞式式典終了後のパーティーを欠席した。
 以降、「開かれた金馬奨」は、台湾の作品を中心とする映画祭へと変質することを余儀なくされた。
 
(2022/8/17)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ: