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いのちの科学の最前線 生きていることの不思議に挑む
 [自然科学]

いのちの科学の最前線 生きていることの不思議に挑む (朝日新書)
 
チーム・パスカル/著
出版社名:朝日新聞出版(朝日新書 868)
出版年月:2022年6月
ISBNコード:978-4-02-295179-3
税込価格:935円
頁数・縦:236p・18cm
 
 日本における生命科学の最先端の研究を、「ディープに、しかも分かりやすく」紹介する。
 
【目次】
Ⅰ 進化の衝撃
 1 酵素の研究が解く「性」のグラデーション――立花誠(大阪大学大学院生命機能研究科教授)/(取材執筆)寒竹泉美
 2 いかにして腸内細菌はヒトと「共生」するのか――後藤義幸(千葉大学真菌医学研究センター感染免疫分野微生物・免疫制御プロジェクト准教授)/(取材執筆)萱原正嗣・大越裕
 3 脳のない生物にも知性はあるのか――中垣俊之(北海道大学電子科学研究所教授)/(取材執筆)竹林篤実
Ⅱ 細胞のドラマ
 4 死のメカニズムを生きる力に変える――清水重臣(東京医科歯科大学難治疾患研究所教授)/(取材執筆)萱原正嗣・竹林篤実
 5 敵にも味方にもなる免疫機構を見極める――竹内理(京都大学大学院医学研究科教授)/(取材執筆)大越裕
 6 老いの制御の今と未来――本橋ほづみ(東北大学加齢医学研究所教授)/(取材執筆)森旭彦
 7 分子心理免疫学で「病は気から」を解明する――村上正晃(北海道大学遺伝子病制御研究所教授)/(取材執筆)平松絃実・寒竹泉美
Ⅲ コンピュータで解く生命
 8 遺伝子研究が導く創薬のかつてない領域――中谷和彦(大阪大学産業科学研究所教授)/(取材執筆)竹林篤実
 9 タンパク質探究で生命現象の源へ――中村春木(大阪大学名誉教授)/(取材執筆)大越裕
Ⅳ こころといのち
 10 身体の外にも広がりゆくこころ――河合俊雄(京都大学人と社会の未来研究院教授)/(取材執筆)寒竹泉美
 
【著者】
チーム・パスカル
 2011年に結成された、理系ライターのチーム。大学などの研究機関や幅広い分野にまたがるBtoBメーカーの理系の言葉を、専門的な知識を持たない人にも分かる言葉で届ける翻訳を得意とする。メンバーは、理系出身者と文系出身者の両方で構成され、ノンフィクションライター、ビジネスライター、テックライター、小説家、料理研究家、編集者、メディアリサーチャーなど、多様なバックグラウンドを持つ。サイエンスを限定的なテーマとして扱うのではなく、さまざまな分野と融合させる、多様なストーリーテリングを目指している。
 
【抜書】
●ゲートウェイ反射(p150、村上正晃)
 多発性硬化症は、脳と脊髄の神経細胞の髄鞘が障害されて、視力や運動能力や認知機能など、様々なところに症状が現れる。自己免疫疾患。
 本来、脳や脊髄には免疫細胞が入れない。血管脳関門という仕組みのため、大きな分子は通れないようになっている。
 しかし、マウスの静脈に自己の髄鞘を攻撃する自己反応性免疫細胞を注射したところ、多発性硬化症を発症。第5腰髄にある血管に免疫細胞が集まっており、そこが入口になっていた。この血管は、ヒラメ筋からの刺激を受ける場所。ヒラメ筋は、重力に対して姿勢を保つために働く筋肉。
 ゲートウェイ反射……第5腰髄にできたような「入口」をゲートウェイ反射と名付ける。特定の感覚神経に入力された刺激をきっかけに、特定の血管に入口ができ、本来侵入しないはずの血液中の免疫細胞が組織に侵入した。
 宇宙マウス(無重力状態)では、第5腰髄にゲートウェイ反射は現れなかった。
 脚を吊ったマウスの上腕三頭筋を電気刺激すると、今度は第3頸髄から第3腕髄に入口が形成された。
 
●IL-6アンプ(p159、村上正晃)
 炎症が起きている場所には、血液中から様々な免疫細胞が集まってくる。組織の細胞からも様々な因子が出る。
 このような因子とIL-6(インターロイキン6)が互いに増幅しあい、組織の細胞の中で正のフィードバックが起こり、微小炎症でも慢性炎症につながる可能性がある。
 たくさんの病気が、IL-6アンプによって引き起こされている。自己免疫疾患だけでなく、メタボリック症候群、精神疾患、認知症、アトピー、アレルギー感染症、肺炎、胃炎、皮膚炎、など。まだ炎症が小さいうちに発見して慢性炎症になるのを防ぐことができれば、ほとんどの病気の予防につながる可能性がある。
 
●日本蛋白質構造データバンク(p192、中村春木)
 PDBj(Protein Data Bank Japan)。2000年7月に設置。世界に五つしかないタンパク質データバンクを維持管理する国際研究機関のひとつ。日々、タンパク質の立体構造データを登録・編集し、情報の提供を行っている。構造情報は、研究者・教育者・学生・企業を問わず、誰でも無償で利用することができる。
 2021年現在、PDBには約18万件が登録されている。人体を構成するタンパク質はおよそ6万種。そのうち7割程度の構造をカバーしている。
 PDBjの設立の中心となったのが、中村春木。日本のタンパク質研究の「メッカ」、大阪大学蛋白質研究所(1958年設立)の所長を2014-18年に務めた。
 タンパク質は、自然界に約10万種類存在する、と言われている。
 
●インシリコ創薬(p202、中村春木)
 タンパク質の構造変化をコンピュータでシミュレートし、創薬に応用すること。病気の原因となるたんぱく質の立体構造をコンピュータ上に再現し、それにうまく結びつく物質を、シミュレーション計算によって何百万種類に及ぶ候補の化合物の中から選び出し、合成・設計する。
 1980年代に萌芽があり、現在では創薬の中心技術となりつつある。
 インシリコ(in silico)とは、「コンピュータ内で」という意味。「in vivo(生体内で)」、「in vitro(試験管内で)」との対比。
 
●主体(p215、河合俊雄)
 発達障害を発症する人の多くは、「主体」が弱いという特徴を持っている。
 「発達障害といってもいろいろですが、その多くは『主体』が弱いという特徴を持っています。発達障害や発達障害的な特徴に悩む人が増えてきたのは、時代が変化したからではないでしょうか。終身雇用が当たり前で外から決められた『枠』がしっかりあった時代は、主体性が欠けていても問題にはなりませんでした。コミュニティもしっかり存在して、その中での役割が与えられていたからです。誰と結婚して、どの仕事をするかが、コミュニティの中で必然的に決まっていた。そうなると、主体性なんてなくても困らないわけです。しかし、現代は自然発生的なコミュニティが減って、自分で判断する場面が多くなりました。個人の自由度が増してきた現代だからこそ、主体性の問題があぶり出されていると考えています」
 
(2022/8/15)NM
 
〈この本の詳細〉


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